認知英文法:金髪の白髪女性のメンタル・スペース
金髪だった白髪の女性のメンタル・スペース
ビートルズのコンサートで絶叫する金髪の少女
このビートルズのコンサートで絶叫する金髪の女の子(タイトル画像)は今、存命していれば、70代の年齢になっている。髪もおそらく白髪だろう。
1) The lady with white hair was blonde.
2) In 1963, the lady with white hair was blonde.
1)の文は、一見すると矛盾しているように見える。「白髪の女性」が「金髪だった」というのは、同じ時間軸の中ではありえないからだ。しかし、2)のように「時間のスペース」を新たに導入すると、忽ちの内に矛盾は解消する。メンタル・スペース論を使うと、われわれの脳がどのようにこのような文を理解しているかを明らかにできる。
メンタル・スペースの構築
基底スペース(Base Space)の構築:
・文を読んだり聞いたりする瞬間の、話し手・聞き手の「現在の現実」を表すスペースが構築される。
・このスペースには、「今、目の前にいる、あるいは話題になっている『白髪の女性』」という要素が配置される。
・この要素には、「白髪である」という現在のプロパティ(属性)が付与される。
新しいスペース(時間スペース)の構築:
・文頭のスペース・ビルダーである "In 1963,..." が、基底スペースから分岐した新しいスペースを構築するよう指示。⇒有標主題化
・この新しいスペースは「1963年」という過去の特定の時間枠に
要素の対応関係の確立:
・基底スペースに存在する「白髪の女性」という要素は、時間スペース内の要素と対応づけられる。つまり、「1963年という時間スペースにいた人物は、基底スペースの白髪の女性と同一人物である」と認識される。
時間スペース内での情報の処理:
・時間スペース内では、「対応づけられたその人物」に対して、述べられているプロパティが適用される。
・文中の「...was blonde」という部分が、時間スペース内のその人物に「金髪であった」という過去のプロパティを付与する。
メンタル・スペース論による解説のポイント
この文が矛盾なく理解できるのは、「白髪である」というプロパティが基底スペース(現在)の情報であり、「金髪であった」というプロパティが時間スペース(1963年)の情報である、というように、情報がそれぞれのメンタル・スペースに適切に「ゾーニング」(区別)されているからだ。
われわれは、「現在の白髪の女性」と「1963年の金髪の彼女(同一人物)」を混同せず、それぞれの時間スペース内での状態として捉えることができる。
メンタル・スペース論は、このように異なる時間や状況における情報を、それぞれに対応する認知的な「箱」(スペース)に入れて整理し、それらの箱の中での事実として理解する脳の働きをモデル化している。
この文は、まさに「白髪の女性(現在のスペースの要素)」と「金髪だった(1963年のスペースでのプロパティ)」という、異なるスペースに属する情報を同じ人物に関連付けて処理する典型的な例と言える。
細江逸記の叙法論で言えば、この文の主な叙法は「叙実法」に近いと言える。なぜなら、「1963年という時点での事実」と「現在の事実(白髪であること)」という、それぞれの時間枠における事実を述べているからだ。しかし、その事実が異なる時間スペースに属するため、一見パラドックスのように聞こえる。メンタル・スペース論は、この「異なる時間スペースの事実」をわれわれの脳がどのように処理しているのか、その認知メカニズムを説明してくれる。
したがって、メンタル・スペース論を用いることで、この文が論理的に矛盾しているように見えても、われわれの認知システムがどのようにそれを理解し、意味を構築しているのかを鮮やかに説明することが可能になるのだ。
