再録:ソープランド考
ソープランドの「建前」と売春防止法の抜け穴
ソープランドは、売春防止法(1956年施行)が施行された後も、その法の抜け穴を利用して「合法的な性産業」として存続している業態である。その建前上の理屈付けは、きわめて巧妙で、法の目的と現実の乖離を象徴している。
建前上の理屈付け:売春防止法に「抵触しない」とされる理由
売春防止法は、売春そのものを直接処罰するのではなく、「売春を助長・促進する行為」や「売春を目的とした場所の提供、斡旋、管理」などを罰する法律だ。この点の解釈を巧みに利用することで、ソープランドは「摘発されない」建前を作り上げている。
「性交を伴わないサービス」という建前
ソープランドは、かつてトルコ風呂と呼ばれた頃は、「個室付き特殊浴場」とされ、風俗営業法に基づく営業許可を取っていた。表向きは入浴サービスを提供する施設である。
かつては「個室付き特殊浴場」(こしつつきとくしゅよくじょう)と呼ばれた。特殊とは特別なサービスを行うという意味ではなく、かつての公衆浴場法において、銭湯など=普通浴場に対して「サウナ=特殊浴場」と規定されていた。「トルコ風呂」は個室サウナという位置づけで、個室には必ずサウナ施設が付けられていた。現在は公衆浴場法が改正され、特殊浴場という規定はなくなっている(法律での明文は無くなったが、物価統制令の適用を受けない「その他の公衆浴場」の一種という扱いをされている[6])。

ソープランドの建前は、あくまで「ソープ嬢による入浴補助、マッサージ、ボディソープを使った洗浄サービス」を提供する店であるというもの。
店側は、客と女性の間で行われる性行為は、あくまでも「客と女性の自由な意思に基づく個人的な行為」であり、店がその行為を「管理」「助長」「斡旋」しているわけではない、と主張する。
法律上、性行為そのものは売春防止法の処罰対象外であるため、店側は「店は場所と設備を提供し、風呂のサービスを行うだけで、その後の個人的な行為には関与しない」という論理を展開する。
AI 解説:ソープ嬢が「個人事業主」として扱われる理屈
ソープ嬢が「個人事業主」として扱われる理屈は、主に
お店と雇用契約を結ばず、独立した事業者として業務委託契約を結んでいるという契約形態と、働き方の自由度にあります。
主な理由は以下の通りです。
・雇用関係の不在: お店はソープ嬢を従業員として直接雇用しているわけではなく、場所や設備を提供し、顧客とのマッチングを行う役割を果たしています。ソープ嬢は、お店とは独立した立場でサービスを提供します。
・業務委託契約: ソープ嬢は通常、お店と「業務委託契約」またはそれに類する契約を結んでいます。これにより、お店は彼女らに給与ではなく「報酬」や「歩合」を支払い、彼女らの収入は「給与所得」ではなく「事業所得」または「雑所得」として扱われます。
・自由な働き方と自己責任: 勤務スケジュールをある程度自由に設定できたり、仕事に必要な衣装やメイク道具などの経費を自分で負担・管理したりするなど、一般的な従業員よりも自由度が高い働き方が可能です。これは個人事業主の特徴と一致します。
・完全歩合制: 収入が完全歩合制やそれに近い形態であることが多く、自身の売上や指名数などが直接収入に反映されます。これも事業主としての側面を強めます。
これらの理由により、税務上の取り扱いにおいても、ソープ嬢は個人事業主として自身で確定申告を行い、所得税や住民税を納める必要があります。
ただし、この「個人事業主」という扱いは、あくまでお店側の便宜や税務上の建前であり、労働法上の保護(最低賃金や労働時間規制など)が受けられないという側面もあります。風俗業界の労働問題に特化したNPO法人 風テラスなどの支援団体も存在しますので、もしトラブルに巻き込まれた場合は専門家に相談することも可能です。
この建前は、極めて形式的であり、多くの人が実態と乖離していることを認識しているが、法的に直接摘発するための証拠や要件を揃えるのが困難であるため、警察も摘発に踏み切りにくい状況がある。まさに「法の抜け穴」「ザル法」の典型例として語られる。
「トルコ風呂」から「ソープランド」への名称変更の経緯
「トルコ風呂」という名称が「ソープランド」に変更された背景には、国際的な批判と、人権問題への配慮があった。
1. 「トルコ風呂」の由来

1950年代、日本で売春防止法が成立した後、売春業者は新たな業態を模索し始めた。その中で、個室に浴室を備え、女性が客の体を洗い、その後に性行為が行われる形式の店が生まれた。
この業態が「トルコ風呂」と名付けられたのは、当時の日本で「トルコ式蒸し風呂」という公衆浴場が流行しており、垢すりやマッサージといったサービスが行われていたことに由来すると言われている。性的サービスを連想させる語感と、異国情緒を漂わせる響きが、店のイメージに合致すると考えられたのである。




2. 名称変更のきっかけ:トルコ政府からの抗議
しかし、この「トルコ風呂」という名称は、実際のトルコとは何の関係もなく、むしろトルコの文化や国民に対する差別的で不名誉なイメージを与えるものとして、国際的な問題となった。
特に、1980年代半ばに入ると、日本とトルコとの関係が深まる中で、この名称がトルコ政府の目に留まるようになった。
1984年、トルコ共和国の在日大使館が、日本の外務省に対し、この名称の使用中止を求める正式な抗議を行った。トルコ側は、自国の国名を性的なサービスと結びつけることは、トルコ国民の尊厳を著しく傷つけるものであり、国際的なイメージを損なうと強く主張した。

という、小池百合子氏が32歳の頃の1985年4月11日毎日新聞夕刊の一面記事 。
3. 「ソープランド」への変更と業界の対応
トルコ政府からの抗議を受け、日本政府は性風俗業界に対し、名称変更を要請した。
これに対し、全国の業界団体や各店舗は、新たな名称を検討した。その結果、石鹸(ソープ)を使って体を洗うサービスにちなんで、「ソープランド」という名称が広く採用されることになった。
名称変更は比較的スムーズに進み、1985年頃には「トルコ風呂」という呼称はほぼ姿を消し、「ソープランド」が一般的な名称として定着した。

この名称変更は、単なる言葉の置き換えではなく、日本の性風俗業界が国際的な人権意識や国家間の関係性という側面から、自らのあり方を問われた象徴的な出来事であった。しかし、名称が変わっても、その営業の実態や、女性たちが置かれる状況に関する根本的な問題は、依然として社会の中で議論され続けている。

