障害者雇用の「質」は誰が採点するのか。もにす認定の見直しで、会社から本人へ移る
もにす認定の申請書には、成果を書く欄が二つある。数的側面と、質的側面だ。
数のほうは埋まる。何人雇って、何割が残ったか。手元の名簿と勤怠から書き写せば済む。質的側面の欄は、何を書けば伝わるのかが人によって変わる。書ける人と書けない人がいる。
この感覚は、申請書に限った話ではない。社内で障害者雇用の状況を報告するときも、数の話はすぐ終わる。その先を何と言えばいいのかは、毎回考え直すことになる。
その申請を6年間受け取ってきた側が、7月24日の審議会にこう書いた資料を出した。
「認定事業主の取組に偏りがあり、障害者雇用の量的側面に関する指標が良好な企業が取得しやすい傾向がある」
質を評価するために作った制度に、量の指標が得意な会社が受かりやすい。そう書いたのは、その制度を所管している側である。
7月24日の労働政策審議会・障害者雇用分科会は、この制度をどう作り直すかを議論した。同じ日の参考資料によると、分科会は6月から月1回ほどのペースで議題を順に片づけており、「質」はその2つ目にあたる。報じられたのは主に「認定基準を見直す」「大企業も対象に広げる」という部分だった。
ただ、資料は58ページある。後半まで開くと、報道が拾っていない記述がまとまって出てくる。そこに書かれているのは、国が質を測ろうとして6年やってみた結果である。

「質」を測る制度は、6年前からもう動いている
もにす認定は2020年4月に始まった。障害者雇用に積極的に取り組む中小企業を厚生労働大臣が認定し、マークの使用を認める制度である。「ともにすすむ」から名前が取られている。対象は常時雇用する労働者が300人以下の事業主に限られてきた。
認定を受けた企業は、2026年3月末時点で611社。うち145社が特例子会社だ。
この数字だけを見ても多いか少ないか判断がつかないので、同じ厚生労働省が持っている他の認定制度と並べてみる。仕事と子育ての両立に取り組む企業を認定するくるみんは5,770社。女性活躍推進のえるぼしは4,313社。若者の採用・育成に積極的な企業を認定するユースエールは1,984社。
もにすだけ、桁が一つ違う。対象が中小企業に限られている分を差し引いても、ユースエールも同じく300人以下が対象である。それでも3倍以上の開きがある。

数える制度と、質を問う制度は、別々に育つ
なぜこの差が生まれるのか。制度の歴史をたどると、理由の一部が見えてくる。
日本の障害者雇用政策は、長いあいだ「数える側」だけが精密になってきた。法定雇用率があり、納付金があり、達成企業への調整金と報奨金があり、除外率があり、重度障害者のダブルカウントがある。どれも数を数え、数に価格をつけ、数で企業を動かすための仕組みだ。半世紀をかけて積み上げられている。
一方で「質を問う側」は、2020年のもにす認定が実質的な第一歩だった。まだ6年しか経っていない。
障害者職業総合センターが2026年3月にまとめた調査研究報告書は、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの4カ国と日本を比べて、それぞれの障害者雇用施策を整理している。並べて読むと、各国が持っている道具は大きく二種類に分かれる。雇用義務と納付金で数を動かす仕組みと、差別禁止と合理的配慮の提供義務で扱いを動かす仕組みだ。
日本は前者を半世紀かけて磨いた。後者は2016年に合理的配慮の提供が事業主の義務になったところで、まだ日が浅い。数を達成することと、配慮が機能していることが、別々の指標として管理されているわけでもない。
611社という数字は、その育ち方の差がそのまま出たものだと読める。
今回の見直しは、この「もう一層」を本格的に作りにいく動きである。質とは何かを法律とガイドラインで定義し、それを満たす企業を認定し、認定にメリットを付ける。大企業も対象に加える。ここまでは、報道されているとおりだ。
問題は、その第一歩がどう転んだかを、資料が正直に書いていることのほうにある。
質を測ったら、量の得意な会社が受かった
冒頭に引いた一文には、根拠となる調査が付いている。2020年4月から2023年12月末までに認定された372社について、申請時にどの取組でポイントを取っていたかを集計したものだ。
その結果として、厚生労働省は「認定事業主の取組に偏りがあり、障害者雇用の量的側面に関する指標が良好な企業が取得しやすい傾向がある」と書いた。
認定基準は加点方式で、50点満点のうち20点を取れば認定される。特例子会社は35点。

実雇用率が法定の3倍以上あることに6点、定着率が一定水準を超えていることに6点が配られている。この二つで12点。合格ラインの半分以上が、数えられる二つの項目で埋まる。
対して、社長が障害者雇用の方針を社員に発信していることは1点。外部機関との連携も1点である。
集計を見ると、実際にそのとおりに動いていた。6か月定着率90%以上で得点した企業が259社、1年定着率80%以上が221社、外部機関との連携が256社。一方で、専門的な社内研修の充実で得点したのは96社にとどまる。
誰も数字でごまかそうとはしていない。質を測りたくて作った制度である。ただ、質のうち数えられる部分だけが配点の重心になり、そこが得意な会社が上がってきた。量は、質の代わりとして置かれたわけではない。測れるという理由だけで、質の席に座った。
認定が届いた先は、地方紙だった
