第14話:出張前夜の憂鬱。
「……はぁ」
静かなリビングに、今日何度目か分からないため息が響く。
仕事の時は「氷の部長」なんて呼ばれてる俺やけど、
今の俺は、アンティークの革張りのソファから一歩も動けず、完全に使い物にならなくなっていた。
明日から、札幌へ3日間の国内出張。
(……明日から札幌か。……たった3日、たった72時間の辛抱やって、頭では分かっとるんやけど……君に会えんとか、絶望的すぎやん?)
視線の先では、君が床に広げたスーツケースに、
俺のシャツをせっせと詰めている。

(……そんな無防備な背中見せられたら、余計行きたくなくなるやんか……)
君が振り向こうとした、その瞬間。
限界を迎えた俺はソファから立ち上がり、
君の背後に静かに回り込んだ。
そして、無防備なその身体を、
後ろからすっぽりと抱きしめる。
「……しゅうやん?」
「……荷物ありがと。後は俺がやるよ?」
君の首筋に顎を乗せると、
甘い石鹸の匂いが俺の理性をぐらぐらと揺さぶる。
開いた白シャツの胸元から覗く、
いつものシルバーのリングネックレスが、君の背中に冷たく触れた。
「……それより。俺、明日から3日間も、君のこの匂い嗅げんくなるんやけど……どうしたらええ?」
すぅっ、と深く息を吸い込むと、
君の肩がびくっと跳ねる。
(……あかん、柔らかすぎ。君の体温感じたら、もう絶対に離したくないやん……)
首筋に這わせた俺の手に、無意識に力がこもる。
「……仕事なんだから、仕方ないでしょ?」
「頭では分かっとるけど。……でも、不安やねんなぁ」
普段の俺からは絶対に出ないような、ずるくて、弱い本音。
でも、それだけじゃない。
「……俺がおらんくても平気、なんて顔されたら、出張いきたくなくなるやん?」
込み上げる独占欲に火がついて、君の身体を強く抱き寄せる。
「……だから、俺の3日分。……いまからぜんぶ、充電させて?」
K.🌙
