【万博】イタリア館にメンデルの原稿が追加。その正体とは⁉
はじめに
大阪・関西万博で大人気のイタリア・バチカン館で、また驚くべき出来事がありました。
バチカン館にあるカラヴァッジョ『キリストの埋葬』の隣に、ひっそりとノートのようなものが置かれていたのです。近くで見ると、グレゴール・ヨハン・メンデルの論文『植物雑種に関する実験』の原稿であるとの説明が添えられていました。


◾すごいけど、意図は分からない
イタリア館は次々と展示を増やすことから「デアゴスティーニ」に例えられますが、ついにバチカン館までもが有名科学者の展示を追加してきたのです。
ところが今回、公式から展示意図についての明確な説明はありません。万博界隈でも情報が錯綜し、「すごいけど、何のため?」と混乱。これはあまりにももったいないと感じたので、情報をまとめました。
◾事実関係のまとめ
チェコ館の特別イベントで直筆原稿を展示
バチカン館では8/5まで精密な複製品(ファクシミリ)を展示
展示の主題は「科学と信仰の関係」
複製品は今後チェコ館で展示
チェコ館でのオリジナル展示
実は、バチカン館での展示が始まる数日前に、メンデルの直筆原稿はチェコ館で公開されていました。
あの「メンデルの法則」の現存唯一の直筆原稿、万博・チェコ館で日本初公開…展示は今日のみ
メンデルの祖国チェコ共和国では、この貴重な史料をユネスコの「世界の記憶」に推薦する活動を進めており、万博を通じてその重要性をアピールするために1日限りの公開に踏み切ったのです。
(これとは別に、24日にも関係者向け公開)
それにしても、貴重な1日限りの展示にも関わらず、当日の午後にようやくニュースになるという情報発信の遅さ。これが万博です。
◾数日後にバチカン館に登場
チェコ館での展示が終わってから数日後、今度はバチカン館にメンデルの原稿が新たに加わりました。
しかし作品解説を見ても、「メンデルが修道士だった」「この論文がチェコ共和国に所蔵されている」としか記載されていません。原稿が本物なのか、チェコ館での展示と同一なのか気になりますが、よく分からない書き方です。
メンデルは修道士であるため、カトリック総本山のバチカン市国と一応は関係はありそうですが、それだけの繋がりでカラヴァッジョと並べるのも少し場違い感はあります。
◾頼みの綱はChatGPT
そこでChatGPTでチェコの新聞を検索したところ、以下の記事がヒットしました(AI凄い)。当然に翻訳もAIです。
大阪万博でのメンデル手稿:チェコとバチカンが科学的・文化的協力を祝う
チェコはバチカンと協力し、日本の大阪で開催されているEXPO 2025でグレゴール・ヨハン・メンデルの貴重な手稿のファクシミリ(複製)を展示しています。オリジナルの文書は、国の記念日とグレゴール・ヨハン・メンデルの日を記念して、7月23日と24日にチェコ館で公開されました。現在、この作品のファクシミリは、イタリア・バチカン館において、カラヴァッジョ作「キリストの埋葬」のオリジナル絵画のすぐ隣に展示されており、このインスタレーション全体の特別さと文化的意義を強調しています。来週には、このファクシミリはチェコ館へと移される予定です。
まとめると
・7月23日、24日のチェコ館での展示はオリジナル(直筆)
・バチカン館での展示は精密な複製品(ファクシミリ)
・来週(8/3~9の週)には複製品をチェコ館に移設
他のチェコの新聞(Brněnská Drbna誌2025年8月1日記事)も同様の内容を報じており、これでほぼ間違いないでしょう。ようやく状況を整理できてすっきりしました。オリジナルがどうなったかは情報がありませんでしたが、おそらくチェコ共和国に帰国したのでしょう。
複製品というのが少し残念ですが、そもそも国宝級の展示を惜しげもなく展示するイタリア館とバチカン館がおかしいのです。2日限定とは言え万博のためにオリジナルを公開してくれたチェコに感謝です。
バチカンが示す「科学と信仰」の新たな関係
チェコの報道によれば、バチカン館での展示には明確な意図があるとされています。
「メンデル手稿のファクシミリ展示は、科学と信仰の実り多い関係について省察する素晴らしい機会を提供してくれます。このテーマこそ、私たちが大阪万博への参加を通じて広めたいと願うものです。」
カトリックの総本山であるバチカンが、「科学と信仰の対話」をメインテーマにし、こうした展示を行うのは非常に興味深い試みです。
◾教皇レオ14世のメッセージ
現在の教皇レオ14世は就任演説で「教会が新たな産業革命やAIの発展に積極的に対応するのが望ましい」と示しています。彼が“レオ”を名乗るのは、かつて産業革命の時代に社会問題に取り組んだレオ13世を意識してのことです(ITmedia NEWS 2025年05月11日記事)。
一般的に「科学と宗教は対立する」と捉えられがちですが、真理の探究や人類の幸福という目標は共通しています。修道士でもあり科学者でもあったメンデルを通じて、両者の新しい関係を提示するのが今回の展示の意義です。
こうした難しい問題について、チェコ館の特別公開とコラボしてメッセージを打ち出す。まさに万博ならではの取り組みです。
◾バチカン館の本気
これまで「バチカン館=キリストの埋葬だけ」というイメージでした。カラヴァッジョは確かに圧倒的ですが、カトリックの総本山が宗教画を展示するのは王道すぎて意外性がありません。しかし、今回のメンデルの原稿との組み合わせには強いメッセージ性を感じます。
できれば閉幕まで展示して欲しかったところですが、8/9の夜に返却され、今後はチェコ館で展示されるようです。
返却の際にバチカン館のスタッフがおふざけで「メンデルの原稿が盗まれた!」とインスタに投稿したところ、一部の人が真に受けてちょっとした話題になりました。バチカンジョークは日本には高度すぎたようです。
(その後、ネタばらしされました)
メンデルという人物
ところで、メンデルの名前を知っていても、その功績までは覚えていない人も多いと思います。