もう一つ、資料の後半に置かれている調査がある。
厚生労働省は2026年の5月から6月にかけて、9つの労働局に電話でヒアリングを行った。大規模・中規模・小規模の局を3つずつ選んでいる。聞いたのは、もにす認定を取った企業にどんなメリットを届けられているかだ。
結論として、資料はこう書いている。「認定について必ずしも効果的な運用がされているとはいえない状況にあった」。
抜粋された職員の声を読むと、内訳が見えてくる。
「もにす認定を認識していない求職者が多い」
「求職者は職務内容や勤務地等その他の条件に注目しているため、求人者が認定を得ているかどうかでマッチングをすることはあまりない」
「もにす認定企業の求人数に限りがあることから、認定事業主に限定した合同面接会を開催したことはない」
厚生労働省が認定のメリットとして挙げていた「認定事業主に限定した合同面接会」は、開いたことがない局がある。求人の数がそもそも足りないからだ。
私自身、支援の現場で認定マークが効いた瞬間を見たことがない。求職者がマークを見て応募先を決めた場面にも、企業が認定を取ったことで採用が動いた場面にも、まだ出会っていない。各地の労働局が認定通知書の交付式をやるので、会社の名前が地元紙に載ることは知っている。効いているのはそこまでだ。
これも資料に書いてある。「認定が出る度に報道機関に対してプレスリリースをし、認定通知書交付式には報道機関より取材があることから、認定を受けた事業主の情報については地方紙に掲載される傾向にある」。
届けたかった相手は求職者だった。実際に届いていたのは地方紙だった。
さらにその下に、こうある。「局内で初めて認定取得がされた際はプレスリリースをしていたが、報道機関からの反応がなかったため、2回目以降はプレスリリースをしておらず、報道機関からの取材もない」。
最後に残った広報という回路も、反応がないので止めている局がある。
念のため書いておくと、資料には逆の声も併記されている。応募条件に合う場合は認定を一つのプラス材料として求職者に提案することはある。マークを知っている求職者が、それをきっかけに応募することもある。だから、まったく効いていないのではない。効く回路が細い、というのが正確な言い方になる。

だから次は、採点者が会社から本人に移る
資料の後半で示されている次の設計は、この6年の記録を踏まえたものになっている。
新しい認定基準の方向として、資料はいくつかの例を挙げている。そのうちの一つが、これまでと明確に性質が違う。
障害のある社員自身に、事業活動へ貢献できていると感じるか、働きがいがあるかを定期的にアンケートで尋ね、その結果が一定割合以上であることを要件にする。しかも比較の対象として、障害のない従業員の貢献実感と同等以上、という水準が例示されている。
これは項目の追加ではない。これまでの認定は、会社が測った数字を会社が申請する構造だった。何人雇っているか、何割定着したか、どんな研修をやったか。集めるのも書くのも会社である。新しい基準は、そこに本人が答えた言葉を置く。会社がどれだけ丁寧に取り組んだかではなく、その職場で働いている人が何と答えるかが、合否に効いてくる。
3年間、定着率の欄を満点で埋めてきた会社で
採点する人が、会社から本人へ移る。
この移動が何を意味するかは、具体的な場面に置くとわかりやすい。
ある会社が、過去3年間の定着率で満点を取り続けているとする。入った人は誰も辞めていない。申請書のその欄は、毎年すらすら埋まる。
同じ3年間、その人は同じ作業をしている。書類のスキャンと封入と、データの入力。増えても減ってもいない。本人が努力しなかったわけでも、教える人がいなかったわけでもない。ただ、任される範囲を広げる話が一度も出ないまま、3年が過ぎた。
現行の基準では、この会社は認定を取れる。定着率は満点で、離職はゼロだ。
新しい基準では、その3年を過ごした人が「この仕事は自分の力が要ると思うか」と聞かれる。何と答えるかは、聞いてみるまでわからない。
そして多くの会社は、要件になった年に初めてその質問をすることになる。制度が要求してきたから、急いで測る。返ってくる答えは、それまで一度も聞かれなかった3年分の答えである。
質を上げると、雇う人数が減るという計算
もう一つ、資料が正直に書いていることがある。
認定を取った企業にどんなメリットを付けるか、という論点で、雇用率の算定上で優遇する案が検討された。たとえば認定企業は1人を1.5倍として数えてよいことにする案だ。
事務局はこの案について試算を出している。くるみんと同じくらいの割合まで認定が広がったと仮定すると、約2万7千人分の雇用量が減る。同じ雇用率を、より少ない人数で満たせるようになるからだ。
そして資料には、こう書かれている。「雇用の『質』の向上により、雇用の『量』を減少させる点について、どう考えるか」。
質を上げた会社ほど、雇う人数が少なくて済む。質の高い職場が減り、質が相対的に低い会社がより多くの人数を引き受ける。この逆転を、事務局は自分で計算して、自分で問いとして置いた。
金銭で報いる案についても、資料の評価は冷えている。調整金や報奨金に加算する方法は検討されたが、現場企業の率直な声として「経済的メリットがあるに越したことはないが、だからといって質の向上に取り組もうとは考えない」という一文が載っている。金を積んでも質は動かない、と企業側が言っている。
