中心にはYouを
今日も今日とて引き続き美容室の話。
先日行った美容室は、駅前のテナントの並びにある。1階がテナントで上が住居になっているビルだ。駅前のテナントと言っても、何店舗かはシャッターが降りていて「テナント募集」の張り出しがされている。
その並びにあるその美容室は、白の壁に大き目な窓やガラスの扉が印象的だ。ビル自体は灰色っぽい、なかなか年季の入ったビルなので、その美容室だけ明るく見える。だから、とにかく人目につきやすい。
カットをしてもらっているとカランコロンと軽快な音が鳴った。ガラスの扉を半身が入る程度開けて、おばあさんが立ち尽くしている。担当の美容師さんは「少々お待ちください」と私から離れ、「いらっしゃいませ~」と扉の方に向かった。
「……ここ、髪切れる?」
「はい、ご予約いただければできますよ」
「今日もいけるん?」
えっと……と言いながらカウンターに入りなにやら端末を操作する美容師さん。
「今日だと、いつごろがよろしいですか?」
「そうやねえ……。3時とか……」
「カットだけですかね?染めますか?」
「カットだけ……」
「でしたら、3時半からはいかがでしょうか?」
「ああ、いけるん?ほなお願いします」
その後いくつかのやりとりをして、おばあさんは去って行った。
「お待たせしました~」と戻ってきた美容師さんが戻ってきた。私はいえいえと答えつつ、先ほどの光景について尋ねた。
「よくいらっしゃるんですか?直接予約に来る人」
「けっこういらっしゃいますね!」
「お年寄りが多い?」
「ご年配の方、多いです!」
我が町は、地方によくある、高齢者の多い町である。その光景が頻発するのは、容易に想像がつく。
「ご予約来てくださるのはいいんですけど、たまに予約した時間にいらっしゃらなくて」
ああ、それは困るだろうな。美容師さんだってそのために枠を空けているわけだから。こんなことが立て続けにあれば商売あがったりだろう。そう思って「迷惑ですよね」と私が相槌を打とうとしたとき、美容師さんは言った。
「ご連絡がないと、心配で。途中で倒れていないか、とか」
ああ、この人は、生粋のサービス業の人だ。私は、「迷惑ですよね」という言葉をひっこめて「これからの季節、熱中症とかありますもんね」と取り繕った。なんだかとっても恥ずかしい。
先日、知り合いの経営者さんとお話していると、こんなことを言われた。
「どんな商品やサービスも、その中心には"You"がおらなあかん。"I"だけの商品やサービスは、絶対売れへんから」
つまり、自分だけが得するような設計の商品やサービスでは、買ってもらえない、ということだ。
ライターとは文章というツールを使ったサービス業だと私は思っている。私の文章にも"You"が、読者であるあなたが必要だ。
数分後、またもやカランコロンと音が鳴った。ドアの先には私より少し年上らしきお姉さまが立っていらっしゃった。スマホを片手に困り顔である。
「すみません、道を教えていただきたくて……」
「はーい」と、今度は別の美容師さんが対応し始めた。
こちらもおすすめです。
