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【連載小説】リコとサト 第2話

リコとカケルの場合(1か月前)
1か月前、私は契約社員に登用されたばかりの“ツジ カケル”に会った。
前もって彼の教育係を任されていた私は、空き時間で教育プログラムを作成し、この日を待った。
どんな人かは会ってみないと分からないが、自分がSVになった頃、わからなくて困ったことを思い出しながら作成した。
ツジ君は以前からオペレーターとしてこの会社で働いていたらしい。
来月の契約社員登用をきっかけにSVとなり、今まで在籍していた部署から、この通販受発注の部署に異動をしてきた。
午前中は南マネージャーからの仕事内容などの説明があり、実際に私と顔合わせしたのは午後になった。
その時のことは忘れもしないよ。
ツジ君が南マネージャーと共に私の自席まで来て
「ツジ カケルといいます!!よろしくお願いします!」
と、ブースに響き渡る声であいさつをしてくれた。
「はじめまして、私・・・」
首から下げていたネームプレートを見せながら自己紹介をしようとすると、
「リコ先輩ですよね!!!」
と、ツジ君が言葉を被せてきた。
「南マネージャーから午前中に聞きました!!俺より2つしか年齢が違わないのに、社員さんでバリバリ働いているなんて、尊敬します!」
まったく南マネージャーはツジ君に何を言ったのよ。
周りのオペレーターさんはクスクス笑い出すし、私もどうして良いかわからず変な汗もかいてきた。
「ありがとう…ツジ君のことは南マネージャーから聞いています。」
「はい!!恐縮です!!」
「これ、SVの作業手順の一覧を作成をしておいたの。これに沿って進めていきたいと思うので、ツジ君も目を通してくれるかな。」
用意しておいた作業一覧の冊子をツジ君に渡す。
「俺のために作ってくださったんですか!!恐縮です!!」
受け取ったツジ君が頭を下げる。
「一先ず午後からは自席でこのプログラムを見てもらうね。わからないところがあれば聞いてね。」
「承知しました!」
元気いっぱいのツジ君を自席に案内する。
彼の席は通路をはさんで私の右横だ。
「ツジ君の席はここね。一通りマニュアルもあるし、パソコンのIDとかは南マネージャーから聞いていると思うから、自由に使って大丈夫だよ。」
「ありがとうございます!!」
そう言ってツジ君は、自席があることに嬉しそうな表情で座った。
まっすぐで、裏表のない人。
それがツジ君への第一印象だった。

リコとサトの場合(2か月前・ロッカー室)
なんとなく目が合う二人。
「あの、もしかしたら私と同世代ですかね。」
「そうかも、私25歳です。」
「同い歳だ!そんな人が同じ職場だったなんて知らなかったです。」
「これだけたくさんの人が働いていたら、長く居てもわかりませんよね。」
「それもそうですね。」

「なんか大変そう。」
「やつれてる?笑」
「そうじゃなくって、余裕がなさそう。」
「あ、わかる?今すごく忙しいの。さすがね、見抜いてる!」
「私で良ければ話聴くよ?」
「ほんとに?それがさー…」

「昨日飲みすぎちゃった。」
「あーお店で?」
「いつもやっちゃうの、ある常連さんが来るとね」
「お母さんに怒られた?」
「ちょっとだけね、注意された。でも朝、母のお味噌汁で復活したんだよ!」
「いいなあ、優しいお母さんで。」

「昨日知らない人に声かけられた。」
「え?ナンパ?」
「違うんだけど、びっくりしたよ。」
「大丈夫だったの?」
「うん、平気平気。」

ツジ カケルの出来事(半月前)②
「…誰?」
リコさんだと思っていた女性はそう言って、ホームに着いた電車に乗って行ってしまった。
なんだよ、いつも顔を合わせているのに「誰」って。
なんだ?もしかしてリコさんに似てる人だったのか?
リコさんだと思って追いかけた女性は俺のことを知らなかった。
衝撃すぎて、下りホームに立ち尽くしたまま、俺はしばらく頭の整理が出来ずにいた。
もしかしてリコさんは双子??
あーもうわからねえ!!
とにかくスマホは明日リコさんに渡そう…。

「リコさん。」
翌日、俺は朝一でリコさんに声を掛けた。
「あ、ツジ君おはよう。」
「これ」
俺は拾ったスマホをリコさんに見せた。
「あー!探してたの!ツジ君が拾ってくれてたんだね。」
リコさんは、ほっとしたような表情だ。
「昨日、廊下に落ちてました。」
「ありがとう!助かったよ、南マネージャーに怒られるところだった。」
リコさんはそういうと少し頭を下げて自席へ戻っていった。
俺もリコさんの席までついていく。
「リコさん、あの…。」
「あ、お礼?もちろんしますよー!ランチ、おごらせていただきます!」
リコさんは笑顔でそう言った。
あれ?
昨日のことを知らんぷりをしてる感じでもないぞ。
だとしたら、あの女性はリコさんじゃなかったのか?
あーもうわけわかんねー!
ツジ カケル、こうなると納得するまで暴走が止まりません。
ようし、こうなったら…。

よし、リコさんが退勤したぞ…。
18時、俺は退勤したリコさんがブースを出ていくのを見とどけ、自分の退勤カードをレコーダーにかざす。
そして大急ぎでロッカー室に向かい、帰りの身支度を済ませエレベーターで1階へ降りる。
ビルを出てたところで一人の女性に声をかけられたが
「急いでいるのですみません!」と断り、樹木で隠れることができる所に身を置いた。
そう、俺は今、リコさんがビルから出てくるのを待っている。
昨日のわけわからん出来事をすっきりさせたかった。
あ、言っておくがこれはストーカー行為じゃないからなっ!

