【ショートショート】焼きたてのパンと紅茶の香り~風まかせ文芸部
※ 風まかせ文芸部様に参加させてもらいました。
前作『線香花火と夏の音』の続きです。
本文
ふわっとした着心地の水色のキャミソール。
私の一番のお気に入り。
何となくそれに着替えて、軽く上着を羽織る。
今日は気持ちのいい朝。
カーテンを開けた正面の窓の端から遠くの緑の葉っぱが空中にそよいでいるのがが見えた。
この窓からは見えないが、少し歩けば近所にはパン屋さんがある。
このパン屋さんは私のお気に入りなのだが、毎日チェックしているインスタに交じってこのパン屋が流れてきた。
ショーケースにはどれもこれもおいしそうなパンたちが並んでいる。
『今日の朝はパンにしようかな。』
パンの匂いがここまで届いてきそうだった。
ここから歩いて5分なのに。
歩くのが面倒でいつも車で行ってしまうのが、反省点だ。
少し歩きたいのに、体がなかなか言うことを聞いてくれない。普段の仕事疲れのせいだろうか。今日こそは散歩がてら歩いて行こう。なんたって、たった5分の距離だから。
扉を開けると焼きたてのパンの香ばしい香りが私を迎えてくれる。クリームパンにメロンパン、クロワッサン、多種多様なパンが目の前に並んでいる。その中でも私の一番のお気に入りはシナモンアップルだ。
シナモンとリンゴの絶妙に混ざった甘酸っぱい香りに頬っぺたが緩む。口の中に入れたときに広がる深厚な香りを想像すると、涎が出てきそうだった。
友達から最近頂いたアールグレイの茶葉がある。一緒に口に含んだらどんな味がするんだろう。
『おいしいだろうか?』
美味しいに決まっているよね。
好きな人と最近ラインを交換出来たのに、返事がなかなか返って来ない。読んではいるみたいだけど。これは、やっぱり駄目なのかな。彼はまだ大学生だし、私は社会人。生活環境が違うのかも。
家に帰り、やかんでお湯を沸かす。専用の紅茶ポットで入れるアールグレイは格別だ。
暫くぶりに、紅茶ポットを探すと、偶然戸棚から印鑑が出て来て、ビックリした。印鑑なんて滅多に使わないから、すっかり忘れていたのに。でも予想外に見つけられて素直にうれしい自分がいる。
お湯が沸いたら、すぐに火を止めるのがおいしく入れるポイントだ。
自分が落ち着く場所に座り、紅茶を一口飲む。口いっぱいに広がるアールグレイの香りが、少しずつ肌身に浸透し私を癒してくれる。この認め印だって、まだまだ使えそうだし・・・。
ほんのり、喉の憂いを感じながら、焼きたての香り漂うパンの袋を手に取る。袋を開けた途端に部屋中に広がるシナモンアップルの香り。特にシナモンの私を擽るスパイシーな刺激的な香りに夢見心地な気分になった。
スマホの着信音が鳴る。暫くぶりの彼からラインだった。
了
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前作『線香花火と夏の音』です。↓
興味のある方は是非読んでみてくださいね。
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