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【万博】"文明の森"が凄すぎる。博物館でも絶対にできない唯一無二の体験

はじめに

賛否ありながらも始まった大阪・関西万博。
先日足を運びましたが、各国の個性豊かな展示に圧倒され、万博ならではのポジティブなお祭りムードにすっかり魅了されてしまいました。

ところで万博でいま話題になっているのは、チェコ企業が展示する"文明の森"。「安全対策に不備があるのでは?」と批判され、現在は一時立ち入りが制限されています。

■ 想像を超える《文明の森》

正直、最初は「なんか黒い木だな」ぐらいの感想。
しかし、報道をきっかけに興味を持って調べたところ、その正体に驚かされました。

なんと、一本だけでも博物館の主役クラスの貴重な木。それを大量に集めて古代の森を再現し、触ることもできるというぶっ飛んだ展示だったのです。

もちろん安全対策は大事ですが、それはそれとして展示物としての魅力が話題にならないことが不思議でなりません。

チェコ企業が総力をあげて実現した他に類を見ないアートと考古学の融合。その驚きの内容を、これから掘り下げていきます。


6500年前と今を繋ぐオーク亜化石

"文明の森"に使われたのは、チェコのSubfossil Oak社が提供する133本の「オーク亜化石(通称:ボグオーク)」。そのすべてが、約6500年前にチェコ東部地域に生えていた巨木です。

当時、地形は湿地帯に変わりつつあり、そこで生えていたオークが倒れ、泥に埋もれました。通常は微生物によって分解される倒木ですが、酸素の乏しい環境によって当時に近い姿で保存されたのです。

■ 「亜化石」とは何か?

有機物が長い年月をかけ、緩やかに炭化しながら鉱物が浸透してできるのが"化石"。そして、その途中段階が"亜化石"です

完全に化石になった樹木は、鉱物が浸透して石のようになります。これに対して、今回のオーク亜化石では鉱物の割合がわずか6〜17%。つまり、“木”としての性質をまだまだ残しています。

おそらくあと数万年埋もれていたら本当の化石になるところでしたが、2016年、発電所を工事している際に偶然にも掘り起こされました。

亜化石の概要

■ ほぼ“木”のまま。完璧な保存状態

オーク亜化石の魅力は、見た目や手触りが木材に近い点です。

実際に、特に状態のよいものは6500年前の亜化石にはとうてい見えず、「表面が黒いことが特徴の老木で、少し前に切り出されたばかり」と言われても信じかねません。

樹皮はさすがにボロボロ。ただし、少し離れると分からない

特徴的な漆黒の表皮は土壌の鉄分と木に含まれるタンニン(渋み成分)が長年反応したものです。これが腐食や分解を防ぎ、色以外は倒木時に近い外観を維持しました。

特に"文明の森"に使われているオークは保存状態が抜群。リスが隠したドングリが木の空洞にそのまま残っていたというエピソードまであります(ドングリは博物館で別途保存)。

■ 「6500年生きた木」ではありません

ひとつ補足すると、報道でしばしば「樹齢6500年」とされますが、正確には“6500年前に倒れた木”です。実際の樹齢は150〜250年ほど。そもそも、樹木の寿命の生物学的な上限は5000年程度です。

こうした誤解が広まっていること自体、この展示の価値が十分に伝わっていない証かもしれません。


圧倒的に貴重なオーク亜化石

"文明の森""に立ち並ぶオーク亜化石は単なる古木ではなく、一本一本が自然遺産に匹敵する稀少な存在です。

植物は自然界で分解されやすいため、古代の木が現代に残ることはまずありません。青森の三大丸山遺跡(約5000年前)やピラミッド副葬品(約4600年前)のような例外もありますが、今回のオーク亜化石はさらに昔です。

しかし、オーク亜化石の価値は、古くて数が少ないだけではありません。以下では、多様な側面からその貴重さを説明します。

■ 学術的価値:6500年の"タイムカプセル"

