《不定期連載》負けられない者達10 プロ野球チームコメッツの闘い2014
達成まで
あれから、俺はファーストでの出場が続いた。
昨年は外野手のグラブでファーストの守備に就いた。けれど今年は安形が晩年に使用したミットを手に一塁を守っていた。その中の七試合目である出来事が起こった。
指 堀原
二 中沢
一 銀子
三 シスラー
右 神戸
遊 鮫山
中 土佐
左 キャメロン
捕 下栗
投 九条
捕手は下栗が多く使われる。ブロッキングと盗塁阻止が一番の理由か。打撃は五試合でマルチ安打を記録することはない。それでも、後ろに弾いたり、走者を刺せない大橋と比べれば良いほうなのだろう。
打撃のみで上がってこれる捕手などプロでは通用しない。守備は出来て当然の世界において雇っていた理由は数合わせであった。
そして勝つ。試合で勝てる捕手。二番目にボールを扱うポジションゆえ、それは重要になってくるのだ。
下栗は先発投手陣からも信用を得てきた。正捕手として急激に成長している。そんな彼は、エースに等しいレベルの投手とも当たり前のようにバッテリーを組んでいた。
まるで平。平貴志のように九条は三振を重ねていく。出塁はない。四回までに内野ゴロがゼロ。外野フライは二度のセンターフライと三度のライトフライ。ライナーはサードライナーが一度あった。
幸いにも、打線は一回に二点、三回に三点を奪っていた。リードがどんどん広がっていく。それによって、野手の気持ちも緩み始めていた。
そんな気持ちを引き締めるように九条はブルーバーズ打線の出塁を許さない。六回まで終われば、無安打無得点。四死球もエラーも一切ない。
その記録に気づいた野手陣は一気に緊張感が高まった。これはあの展開である。完全試合がかかった試合であった。
外野に戻してほしい。
俺は本音はそちらであった。外野の方がエラーはしない。慣れないファーストでエラーをすることは避けたい。守備範囲の狭さはセカンドの中沢がカバーする。実況が「よく取りました」と口する展開が続くのであった。
三打席目は三振で倒れる。続くバッターは四番のシスラー。今日はソロホームランとスリーランで総得点の半数を占めていた。
シスラーの爆発は今シーズンのチームに勢いをもたらす。それは九条にも影響があるようだ。
七回は三者連続三振。十球で終えた。続く八回はセカンドフライ、ライトフライ、サードフライでアウトを重ねていく。
九条の身体には疲労が見えていた。球数も一二一球に達している。息をしているかのように肩が上下に動く。そろそろ替え時であろう。でも、代わりの投手などいるのか。
八回を三者凡退で終わったのはコメッツも同じであった。先頭の下栗は三振、続く堀原も三振。そして俺に打席が回る。
「打ってやれよ」
ネクストバッターボックスにいるときに、そんな声が聞こえた。そうしたい気持ちは同じだ。打てないから困っている。そんなことはわからないのである。
過去に成宮から「ネクストに立っている時、何を言われても気にするな」と言われたことがある。苛立ちを立たせると打席に影響する。
銀子の名前がコールされる。俺は打席に向かって歩みを進める。
ここで打てなければ五打数無安打。五打席全てアウトになる。打率も出塁率も大幅に下がっている。チームの足かせだ。
結果は四球で三振。ストライクを三度見逃して三振。罵声が飛ぶなか、俺はそそくさとベンチへ戻っていくこととなった。
「万斉」
ベンチで監督の安形から声を掛けられた。
「九回からはレフトを守ってくれ。キャメロンを降ろす。頼めるか」
「はい」
俺はミットから外野用のグラブに履き替えた。
「コメッツ、選手交代をお知らせいたします。ファーストの銀子がレフトに入ります。三番レフト銀子。サードのシスラーがファーストに入りまして、四番ファーストシスラー。サードには大理内が入ります。八番サード大理内。以上になります」
ドラフト三位ルーキーの大理内が守備に入った。身長一六九センチと小柄な両打ち内野手。高校時代はショートだったらしい。名門ではなく、地区予選敗れた高校の出身だ。彼がプロでは二人目らしい。
九条はこの回もマウンドに上がった。相手打者は中井。五月に入ってからは六試合で月間二安打止まり。好調はもう続かないか。
初球の速球を叩いた。大きくバウンドした打球は大理内が捌いてサードゴロ。危ない当たりであった。放物線が描く先を間違えればヒットになる当たりであった。
もしかすると中井は、大理内の身長を見てこの当たりを打ったのか。ベンチに戻る瞬間に一度だけ、大理内を見た。その視線は何処か気に食わなかった。
次の打者の鍵宮はレフトフライ。最後の打者は鈴村であった。
三振で取るのは難しい打者。九条も疲労が回ってきていた。三振で終わらせる力はないか。
下栗は初球に低めを要求した。九条の投げた速球は真ん中に浮いた。鈴村は失投とみなし、スイングを始動した。
結果はキャッチャーフライ。どん詰まりの打球であった。それは下栗が九条の疲労を考慮した結果の最善策であった。若干の横回転がかかった真ん中の速球。それを鈴村は見逃しはしない。
下栗は九条が失投することまでを計算して投げさせた。鈴村が見逃さないことも予想して。
九条は完全試合を達成した。
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