障害のある社員が「できない」とき——タイプ別の確認方法と対話の最初の一手
前作「『障害特性かさぼりか』——その問いに答えが出る前に、職場でできることがある」の続編です。前作では「できない」の背景に4つのタイプがあることを提示しましたが、「では実際にどう確認するか」という実践編として本記事を書いています。
私は精神保健福祉士として、長年にわたって障害者雇用の現場に関わってきた。
「フレームはわかった。でも実際の面談で、どう使えばいいのか」
前作を書き終えてから、ずっと引っかかっていた。タイプ分けのフレームは提示した。問いを変えようとも書いた。だが「実際の面談で、どの順番で何を聞けばいいのか」には答えていなかった。フレームを持っても使い方がわからなければ、持ったまま立ち往生する。本記事はそこを埋める。
「タイプを確認する」とは、どういうことか。まずそこから整理したい。
「判定する」と「一緒に探る」では、対話の空気がまるで違う
「なぜできなかったのですか」という問いは、答えを求める問いだ。
本人は報告を求められている。うまく説明できなければ責められるかもしれない。そういうプレッシャーの下では、防御か言い訳か、あるいは「すみません」しか出てこない。
一方、「どこで止まりましたか」「どんな状況のときにうまくできましたか」という問いは、条件を探る問いだ。本人は「自分の状態を一緒に解き明かす作業をしよう」という文脈に呼ばれている。ここでは正直な言葉が返ってきやすい。
4タイプの確認は、本人を「判定する」作業ではない。「どんな条件があれば動けるか」を本人と一緒に探り当てるための対話の設計だ。この姿勢の違いが、同じ面談でも着地をまったく変える。
4タイプ別の確認と最初の一手——実際の問いかけとともに
(※4タイプの概要は前作「『障害特性かさぼりか』——その問いに答えが出る前に、職場でできることがある」を参照。ここでは各タイプの「実際の確認方法」と「最初の一手」を中心に書く。)
タイプは①から順に確認するのが実務的に効率がよい。①で解決すれば②以降は不要だ。④まで到達したときは、それ自体が重要な情報になる。
タイプ①:やり方・手順がわかっていない
「やります」と答えた時点で、本人の頭に具体的な手順が浮かんでいないことがある。外から見ると意欲があるように見えるが、いざ動こうとすると何から始めればいいかわからず止まる。ASD傾向がある方に多い現象だが、決してASDに限った話ではない。
〈確認の問い〉
「今回、どんな手順でやろうとしていましたか?」
「どこで止まりましたか?」
これを聞くと、「実は最初の一歩がわからなかった」というケースが驚くほど多い。「わかっていないとは言いにくかった」という本音が、ここでやっと出てくる。
〈最初の一手〉
手順を一緒に声に出して整理する。「まず何をして、次に何をする」と本人に言葉にしてもらい、担当者がメモする。本人の口から手順が出てくることで、「これならできそう」という見通しが生まれる。担当者が一方的に手順を教えるのではなく、「一緒に確認する」形にすることがポイントだ。
タイプ②:環境・仕組みが邪魔している
やり方はわかっている。でも外側の条件が動きを阻んでいる。情報量が多すぎる、タイミングが取りにくい、周囲が忙しく聞きにくい雰囲気がある、作業場所や道具の問題——本人の「外側」に原因があるケース。
〈確認の問い〉
「やろうとしたとき、何か邪魔になったものはありましたか?」
「最後にうまくできたとき、そのときはどんな状況でしたか?できなかったときと何が違いましたか?」
「できたとき」と「できなかったとき」の違いを言語化してもらうと、環境側の要因が浮かびやすくなる。本人が「できていた自分」を思い出すきっかけにもなる。
〈最初の一手〉
「できた日の条件」を一緒に書き出す。曜日・時間帯・周囲の状況・直前にやっていたこと。その中から「再現できそうな条件」を一つ選んで試す。すべての環境を整えようとするのではなく、「一つだけ変える」小さな実験として提案すると、行動につながりやすい。
タイプ③:状態・体調に波がある
「できる日」と「できない日」がある。約束した日がたまたま「できない日」だった可能性がある。精神障害や疾病の影響、睡眠のコンディションが出やすいケースで多い。本人は「またできなかった」という事実だけを突きつけられ、原因を説明する手段を持てていないことが多い。
〈確認の問い〉
「週の中で、動きやすいと感じる時間帯や曜日はありますか?」
「この間できなかった日は、体調はどうでしたか?」
「波がある」という事実を、本人が安心して口にできる場をつくることが先決だ。「なぜできなかったか」を追及する空気では、「実は調子が悪かった」という本音は出てこない。
〈最初の一手〉
「波があること」を前提にしてスケジュールを組み直す。重要なタスクは「調子がいい時間帯」に配置する。「今週の調子はどうですか」と一言確認する場を週に一度設けるだけでも、状態の把握が格段にしやすくなる。
タイプ④:業務が特性と合っていない
①②③を確認しても状況が変わらない場合、業務そのものと本人の特性が根本的に合っていない可能性がある。このタイプに至るには、①〜③の確認を経ていることが誠実さの前提だ。いきなりここへ飛ぶと、「向いていない人材というレッテルを貼られた」という受け取り方になる。
〈確認の問い〉
「この仕事を続けていて、特に苦しいと感じる部分はどこですか?」
「どんな仕事なら、少し動きやすいと感じますか?」
〈最初の一手〉
業務の見直しを「あなたが問題だ」ではなく「今の配置を調整する」という文脈で提案する。「この業務の量を少し変えてみる」「この部分だけ別の担当者と入れ替えてみる」という小さな試みから始める。変更の提案を「失敗の証明」ではなく「対話で見つけた改善案」として語ることが、関係を壊さずに前に進む鍵だ。
タイプを「決める」のではなく「一緒に探る」——対話が関係を変える
ここまで読んで、「4つのタイプに当てはめて判断する」という印象を持ったとしたら、それは違う。
タイプはあくまで「対話を始めるための仮説」であって、「結論」ではない。
「この人はタイプ③だろう」と決めつけて話しかけるのではなく、「もしかしたらタイプ③かもしれない」という仮説を持ちながら「調子に波はありますか?」と問いかける。返ってきた言葉を受け取りながら、また次の問いを立てる。その積み重ねの中でタイプの輪郭が見えてくる——それが「確認」の本当の姿だ。
かつて、こんな場面を見た。担当者が、面談の場で「できていること」「がんばっていること」「改善してほしいこと」の順番で話すようにした。それだけのことだ。最初は「また怒られる」という構えで来ていた当事者が、少しずつ表情が変わり、やがて自分から「こんなことを頑張っています」と話すようになった。問題行動は完全になくなったわけではないが、激減した。
変わったのは「何を話すか」ではなく、「どんな順番で話すか」だった。
「やりますか」を「これならできますか」に変える。「なぜできなかったか」を「どの条件が揃えばできそうか」に変える。たったその一言の転換が、「責任を追う対話」を「条件を探る対話」に変える。
明日の面談で、問いを一つだけ変えてみる。それだけが今日から始められる、最初の一手だ。
このnoteでは、障害者雇用の現場で起きていることを、建前なく書き続けています。担当者が一人で悩まなくていいように、専門家としての本音を届けたいと思っています。フォローしていただけると、次の記事もお届けできます。
