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【万博】"Magnus Rinn"。アイルランドの世界的アーティストの作品を解説

はじめに

大阪・関西万博に通期パスで何度も通っている私がお勧めしたい展示物の一つが、『Magnus Rinn(マグナス・リン)』です。

万博ファンですら「えっ、なにそれ?」と思うかもしれませんが、アイルランド館の大きな金色のリングと聞けば分かるのではないでしょうか。

このリング、パビリオンのおまけのように見えるかもしれませんが、実は「人間と自然の関係性」や「アイルランドと日本の交流」というテーマが込められた見ごたえのある本格アートです。

この記事では、『Magnus Rinn』について、その魅力とメッセージ、そして隠された高度なテクノロジーをご紹介していきます。


作品の概要

『Magnus Rinn(マグナス・リン)』の作者は、アイルランドのジョセフウォルシュ氏。木材を使ったアートや家具で世界的に評価されています。

そんな大御所のウォルシュ氏にとっても、『Magnus Rinn』は初めてとなる屋外向け大型作品であり、完成までに7年を要したライフワーク的作品です。

左:ウォルシュ氏、右:作品例
出典:Wikipedia、ウォルシュ氏本人作成、CC BY-SA 4.0

まずは素材に注目

作品を語るうえで最初に注目したいのは素材です。

  • 表面は金箔:遠くからでも目立つ黄金の輝きは金箔で、職人が一枚一枚丁寧に貼り付けました。

  • 下半分は青銅(ブロンズ):人類が初めて加工した金属で、文明の象徴と位置づけられています。

  • 上半分はオーク材:自然の生命力を象徴する、ウォルシュ氏の得意な素材です。

これらは、一見すると相反する"文明と自然"が一つとなって美しく輝くという意図が込められ、「人と自然の循環」や「調和の象徴」を表します。

さらに、下部のブロンズ部分には、近くで見ると指紋のような渦状の模様が施されています。これは作者自らの指で原型につけた跡であり、「作者と作品との対話」を象徴します。この複雑な凹凸やオーク材の木目を浮き彫りにする金箔細工の巧みさも、見どころの一つです。

左:ブロンズ部分、右:オーク材の部分

不完全さに込められたメッセージ

『Magnus Rinn』の形状は、一見すると円環に見えますが、よく見るとしなやかにねじれた形状です

この造形について、作者のウォルシュ氏は次のように語っています。

「この作品のコンセプトは、私の多くの作品に通じる『張力としての形』に関係しています。私は一つの大きくて穏やかな動きを表現したかった。円のようでいて円ではない。形の中にねじれを加えることで、三次元性と動きをもたらしています

出典:Wallpaper誌の特集記事でのインタビュー(筆者訳)

このように、幾何学的な円ではなく、あえて不完全な形状とすることで、静かでありながら張りつめたような緊張感を観る者に与えています。


秘められた高度なテクノロジー

ここで、木材という“曲げにくい素材”で複雑なフォルムを実現しているという点にも注目したいです。

この形状は「三次元積層(3Dラミネーション)」で作られました。これは、木の板を薄くスライスし、蒸気で柔らかくして成形した薄板を重ね合わせて接着するという特殊な技術です。

この技術により、木材の持つ自然な質感や軽さを活かしながら、見る者を圧倒するダイナミックな造形が実現しました。

三次元積層の概要

また、この作品には、FEM(有限要素法)という強度解析技術が導入されています。これは、どの部分にどの程度の力がかかるのかを正確にシミュレーションする高度な技術で、これによって複雑な構造でありながら十分な強度を確保しています。

FEMは建築物などエンジニアリングで使われる技術であり、アート作品に使うのは先進的な試みです。今回の万博では安全性が話題になりがちですが、本作は高度な技術で安全が確保されているのです。

このように、『Magnus Rinn』はただのアートではありません。木材、ブロンズ、金箔などの伝統的技術と最先端のテクノロジーを融合させた、アートとテクノロジーのハイブリッドなのです。


作品名に込められた万博への思い

『Magnus Rinn』という名称には、作者のウォルシュ氏の深い思想とメッセージが込められています。

「Magnus」はラテン語で「偉大な」を意味します。そして、「Rinn」について、作者は次のように語っています。

「ゲール語(アイルランド公用語)で“Rinn”は『場所』や『地点』を意味し、日本語では『輪』や『円』といった意味を持ちます。両言語の意味が、この作品の『場所』と『時間の一瞬』、そしてそれらが循環する時間の流れの中にあるという私の考えを強く表現してくれるのが気に入っています」

出典:Wallpaper誌の特集記事でのインタビュー(筆者訳)

このように、『Magnus Rinn』は、循環する時間の流れの中で、「時」と「空間」が交差する偉大な瞬間を讃える"記念碑"なのです。

この作品が飾られた大阪・関西万博では、半年という短い期間、世界中から訪れた人々が大屋根リングの中で出会い、笑顔を輝かせ、そして文化をつないでいきます。そんなイベントにぴったりな作品ではないでしょうか。

これを見て興味を持った方は、「万博に行っていない」という人はもちろん、「万博行ったけど見逃した」という人もふくめて、機会があればぜひ見に行ってください。

※ちなみに、アイルランド館のスタッフに確認したところ、座って撮影してもOKでした。世界的アーティストの作品に触れる貴重なチャンスですね。

アイルランド館には模型も飾られています。

10/8追記
万博終了後、『Magnus Rinn』は京都の知恩院に移設されるようです。これは、『Magnus Rinn』が設置されている日本庭園風のランドスケープの設計者・辻井博行氏(ソース)が、知恩院の方丈庭園の管理を行っている辻井造園を運営しているという縁があったようです。

アイルランドに帰国してしまうのかと思っていましたが、関西圏の人にとっては嬉しい話ですね。

2026/4/1追記
知恩院の春のライトアップにあわせて、『Magnus Rinn』を見に行ってきました。黄金のリングという派手な外観にもかかわらず、まるで「ずっと昔からここにあった」と言わんばかりの馴染みっぷり。日本とアイルランドの美の調和を見せていました。

他にも万博のお役立ち情報や展示物の解説を投稿しています。ぜひプロフィールから、気になる記事をのぞいてみてください。

参考資料

・ジョセフ・ウォルシュ氏の公式ウェブサイト「Magnus RINN

・Wallpaper誌の特集記事「2025 Expo Osaka: Ireland is having a moment in Japan

・美術手帖の特集記事「アイルランドを代表するアーティスト。ジョセフ・ウォルシュの作品展示が大阪と東京の3会場で開催へ

・Advanced Times誌の特集記事「アイルランドで息吹く自然のダイナミズムと精緻な技巧が融合する、ジョセフ・ウォルシュの美学に会いに行く

・Wikipedia「Joseph Walsh (designer)


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ジュン右近|万博に詳しい知財人 この記事が面白い、役に立ったと思われたら ♡スキ で応援してもらえると励みになります!