メンデルは修道士として働きながら、約10年にわたりエンドウ豆の交配実験を行い、累計29,000株もの雑種を調べ上げました。この地道な研究から、「優性の法則」「分離の法則」「独立の法則」という遺伝の基本原理を発見します。
今回展示された論文『植物雑種に関する実験』(1865年)は、その成果を示した歴史的文献です。
現代の分子生物学の基礎とされる大発見ですが、当時はその価値がほとんど理解されませんでした。修道院での生活こそ安定していましたが、失意のうちに1884年に世を去ります。
再評価のきっかけは、論文発表から35年後(メンデルの死後16年後)。3人の科学者が、独自にメンデルの法則と同じ現象を再発見したことから彼の業績が世に広まりました。
原稿に感じるもの
実際に原稿を目にすると、その整然とした美しい文字に驚かされます。特にブロック体で書かれた部分など、まるで活字印刷のような丁寧さです。

10年にわたるエンドウ豆の育成と分類は、地味で根気のいる作業です。メンデルの几帳面で細やかな性格が、実験の成功につながったのでしょう。その性格が原稿の筆跡にも現れています。
全精力を込めた素晴らしいライフワークが、同時代の科学者からはあまり評価されなかった。思わず同情してしまいます。
◾現代遺伝学との繋がり
また、「ABC」「ABc」「AbC」といった表記と、その横に記載された数字も注目すべきです。これは、各遺伝型のエンドウ豆の数を示しています。
このような表は、今の遺伝学の教科書でも用いられています。生前は評価されなかった彼の研究ですが、現代科学と繋がっていることが伝わります。
おわりに
メンデルの原稿は、複製品という点を差し引いても、いろいろ考えさせるものがあります。イタリア館と比べてだいぶ入りやすいチェコ館に移るため、比較的見物も容易です。
それにしても、万博も後半に入り、各パビリオンが本気を出してアピールしてきています。万博に通い始めた頃は、パビリオンを一通り見たらもう飽きるかなと思いましたが、ますます目が離せません。
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