見出し画像

【 その一言を、置き去りにした日 】── 時間に追われる介護現場の日常 ──【 認知症 / 介護 / 家族 / エッセイ / 4コマ漫画 / AIイラスト / 画像生成AI / 創作日記 】

忙しさの中では、目の前の仕事をこなすことで精いっぱいになる。
けれど、急ぎ続ける私たちのそばで、誰かが小さな言葉を待っていることがあります。
これは、時間に追われる介護現場で起きた、ある一日の物語です。

4コマまんが 介護編#171


⏰「あとでね」を、今日も置き去りにしていないだろうか

「忙しい、忙しい」

朝9時。勤務が始まったばかりなのに、介護現場の時間はすでに全速力で進んでいきます。

オムツ交換の準備をしながら、配薬トレーを持つ。
ナースコールが鳴り、電話が鳴り、あちこちから名前を呼ばれる。

一つひとつが、どれも後回しにできない仕事です。

だから職員は走ります。
間違えないように。待たせないように。事故を起こさないように。

目の前の仕事を終わらせるために、次の仕事へ急ぎ続けます。


「ちょっと話せる?」という小さな声

そんな忙しさの中で、利用者さんが職員の袖をそっとつかみます。

「ねえ……ちょっとだけ、話せる?」

強い訴えではありません。
大きな声で助けを求めたわけでもありません。

ただ、誰かに話を聞いてほしかった。
もしかすると、不安だったのかもしれません。
寂しかったのかもしれません。

職員も、話を聞きたくなかったわけではありません。

それでも、鳴り続けるコールや、まだ終わっていない仕事が頭をよぎります。

「ごめんね。あとで、ゆっくり聞くから」

利用者さんは、小さく笑って答えます。

「……うん、待ってるね」


「あとで」は、いつ来るのだろう

けれど、その“あとで”は訪れませんでした。

次の介助が始まり、記録に追われ、予定外の対応が入り、気づけば勤務は終了。

職員は利用者さんのところへ戻れないまま、施設を後にします。

帰宅してバッグを置いた瞬間、静かになった部屋の中で、あの表情を思い出します。

「結局、あの人のところへ戻れなかった」

勤務中は考える余裕すらなかったことが、忙しさから離れた途端、胸の中に浮かんでくるのです。


介護の仕事は「こなすこと」だけではない

オムツ交換も、配薬も、コール対応も、すべて大切な仕事です。

どれか一つを軽く扱うことはできません。
限られた人数と時間の中で、安全を守るために優先順位をつけることも必要です。

それでも、介護の仕事の中心には、一人の人と向き合うことがあります。

数分の会話。
名前を呼ぶこと。
目を見てうなずくこと。
その人の言葉を、急かさず待つこと。

業務表には残らなくても、それがその人の安心や尊厳を支えていることがあります。

「話を聞く」という行為は、余裕があるときに行う付加的なサービスではありません。

それ自体が、大切なケアなのだと思います。


職員個人の反省だけで終わらせない

この物語は、職員を責めるためのものではありません。

話を聞けなかった職員自身も、本当は苦しんでいます。
もっと丁寧に関わりたいと思いながら、それができない状況に追い込まれているからです。

「忙しくても、気合いで時間をつくろう」
「もっと意識を高く持とう」

それだけでは、現場は変わりません。

必要なのは、利用者さんの声に立ち止まれる人員配置や業務分担、そして、会話や関わりも仕事として認められる職場の文化です。


🌱今日、いちばん大事だった仕事は何だっただろう

一日を振り返ったとき、終わらせた業務の数は思い出せても、交わした言葉までは覚えていないことがあります。

けれど利用者さんにとっては、その短い会話が、一日の中でいちばん待ち望んでいた時間だったかもしれません。

忙しい現場だからこそ、忘れたくないことがあります。

「あとでね」と伝えたなら、その“あとで”をつくること。

そして、どうしてもつくれなかったなら、個人の後悔だけにせず、立ち止まれなかった理由を現場全体で考えること。

今日、いちばん大事だった仕事は、
終わらせた業務ではなく――

できなかった、あの「あとでね」だったのかもしれません。


少しでも共感していただけたら、「スキ」やフォローでそっと応援してもらえると嬉しいです。

いいなと思ったら応援しよう!