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《不定期連載》負けられない者達9 プロ野球チームコメッツの闘い2014


グラブとミット

 今季加入した左腕投手山本正が一軍に昇格した。四月後半での合流はいささか遅い。

 厳しい台所事情を支える左のサイドハンドとなるか。一三〇キロ前半の速球と二種類のスライダー、シュートを操る技巧派であった。

 勝てないコメッツは四月中に選手の入れ替えが激しかった。

 ルーキーの知念は一打席のみで二軍降格となった。主に守備固めでの起用であったが、大して使いたいと思わせるほどではなかったか。

 このレベルであれば、既存の外野手でも構わない。倉田が抜けたことで偶然一軍にいられた。俺を含め、外野手陣の緊張感は大幅に下がった。

「神戸さん、グラブ変えました?」

 土佐がロッカールームにて隣の神戸に訊ねた。

 言われてみれば、神戸の持っているグラブの色は変わっていた。昨年までは黒を使用していた。けれど、今持っているグラブは淡い青色であった。

「メーカーから新しくな。万斉も変えただろう」

「はい……」

 少し気後れした返事で俺は答えた。俺のグラブはポケットがやや深くなった程度だ。

「変えてから、捕球がスムーズになっているぞ」

「そうですか」

 俺は自分自身でそう思えない理由があった。それは開幕戦でのミスを引きずっているからであった。

 動きがやや硬くなった気がする。言い換えれば、慎重な守備になった。それはチームで求められる守備と異なっている。

 ライトを守る神戸とセンターを守る土佐。どちらの守備もリーグでは屈指の実力だ。右中間に隙はない。

 それと比べる気がなくても、俺の守備は二人と差がある。打撃を重視した外野手。打撃が好調なうえ、レフトにいる分そのイメージが強くなってしまっていた。

 それに対して、キャメロンは極度の打撃不振に陥っていた。新選手であるをアダム・リプコを一軍に昇格させている。リプコはまだスタメンに入っていない。代打で三打席立ち、一四球二三振。まだ求められる結果は残せていなかった。


 左 銀子

 一 堀原

 三 シスラー

 右 神戸

 遊 鮫山

 指 キャメロン

 中 土佐

 捕 下栗

 二 中沢

 投 九条


 今季は初めての一番であった。ホームでの一番は何処か緊張感が違う。

 まだ誰も足を踏み入れていないバッターボックスに立つビジターとは違い、ホームはファンの視線を集めた状態で少し凹みのある土の上に立つ。

 多少は均すが、これは前に立った選手によって土の堀り加減が異なる。掘りすぎる選手の後には立ちたくなかった。

 一打席目はライト線へのツーベース、三回の裏に回ってきた二打席目はセカンドフライ。六回の裏に回ってきた三打席目はレフト前に落ちるボテンヒット。セカンドランナーの中沢は三塁へ進塁した。

 打線は機能していないが、少ない点数で何とかリードを保つ。この回も続く打者が凡退し、無得点に終わった。

 最初の五連敗は帳消しに出来るように勝利を重ね、チームは三位へ順位を上げた。

 この試合も先発九条が六回まで粘りの投球を見せ、継投に繫げた。

 七回からはFAで加入した山本が登板する。この回確実に打席に入る相手の打者は全員左だ。三人左が続く展開のため、安形は様子見で起用した。

 最初の打者は二種類のスライダーだけを用いて、七球でショートゴロに仕留めた。

 二人目の打者は最初に速球を叩きこむ。そういっても、反応から見て意図的に見送られているのはあからさまだ。

 それに気づいたのか、下栗は外角シュートを要求する。引っ掛けたような当たりでファーストゴロ。二球で抑えた。

 この投手の攻略法はこれ。俺はレフトから60と書かれた背中を眺めていた。

 速球の精度が甘く、真ん中に来る傾向がある。変化球は引っ掛けたり、詰まらせたりするために使っている。

 ごまかしの投球といえば簡単か。こういった投手はシーズンの途中で捕まる傾向があった。

 アバントリーグではパワーに依存する傾向がみられる。技巧派の投手と言ってもボールの威力は相手打者を押し込もうとしてくる。

 果たして、山本は打者を押し込めるのか。二度戦えば、なんとかコツを掴める打者は沢山いるだろう。

 この日の山本は三者凡退で締めた。チームは二対一のまま勝利した。これで三連勝。二位のドルフィンズは引き分けたため、三ゲーム差まで縮めた。

 急に息を吹き返したようにチームは勝っている。けれど、心配なニュースも同時に飛び込んでくるのが日常であった。

 翌日、チームのロッカーにて二名の選手の姿が見えなかった。練習も一緒に入らない。それだけ重症なのであろう。

 内野手の源が右手小指を骨折、成宮が肉離れでチームを離れることとなった。

 成宮のみ、その日のうちに抹消された。源の抹消は一日待たれた。よして翌日、監督室に俺を呼んだ安形はあることを頼んできた。

「万斉、ファーストの練習をしてくれないか」

 断れるわけはない。昨年も一応出場している。

「わかりました」

「ミットは俺のを貸してやろう」

 そういって成宮はデパートのマークが側面に描かれた紙袋を俺に渡した。紙袋に入っていた赤と黒のミットは成宮が現役時代に使っていたミットであった。


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