そこで最後に残った案が、ハローワークで求職者に案内するとき認定企業を先に紹介する、合同面接会で優先的にPRする、支援機関や就労移行支援事業所に認定企業の一覧をデータで渡す、といった内容だった。
質に対する報酬として国が最後まで残したのは、金でも雇用率の割引でもない。人が先に来る、という順番である。
ただしそれは、いま機能していないと自分たちで書いた回路でもある。
「うちはうまくいっている」の根拠は、誰が採点した数字か
ここまでの話は、認定を取るかどうかとは別のところに効いてくる。
障害者雇用の担当者は、年に何度も「うちはうまくいっている」と言う場面に立つ。経営会議の報告、採用計画の稟議、支援機関との定例、社内報の原稿、そして6月1日の報告。
そのとき根拠として口をつくのは、たいてい人数と定着率と勤続年数である。他に言える言葉を持っていない。
これは担当者の怠慢ではない。会社が自分で測れるのは、その三つだけだからだ。何人いるかは数えられる。何割残ったかも数えられる。だが、その人が自分の仕事に手応えを持っているかどうかは、聞かなければわからない。聞いていないものは、報告に書けない。
だから、次に「うまくいっている」と言いたくなったとき、根拠を二つに仕分けてみるといい。会社が測った数字か、本人が答えた言葉か。
雇用人数、実雇用率、定着率、勤続年数、離職件数。これらは全部、前者である。後者が一つもないなら、まだ量の話をしている。
新しいシートは要らない。満足度調査の設計も、いまはまだ要らない。すでにやっている面談のなかで、「困っていることはありますか」の隣に一つ置いてみるだけでいい。
この仕事は、自分の力が要ると思いますか。
去年と比べて、任される範囲は変わりましたか。
記録しない前提で聞く。評価にも申請にも使わないと最初に言う。そのほうが、返ってくる答えが違う。
制度が要件にしてから慌てて測る会社と、要件になる前に一度聞いておいた会社では、同じ質問をしても手元に残るものが変わる。前者が手にするのは、聞かれなかった年月ぶんの答えだ。後者が手にするのは、変化を追える記録である。認定を取るかどうかにかかわらず、後者のほうが、経営会議で語れることが多い。
この問いは、障害のある社員だけには効かない
「この仕事は自分の力が要ると思うか」という問いに答えられない社員は、障害者雇用の枠にだけいるわけではない。
数年同じ業務を担当し、手順は完璧に覚え、誰にも迷惑をかけていない。定着率にも離職率にも表れない。評価面談では「問題なし」と書かれる。そういう人は、どの部署にもいる。
質を測る指標を持たない組織は、障害のある社員の仕事の意味を測れていないのではない。全員の仕事の意味を測れていない。障害者雇用は、その欠落がいちばん早く数字として表に出てくる場所にすぎない。
だから、ここで作った問いは横に広がる。障害のある社員との面談で試した一問は、そのまま来期の目標面談に持っていける。逆は起こりにくい。全社の仕組みを変えてから障害者雇用に降ろす順番では、たいてい途中で止まる。
聞けば測れるのか、はまだわからない
では、本人に聞けば質が測れるのか。そこは私にもわからない。
「不満はありません」としか返ってこない職場は珍しくない。答える側が、答えることで何が起きるかを計算している職場では、質問を足しても採点者は替わっていない。会社が測った数字が、本人の口を借りて出てくるだけだ。
新しい認定基準がそこまで見抜けるのかは、これから決まる。基準の細部は、これからの議論に委ねられている。
それでも、聞かれたことがある人と、一度も聞かれたことがない人とでは、次に聞かれたときの答えが違う。そこは確かだと思っている。
量は、制度が数える。質は、誰が採点しているかで決まる。
出典・参考資料
・厚生労働省「第140回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料)」2026年7月24日、資料1「障害者雇用の『質』について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74775.html
・厚生労働省「労働政策審議会(障害者雇用分科会)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126985.html
・障害者職業総合センター(2026年3月)「諸外国における障害者雇用施策の現状と課題に関する研究」調査研究報告書 No.188
https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku188.html
※もにす認定の認定事業主数(611社)、くるみん・えるぼし・ユースエールの認定実績、認定基準の配点、労働局へのヒアリング結果、雇用率算定上の試算は、いずれも上記資料1に基づく。認定基準および認定制度の見直し内容は2026年7月時点で議論中のものであり、確定した制度ではない。
障害者雇用の担当者が、一人で悩まなくていいように。
制度の議論は年々細かくなっていくのに、現場で聞かれるのは「で、うちはどうすればいいんですか」という一言だけ、ということがよくあります。審議会の資料を全部読む時間はないけれど、方向は知っておきたい。そういう人に向けて、このnoteでは制度の動きを現場の実務に翻訳しながら、職場の対話をどう設計するかを書いています。
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