カラクリ探偵団 19 折り返しって何?
都心のオフィスで、秘書ロボットM5が「社長は不在なので折り返し電話いたします。」と言っているようです。今回は「折り返し電話」の折り返しではなくデジタル信号処理の「折り返し(Aliasing)」について解説します。
世の中、良きも悪しきも「枠からはみ出したもの」は何らかの形でエネルギーを持て余し跳ね返ってくることがあると思います。
「枠とは何か?はみ出すとはどういうことか?」信号処理の観点から考えてみました。 表紙画像はGoogle Geminiで生成しました。
標本化定理と折り返し現象
「標本化定理を満たさないと折り返しが発生する。」はAD変換時の課題です。下図は(a)アナログ波形と(b)サンプリング周波数fsで収集した周波数スペクトラムです。信号帯域BWに対し、(c)fsが十分に高い時は±fs帯域に対しBWは狭くなり、(d)fsがBWに近い時はナイキスト周波数(fNyq.=fs/2)以上で折り返しが発生します。(d)のスペクトラムはBW端部周波数成分が+fNyq.を超えて(-fNyq.以下の領域)に折り返し混入しています。

AD変換
近年パワーエレクトロニクス分野を除き通信・制御分野などの電子機器では、システム全体をアナログ信号処理するよりもAD変換後にデジタル信号処理する構成が主流になっています。背景にはデジタル回路の高速・大容量・低価格化が進み、ソフトウェアによるデジタル信号処理が定着したことが考えられます。現在ではアナログ回路はフロントエンドと呼ばれセンサなどの性能を引き出す比較的高度(高周波低ノイズ)技術分野に特化しています。
(余談)B2の経験から、スマートフォン誕生前(1980年代頃)IEEEでソフトウェア**(ラジオ,音楽プレイヤ,テレビ,電話など)=汎用性の高いデジタルデバイス1個でソフトウェア(現在のスマホアプリ)を切り替えるだけで多用途に使える「万能マシン構想」がありました。現在はスマートフォンとプラットフォーム企業「アプリストア」で実現でき普及しています。まさにドラえもんのポケットが現実になったような世界感でした。

ビート(うねり)現象
そもそも「折り返しとは何か?」について考えてみましょう。B2独自の考え方ですが、折り返しは「ビート」の仲間と捉えています。
具体例としてデジタルオシロスコープを紹介します。オシロスコープの時間精度はオシロスコープに内蔵された原振(水晶振動子など)のクロック周波数に依存します。オシロスコープと異なる原振を持つ信号発生器はオシロスコープ原振原振と完全一致(同期)していないため、若干の周波数誤差が発生することを考慮しなくてはなりません。人間が勝手に作り出した時刻や時間に高精度高安定の相対的基準はあっても、絶対的基準はありません。
次に「信号発生器から発生するアナログ正弦波1周期をどの程度の離散間隔でサンプリングすれば良いか?」考えてみましょう。サンプリング定理によれば1周期の正弦波を2点以上(=正弦波周波数の2倍以上)でサンプリングしなければならず、2倍未満の周期でサンプリングすると折り返しが発生し正しい周波数がわからなくなります。

アナログ正弦波をサンプリング周波数100[kHz]のオシロスコープで収集し折り返しアーティファクトを観察する実験結果です。正弦波50[kHz]時は安定していますが、50.3[kHz](ナイキスト周波数以上)時はビートが発生しています。
カラクリ探偵団の本質解説
読者のみなさんが将来信号処理システムを開発する際に、
開発設計フェーズでは、
電子回路ハードウェア実験よりも机上ソフトウェアを利用する機会が
多くなると思います。
しかし試作確認(実装・動作検証)フェーズでは、
テスト信号に対し標本化定理を考慮し、計測器側は余裕ある時間
分解能を設定すること。
波形が計測器サンプリング周期(あるいはその自然数倍)に近い時
にはアーティファクト(ビート)が混入する可能性があること。
を考慮する必要があります。計測器の観察波形を不自然に感じた時は、
B2の経験上、ビートによるアーティファクトを避けるため計測器の時間
レンジを変化させてみることも大切です。
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