「あ…。」
ちょっと季節はずれの一際目立つグリーンのワンピースを着た女性が出てきた。
あれは間違いなくリコさんだ。
この時間は複数企業の退勤時間が重なっているため、大勢の人がビルから出てくるが、間違いない。
よし、行くぞ!
俺は少し距離を置いてリコさんの後を追う。
大通りから横断歩道を渡り、対面の道へ。
やっぱり駅の方向に向かっている。
事態が良く分からないが一先ず追っていこう。
そして…駅が見えてきた。
やっぱりリコさんは駅に向かっているんだ。
改札へ向かう階段を上がり、下りホームへ。
これは昨日と同じだ。
下りホームに電車が来た。
俺はリコさんが乗った車両の隣の車両に乗る。
電車に揺られ20分。
Y駅でリコさんが降りる。
続いて俺も降りる。
リコさんはY駅を出ると、商店街の方向へ歩いて行った。
アーケードは無いが飲み屋や定食屋が並ぶ、結構賑やかな商店街だ。
リコさんは一件の居酒屋へ入って行った。
暖簾には“居酒屋 いこい”と記されていた。
ん?なんだ、飲みに来たのか?わざわざ電車に乗って?あ、誰かと待ち合わせってこともあるか。
店の前まで行き、引き戸のガラス面から店内を伺う。
あー良く見えないな。
かといって店に入ったらリコさんにきっと怪しまれるよなあ。
偶然ですねー、なんて通用しないかもしれない。
しかたない、今日はここまでにしよう。
明日、出直しだ。

翌日。
俺は昨日と同じように、退勤後のリコさんを追った。
やっぱり、リコさんは今日も同じ道のりで“居酒屋いこい”の引き戸を開け、店内に入って行った。
そして俺は昨日と同じように店の前で立ち尽くしている。
どうしようか。
2日続けて同じ店に行くのって不自然だよな…。
行きつけの店だとしても、わざわざ電車で20分かけて行くもんなのかなあ。
もう、考えてもしょうがない、入って確かめよう!

ガラガラガラ。
意を決して恐る恐る引き戸を開ける。
「いらっしゃいませー。」
店内を見ると、カウンターに居る40代くらいの女性が出迎えてくれた。
「おひとり様ですか?」
笑顔で尋ねられる。
はい。と言おうとした瞬間、奥からリコさんがエプロンを掛けながら出てきた。
わ!!まずい!!とっさにそう思った俺は、
「あの、表にある張り紙を見たんですけど・・・」
と言ってバイト募集の張り紙を指さした。
この時の俺の判断に良くやった!と自分を褒めたいぐらいだった。
「あー、バイトをご希望の方?」
女性が笑顔で言う。
「すみません、突然!偶然通りかかったら張り紙が目に入りまして。」
焦っている俺は早口で答える。
「いいのよ、こんな古いお店だけど大丈夫かしら。さあ、こちらにおかけください。」
女性はカウンター席の方を案内してくれた。

どうしよう。リコさんがいる。
何か言った方がいいかな…。
そう思っていると、
「ミワさん、良かったじゃない!元気そうなお兄さんだし大丈夫じゃない?」
リコさんがミワさんと呼ばれるその女性に笑顔で言う。
やっぱりリコさんだった。
見た目も声も完全一致。
「サトちゃん、失礼でしょ、そんな言い方!」
ミワさんがリコさんに向かって注意する。
ん?サトちゃん?リコちゃんじゃなく、サトちゃん?どういうこと??
「もしよければ、うちで働いてください!」
リコさん(サトさん?)が俺に向かって言う。
「住所や連絡先を知っておきたいので、履歴書、明日持ってきていただけるかしら。」
続けてミワさんが言う。
俺は…理解に苦しんだが、一先ず、
「わかりました!明日必ず持ってきます!よろしくお願いします!」
そう言って席を立った。
「こちらこそ、あ、先に名前だけ伺ってもいいかしら。」
ミワさんに言われ、
「ツジモト ショウです!」
と、ひねりのない偽名で答えた。
そしてミワさんとリコさん(サトさん?)に見送られ店を出た。

俺の顔を見ても、偽名を名乗っても、リコさんは何も言わなかった。
それどころか、疑うことすらなかった。
どうなってるんだ?それに明日はどんな顔してリコさんに会えばいいんだよ。
頭の中がぐちゃぐちゃになりながら俺は駅へと向かった。