亜化石は、完全に石化した化石とは異なり、植物組織の構造やDNAなどの有機物を一部残した「科学情報の宝庫」です。

今回のオーク亜化石には、当時の環境を物語る年輪が明瞭に残っており、炭素や酸素の同位体比、遺伝子解析などを通して数千年前の気候や植生を年単位で復元することが可能です。

たとえば、研究者たちは年輪のうち1つの幅が1センチもあることを発見しました。これはオークの1年間の成長速度としては異例の速度であり、当時の気候がいかに恵まれていたかを示しています。

スマホ写真でもうっすらと年輪らしきものを確認可能

■ 歴史的価値:文明の誕生の目撃者

これらの木々が生きていたのは、エジプトのピラミッド(紀元前2600年)よりさらに昔。メソポタミアやエジプトの古代王朝の誕生とほぼ同時代です。当時、チェコ地域ではようやく初期の農耕社会が始まる頃でした。

"文明の森"という名にふさわしく、人類が文明を築きあげる最初の時期を共に生きた木々なのです。

オークは人々の暮らしと密接な関係があり、集落の近くに生えていることも多いです。もしかすると、古代のチェコの子供たちが農作業の合間にこのオークでかくれんぼしたのかも──そんなロマンがかき立てられます。

■ 文化的・芸術的価値:自然が生んだ唯一無二の素材

漆黒に変化したオーク亜化石は、その美しさと神秘的なオーラで芸術素材として極めて高い評価を受けています。

独特の木目には、深い焦茶、灰銀、青黒などが混ざり合い、まるで夜空や鉱石のような色合い。これに心を動かされた芸術家たちは、彫刻や工芸品に用いてきました。

「Another season of Restlessness」ヴォイトコフスキ作
出典:Wikipedia、Mieto氏の画像、CC 表示 3.0

■ 経済的価値:希少すぎる木材

その美しさと希少性から、オーク亜化石の別名は「木のダイヤモンド」「世界で最も希少な木材」。家具や彫刻素材として少量が市場に流通しますが、レンガ2個分のサイズに約670万円の値がついたことすらあります。

立派な巨木ともなると金銭に換算することが困難ですが、"文明の森"は美術保険の加入時に総額4500万ユーロ(73億円)と評価されたそうです。


133本の古代木が立ち並ぶ、世界初の光景

"文明の森"の展示を語るうえで、まず強調しておきたいのがその圧倒的なスケールです。

使われたのは、高さ4メートル、直径1メートルの巨木を含む133本、合計200トン。これだけの数の古木を一箇所に集結させた展示は世界初です。

■ 一本だけでも有名博物館レベル

6500年前の巨木サイズの亜化石となると、日本では博物館にすら展示されていません

世界的に見ても希少で、ロンドン自然史博物館やウィーン自然史博物館といった世界的に有名な博物館ですら、展示しているのは数本。もちろん、劣化や破損を防ぐために厳重にガードされ、ガラス越しの鑑賞です。

133本も集めて古代の森を再現し、しかも来場者が実際に触ることができるという展示方法は、博物館には到底不可能で、万博ならではの発想。

立派なオーク亜化石を触る機会は、多くの人にとっておそらく今回が最初で最後となり、万博が終われば間近で見ることすら難しいでしょう。

■ ドバイ万博ですら十数本、今回はギネス級

実は、同様の展示は2021年のドバイ万博でも試験的に実施されました。そのときは十数本のみの小規模な展示にも関わらず注目を集めましたが、今回の万博ではその約10倍。

この展示は「世界最大の木材亜化石インスタレーション」としてギネス世界記録に申請予定です。
(インスタレーション:空間全体を作品として表現する現代美術の手法)


"文明の森"が体現する万博の精神

"文明の森"は単品で優れているだけでなく、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を見事に体現しています。

■ 一本の木に一つの国名

"文明の森"に展示されている133本のオーク亜化石は、一本一本に万博参加国の名前が冠されています。
(注:現在の参加国158よりも少ないのは準備中に参加国が増えたため)

