《不定期連載》負けられない者達11 プロ野球チームコメッツの闘い2014
下部リーグ創設
下部リーグ創設
この話が出たのは五月の初旬であった。大手新聞社ベイカム通信の記者の前でガーディアンズオーナーである前馬一義が口にしたのである。
「これはあくまで一案であり、今後選手会との協議前に結論を出す」と述べた。
ベイカムリーグは野球というスポーツにおいて、唯一下部リーグを持たないリーグであった。周辺国のナナダやアインクスでは、既に導入されていることに対しての危機感であろうか。
選手を奪われていくことはリーグ内では危機として感じている。事実、ベイカムリーグは世界三番目と言われている現状を打破出来ていない。
有望な選手をナナダやアインクスに取られることを危惧した機構とオーナー側で検討した結果なのだろう。事実、昨年の高校野球夏の大会で準優勝したチームのエース投手は、ベイカムリーグを介さずにアインクス三部へと渡った。
これに選手会が黙っているわけではない。選手会会長であるタイタンズの小池は「下部リーグ創設にあたって具体的な提示がされないのであれば、拒否するのは当然」と答えた。
「下部リーグ創設にあたって、現在の二軍はどうなるのか。選手の契約やドラフト制度の変更は避けられない。地盤の安定がなければ、プロになろうと思う人がいなくなる。仕事とならなければ、プロを辞める人も増えてしまう。それは野球の競技人口の減少に拍車をかけることにもつながる」と続けて述べた。
私こと今泉はそんな内容を読みながら、コメッツの本拠地があるドームへタクシーを利用して向かった。
タクシーを降りると、一台の外国製のセダンが地下駐車場へと入っていく。その車の持ち主を私は知っていた。
先回りして、地下駐車場とドームを繋ぐ玄関口で待つ。やはり現れた。銀子(かねこ)|万斉だ。カバンを斜め掛けにして駐車場から現れた。銀子の視線はこちらを捉えた。彼も私を知っている。
誰かを待っている。神戸か安形であろうと思ったのか、銀子は軽く会釈をして通り過ぎようとした。私は去っていく銀子を引き留めた。
「銀子さん、待ってください」
「はい?」
自分は取材対象でない。そう思っている。
「ちょっとお話いいですか?」
「はい」
「下部リーグ創設の件は知っていますか?」
「テレビでやっていましたね」
「チーム内で詳しく話したりは……」
「まだですね。コメッツの選手会長ーー土佐慎太郎に訊くとわかると思います」
回答しないように言われているかもしれない。私はそう読んでいると、銀子から私に訊ねてきた。
「今泉さんこそ知りませんか」
「私もわかりません。前馬オーナーもあれ以来、一切答えませんから」
「そうですか、では」
まだ全貌のわからない話であった。
神戸の話によると、選手会に所属する選手は午前中に集まりがあった。具体的な内容は、今年選手会長に就任した鮫山から訊くようにと言われてしまった。
私はコンコースで鮫山を何とか捕まえて、話を聞くことができた。
鮫山曰く、集まりは今後の対応を協議したものであった。とりあえず各球団で見解を表明するためだという。
各球団の選手会長とベイカムリーグ選手会の役員は五月の第三月曜日にスティアスで会合があった。終了後、選手会会長を務める小池は「今回の会合に関してコメントを出さない」と口にして、メディアの前を去っていった。
意見が割れたのではないか。そう世間では見当を付けられていた。
ウィークエンドニュースでは、オーナー側と選手会を「閉鎖的な環境である」と批判するパネリストもいた。それでも、小池は口を割ろうとしなかった。
各球団の監督の反応も芳しくない。タイタンズの明神監督は「直接訊いたがこちらもわかっていない」とコメントした。ヴォルツの住立光洋監督は「下部リーグができたら、監督はどうなるのか。われわれの雇用にも関わる。他人事ではない」とコメントした。
名門ガーディアンズの浜田監督は「オーナーとも直接話した。でもオーナー間でも統一した事項がないようだ。出来るだけ草案を早くまとめてほしい」とコメントした。
反応は社会人野球にも広がった。大手のエイエムバンク代表取締役の八代昭典は「下部リーグが設立されれば、社会人野球との選手の奪い合いになる。こちらにもこちらの長い歴史がある。簡単に口にして欲しいものではない。野球技術の向上や発展、野球文化の普及活動はこちらが大きく関わっている。無下にしてもらいたくない」とコメントした。
事実、育成ドラフトでは社会人野球出身選手は加入を渋られる。エイエムバンクは大きく出たように見えるが、兼ね合いというものもある。不満は独立リーグからも聞こえた。
選手はそんな出来事を頭の隅に置きながら、試合を続けていた。コメッツは二位のまま五月後半を折り返した。
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