AI人材とはどのような人材か?
久しぶりのnoteです。AIを先生につけて、英語を習得したり、数学を習得したりして、劇的に能力を高める人が続出している一方で、AIに使わてしまい、仕事の成果も思わしくない方もいるように感じています。どうしてでしょうか。実際には多くの国で学力や知識の格差は広がっているようです。
OECDの2023年成人技能調査では、過去10年間、多くの国で読解力・数的能力は上昇せず、停滞または低下しています。日本は依然として世界上位ですが、先進国全体として「デジタル情報へのアクセス増加=知的水準の上昇」にはなっていません。むしろ下位層が低下し、上位層との読解力や数的能力の格差が拡大する傾向があります。OECD成人技能調査
1. 「答えを出せる」と「理解している」は違う
AIを使うと、レポート、計算、要約、プログラムなどの成果物は良くなります。しかし、それが本人の頭の中に知識体系として残ったとは限りません。
実験でも、この差がはっきり確認されています。約1,000人の高校生を対象とした数学実験では、通常型GPTを使った生徒は練習問題の成績が48%改善しましたが、AIを外した試験では、AIを使わなかった生徒より17%悪い結果になりました。一方、答えを直接出さず、教師が設計したヒントを与える「GPT Tutor」では、この悪影響がほぼ解消されました。PNAS掲載研究
つまり、
AIに解かせる――成果物は改善するが、学力は残りにくい
AIが自分を教える――時間はかかるが、本人の学力になる
という違いです。
2. AIは知識の供給制約を解消したが、学習意欲の制約は解消していない
かつてのボトルネックは、良い教師、本、専門家へのアクセスでした。AIはこの制約を大幅に解消しました。
ところが現在のボトルネックは、
知りたいという動機(好奇心)知らなければならないという渇望
一つのテーマを継続する集中力。一つのことを突き詰める根気
自分だけで考える忍耐
間違いを認めて修正する姿勢
知識を記憶し、反復する時間
へ移っています。
AIは説明を無限に提供できますが、学ぶ側に「理解するまで考える」という需要がなければ、知識は移転しません。高性能な図書館が近所にできても、住民全員の教養が自動的に高まるわけではありません。
3. 学習には、ある程度の不便さが必要
人間の学力は、答えを見るだけでは形成されません。
思い出す、間違える、説明する、比較する、別の問題へ応用する
という負荷を通じて、知識が長期記憶と判断力に変わります。AIが最初から整った答えを示すと、この「望ましい負荷」を飛ばしてしまいます。
AIが便利になるほど、
分かったような感覚は強まるが、自力で再現できる能力は高まっていない
という「疑似的な習得」が生じやすくなります。
4. AIは思考力格差を拡大する
AIを効果的に使うには、実は前提知識が必要です。
知識のある人は、
良い質問をする
回答の誤りを発見する
複数の説明を比較する
自分の既存知識と結びつける
AIに追加検証をさせる
ことができます。
一方、知識が少ない人ほど、もっともらしい回答をそのまま受け取りやすい。
学ぶ人は以前より急速に学び、答えだけ欲しい人は以前より考えなくて済む。この二極化が起きます。
AIによって人間の知的水準は本当に上げられるのか
これは明確にYESです。適切に設計されたAI家庭教師を使った大学物理のランダム化比較試験では、通常の能動的授業より短時間で、より大きな学習効果が確認されています。Scientific Reports掲載研究
したがって、問題はAIの能力不足ではなく、使い方です。
有効なのは、AIを「回答機」ではなく、次のような家庭教師として使うことです。
最初に自分の理解や仮説を述べる
AIには答えではなく、質問やヒントを出させる
学んだ内容を、自分の言葉でAIに説明する
AIに反論・反例・別解を求める
数日後に、AIなしで思い出す
実際の仕事や別分野へ応用する
既存の思考体系を拡張する使い方です。
今後の見通しとしては、一般的なチャットAIをそのまま普及させるだけなら、成果物の品質は上がっても、自力の学力はあまり上がらず、知的格差が拡大する可能性があります。一方、教育制度がAI家庭教師、反復学習、口頭試問、AIなしの確認試験を組み込めば、初めて社会全体の底上げが起こります。
AIによって知識の希少性は低下しました。しかし、好奇心、集中力、反復、批判的思考の希少性は低下していません。むしろ、そこが新しい知的格差の源泉になっているのだと思います。
AIを使いこなせる人材が社会から求められています。AI人材とは、AIを使いこなせる人ということのようですが、AIと共同で創造的な仕事ができる人なのでしょう。そのためには、その人なりの専門的な知識を持つか、あるいは、教養が高か、あるいは細部にこだわることができる、どこまでも深く根気よくAIと対話を続けることができる方々というイメージなのかもしれませんね。
