終わりのその先 第8話【お仕事小説】
〔これまでのあらすじ〕
部長から係長に降任して市に残るか、退職するかで悩んだ東郷秀樹は、退職を選び、人材登録サイトで就活を始めた。
息子の翔馬は、やっと就職した会社を退職しゲームで奇声を上げている。
妻尚子の職場である書店で、店長と妻が親密に接しているのを見た秀樹は、昔好きだった百合華と再会し誘うが拒まれる。
保護課長の下村からはパワハラで訴えられ、保護課の部下が起こした横領事件の監督責任で、減給の懲戒処分を受けることとなった。
大学4年の娘の里菜は就活しておらず、留学したいと言い出す。
人材登録サイト
『プラチナ・ビズ』を通して2社にエントリーした、その2日後のことだった。
「ファシリティ管理」という会社の仲介をしている「エージェントHR」から、秀樹にメッセージが届いた。
この度は、エントリーいただき誠にありがとうございます。
東郷様の職務経歴書を拝見させていただきまして、とてもご立派なご経歴をお持ちでいらっしゃることが分かりましたが、先方のご希望の条件に沿いませんことから、残念ながら紹介させていただくことが叶いません。
また何か機会がございましたら、ご利用いただきますことをお待ち申し上げます。
東郷様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
これが、いわゆる「お祈りメール」って奴か?
先方のご希望の条件、というのが何だか分からないが…。
仕方ない。
そして、もう1社の「人事マネッジ」という会社の仲介業者である「スマイルサポート」というエージェントからも、似たようなお祈りメールが届いていた。
やはり、年齢か?
これは、結構難しいのかもしれない。
焦燥感が徐々にわき上がってくるのを肌で感じながら、もう一つの『ビジネス・マンパワー』という人材登録サイトを開いた。
『プラチナ・ビズ』の方は、年収800万以上のハイクラス転職を謳っているのに対し、『ビジネス・マンパワー』の方はとにかく圧倒的な求人件数を誇る日本最大規模の人材登録サイトだ。
スカウト
『ビジネス・マンパワー』の方は、本当に求人件数が多数あり常に新着情報がどんどん更新されているのが分かった。
そして、なんと自分あてに「東郷様にスカウト案内が届いています」というメッセージがあるではないか!
それは「WPCコンサルティング合同会社」というコンサルティングの会社で、職種は「戦略コンサルタント・リサーチャー」ということである。
もう一つは「株式会社MTWデータ」で
「デジタルガバメントの実現に向けた行政サービス改革に関するDXコーディネーター」とあり、大きく【公共関連】との記載がある。
ここで、ふと気づいた。
【公共関連】という分類は、秀樹にとって非常に強い得意分野だ。
しかし「行政サービス改革」や「デジタルガバメントの実現」の内容は、よく分かるものの、それに向けた「DXコーディネーター」となると、どうなんだ。
秀樹はこれまで発注側のユーザーであって、受注してデジタルガバメントを設計・プログラムしたり、DXをコーディネートするとなると、それはITの専門業者がするものだろう。
無理だ…。
そうすると、この「スカウト案内」というのは「スカウト」ではないのか?
よく見ると次のような説明書きがあった。
・ご登録の職務経歴書とあなたの希望条件
・企業が募集している求人条件
これらがマッチしていると判断される場合に『ビジネス・マンパワー』のシステムから「スカウト案内」をお送りします。
実際の条件につきましては、ご確認のうえご利用いただきますようお願いいたします。
ふむ。スカウトが来たって訳ではないのか。
キャリア・カウンセラー
ただ、スカウト案内が来ていることは事実なので「WPCコンサルティング合同会社」というコンサルティング会社に応募してみることにした。
自分はこれまで組織で多くの部下を抱え、人事管理や組織マネジメントをしてきた。
戦略をつくるのだって得意としてきたのだ。
PRできる職歴を詳しく書き、エントリーした。
翌日「エンゲージ」という仲介エージェントから、メッセージが届いた。
ぜひ、東郷様と電話面談をしたい、という。
さっそく電話面談の日時予約をし、佐々木というキャリア・カウンセラーと直接、話をした。若い女性だった。
職に求める希望条件を聞かれ、年収や仕事内容について、秀樹がひとしきり話すと、佐々木は開口一番、
「まず難しいですね」と言った。
「東郷さんの年齢の方をこれから採用して、仕事を教えて…と言っても、この先何年やっていけるのかとなると、もっと若い方を採用となるんですよね」
「じゃあ、これまでのマネジメントの経験を活かして、マネージャーとか管理職の仕事とか、ないんですか?」
秀樹が聞くと、
「その会社で実務の経験があれば、マネージャーもいいでしょうが…。
実務の経験がない人を外から迎える、という余力は企業にはないんですよね」と言う。
秀樹が今回エントリーした「WPCコンサルティング合同会社」にも、先方の希望からして、紹介するのは無理とのことだった。
最後に、キャリア・カウンセラーはこう締めくくった。
「人材の紹介をする私がこんなこと、あまり言うものではないんですけど。
東郷さんにとっては、市役所に再雇用か何か…定年延長?ですか、そういうもので残られるのが一番いいんじゃないですか?」
詰んだ…。
中高年の職探しは難しいとか、何十社も面接して断られた、とかいうのはネット記事で見聞きしていたが、秀樹は面接までこぎつけることすらできない。
自分はまだまだ元気で若い(と思っている)のに、この先どうやって生きて行くのがいいんだ…?
――――第9話〈最終章〉に続く
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