根元のQRコードでどこの国か確認可能

つまり、一本一本が参加国の分身であり、互いに根を張り合ってひとつの有機的存在=地球を構成する存在として表現されています。

こうした構図は、万博が目指す国境や文化を越えた連帯・共生のビジョンを視覚的に伝えるものです。

■ 「八百万の神」の感性と響き合う展示

さらに、この展示には日本文化とも深く共鳴する要素があります。

"文明の森"の根底にあるのは、木々に宿る霊性や自然への敬意です。これは、あらゆるものに魂が宿る「八百万の神」という日本特有の感性と通じるものがあるのではないでしょうか。

万博のシンボルとして木造の大屋根リングを選んだ日本人と古代の木でアートを生み出したチェコ人。少なからず精神的な共通性が感じられます。

■ 単なる展示ではなく、「未来への問いかけ」

チェコの展示チームは、この"文明の森"を通して、人類の進歩と自然との関係を見直すきっかけにしてほしいと語っています。

「6500年前の木々と比べれば、私たちの時間がいかに短いかがわかる。だからこそ、未来に向けてどう生きるべきかを考える必要がある」とのこと。

これはまさに、万博という“未来社会を問う空間”にぴったりの観点です。このような精神性を高く評価され、展示したチェコ企業は中小企業であるにも関わらず、国外企業として初のプラチナパートナーに認定されました。

おわりに

以上、"文明の森"がいかに素晴らしい作品であるかを熱く語らせていただきました。

今回の万博では映像作品やパネル展示が多く、「本物が少ない」という意見もあります。その点、"文明の森"は間違いなく本物であり、しかも触ることができるという唯一無二の存在です。

個人的な意見ですが、火星の石やiPSミニ心臓、イタリア館と肩を並べる絶対に見逃せない展示の一つだと考えています。

現在、"文明の森"は立ち入り禁止ですが、すぐ近くまで寄って手前の木に触ることはできます。安全対策以外の面でニュースになることもないためか、人もそれほど多くありません。

幸い、近日中に安全対策を強化し、再び中に入れるようになるそうです。万博を訪れた際はぜひ一度訪れ、6500年前の自然と人類に思いをはせてみてはいかがでしょうか(場所はコチラ)。

(7月20日追記)
約3か月ぶりに中に入れるようになっていました!
不思議なオーラを放つ古木に囲まれた内部は、万博の喧騒から隔離された別世界。6500年前の森がここに蘇ったのかと思うと感慨深いです。

面白いのは、しばらく人が立ち入らなかったためかクモの巣があちこちにできていたこと。亜化石オークすら住処にしてしまう虫たちに生命力の強さを感じます。

再開と同時にミニ展示やスタンプも追加されていたので、スタンプハンターも是非行ってみてください。

他にも万博のお役立ち情報や展示物の解説を投稿しています。ぜひプロフィールから、気になる記事をのぞいてみてください。

■ 参考文献

1.České noviny(チェコ国営通信社)「Malá česká firma Subfossil Oak vytvoří na Expo unikátní pravěký les(和訳:チェコの小さな企業 Subfossil Oak が、万博でユニークな古代の森を作り出す)」(URL

2.Forbes Life(チェコ版『Forbes』)「Duby, které mohli míjet mamuti, ohromují svět. Ze země je vykopala česká firma(和訳:マンモスが通り過ぎたかもしれないオークが世界を驚かせている。これらはチェコの企業が地中から掘り出したものだ)」(URL

3.Seznam.cz(チェコの大手ポータルサイト)「Přes 6000 let ležely pod zemí, teď duby z Poolší míří na Expo(和訳:6000年以上地中に埋まっていたオークが、いまポオルシ地方から万博へ向かっている)」(URL

4."文明の森"公式紹介ページ(URL

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ジュン右近|万博に詳しい知財人 この記事が面白い、役に立ったと思われたら ♡スキ で応援してもらえると励みになります!