「ツジ君、おはよう!」
朝、ビルの廊下を歩いていると背後から声を掛けられた。
この声はリコさんだ。
「おはようございます!」
俺は振返り、リコさんに挨拶をした。
リコさんが俺の顔をじっと見る。
動けない俺。
「ツジ君、目の下にクマができてるよ。夜更かしでもした?あ、ゲームでもしてたんでしょう!」
リコさんが笑顔で言う。
そりゃそうだ。
昨晩の出来事が、わけのわからんゲームに巻き込まれたみたいで、眠れなかった。
「もう、業務中に寝ないでよ!」
リコさんはそう言うと早足でブースへ入っていた。
やっぱり、昨日の事を知らんぷりしている態度ではないんだよなあ。
昼休憩中、俺は休憩室で今朝コンビニに寄って買ってきた履歴書を書いていた。
「辻本 翔」ツジモト ショウ。
“いこい”で偽名を名乗ったが、なんてことない、本名の「辻 翔」ツジ カケルに付け足し、
カケルの読み方を変えただけだ。
住所や職歴に関しては偽りなく記入した。
さあ、これで今晩“居酒屋いこい”に持っていくだけだな。

19時。
すでにリコさんは退勤し、俺は雑務で遅くなってしまった。
でも焦ることはない。
“居酒屋 いこい”に居るのはリコさんのはずだ。
なぜか分からないが、そう確信していた。
昼に書いた履歴書の封筒を持ち、ビルを出る。
そこで見知らぬ女性に声を掛けられた。
「すみません、このビルで働いている方?」
「ええ、そうですけど。」
その女性は、60代くらいの人だった。
「すみません突然。あの、この人知っていますか?」
その女性は一枚の写真を俺に見せた。
リコさんだ。
写真は学生時代のものだろうか、今よりも幼く見える。
“〇〇大学”とある門の前でこの女性と一緒に写っていた。
「はい、知っていますよ。同じ会社です。」
俺がそう答えると、
「あー!良かった!私、この子の祖母なんですけど、今この子を探しているんです。」
女性はリコさんのお婆さんだった。
「そうなんですか?でも探してるってどういうことでしょうか。」
俺がこの状況をつかめずにいると、
「昨日からここで待っていても見つからないし、今日には帰らないといけないのに、どうしようと思っていたんです。」
とお婆さんは言う。
話しを聞けば、
・リコさんから連絡がなく、心配して来た。
・家族にはリコさんのことを聞けない状態なので、“友人と旅行に行く”と嘘を言い、新幹線でわざわざ来た。
・リコさん自宅は大学卒業後に引っ越したため知らない。
・会社のビルは仕事が決まった時にリコさんから聞いていたので、それだけを頼りに昨日からここで待っていた。
ということだった。
このビルは人の出入りが多いから、きっと見つけられなかったんだろう。
もしかして昨日、ビルの外で俺に声を掛けてきた女性は、リコさんのお婆さんだったのかもしれない、なんて思い出したりもした。
「今日は俺より先に退勤したのでここで待っても来ないですよ。申し訳ないですが、俺もどこが自宅かは知らないので、俺からお婆さんに連絡するよう伝えておきます。なので、せっかくですが今回は帰られた方がいいかと…。」
本当ならリコさんのマンションを教えたいところだが部屋番号までは知らない。
「そうですか。そうですね、それではお言葉に甘えます。今なら最終の新幹線に間に合います。会いたかったですけどね…」
俺はなんだか、お婆さんがかわいそうになってきた。
「大丈夫です!俺が責任をもってリコさんに伝えますから!」
俺がそう言うと、お婆さんはきょとんとした顔で俺を見た。
あれ、どうかしたか?
俺が何も言えずにいると、
「“リコさん”ってどなた?私の孫は“サトコ”っていうんです。」

衝撃だった。
確かにリコさんの本名は、
“谷口 里子”と書く。
俺はずっと“タニグチ リコ”と思っていたが、
“タニグチ サトコ”が正しかった。
みんなや南マネージャーまでが“リコ”って呼ぶもんだから疑いもしなかった。
そういうことか。
だから“いこい”ではサトちゃんって呼ばれていたんだ。
お婆さんには、そういうニックネームで呼ばれている、と説明し、伝言を承り別れた。
さあ、リコさんはサトさん、ということがわかったぞ。
次はなんで自宅へ帰らず、“いこい”に居るのかを調べないと。
俺は急いで“いこい“へ向かった。
店に着き、俺はミワさんに履歴書を提出した。
そして明日から週3日、“居酒屋いこい”でアルバイトを始めることになった。
この日のリコさんは、客からの注文を聞いたり、配膳をしたりでバタバタしていた。
でも、帰り際に
「辻本君、明日からよろしくねー!」
と言って手を振ってくれた。
明日、リコさんにお婆さんのこと伝えなきゃな。
そう思いながら、俺はリコさんとミワさんに軽く頭を下げた。

第3話へつづく



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