GSと毛穴洗顔料
今ほど暑くはない、30年ほど前の夏。
轟いていたのはギャアギャアとうるさいクマゼミではなく、アブラゼミのジーという鳴き声だった。
小学生時代の夏休み、楽しみといえば『子供アニメ大会』だった。夏休みなどの長期休暇の間だけ、午前中にやっていた番組である。だいたい2時間ぐらいで『クレヨンしんちゃん』や『おジャ魔女どれみ』などの人気アニメが再放送されていた(ちなみに、高校野球が始まるとこの番組は中止、あるいは短縮放送となるため、当時の私はひどく高校野球嫌いであった)。
そんな『子供アニメ大会』の中でも、私が最も気に入っていたのは『ゴーストスイーパー美神』である。
長い髪なびかせて 悩ましげなボディ
この都会をハイヒールで跳び回れば
Big money coming,yeah!
摩天楼の足下 時代錯誤の罠
血迷った危ない奴らなら 極楽へいかせちゃうわ
大胆な私の業の中 どれでもスキなのをあげる
子ども向けアニメのものとは思えない、どこか湿度を帯びた歌詞。子どもでは想像もつかない、ジャズ調のメロディ。見てはいけないものを見ているような、なんともいえない背徳感を当時の私は感じていた。正直、話の内容はあまり覚えていない。ただ、その印象的なオープニングに、私はどえらくはまったのである。
この『ゴーストスイーパー美神』のオープニングを聞くと、思い出す情景がある。
当時、小学校では夏休みのプール解放の時間があった。来ても来なくてもいいが、来たいなら勝手に来なさいという制度だったと記憶している(今思えば相当おおらかである)。そのプールに行く前のギリギリの時間に、『ゴーストスイーパー美神』は放送していた。
『ゴーストスイーパー美神』と同じくらいはまっていたものが、そのころの
私にはあった。某有名メーカーの洗顔料だ。白い5cmぐらいのボディに青いキャップで、ジェル状の洗顔料だった。くるくると小鼻のあたりをマッサージしていると、その部分がポカポカとあたたかくなる。それを冷えた水でぴしゃっと洗い流すのが快感だった。
その洗顔料は、そもそも私のものではない。8歳上の、当時高校生だった姉の私物だ。それを、私は姉がいない間にこっそりと使っていたのだ。
『ゴーストスイーパー美神』が始まり、いつものオープニングを見ながら水着に着替える。その上からワンピースを着るあたりでオープニングは終わる。その後「長い髪なびかせて~♪」と髪をなびかせ(実際はショートカットなのでかき上げているだけだったが)、洗面所に向かい毛穴洗顔料で洗顔する。気分は真夜中の摩天楼をハイヒールで闊歩する、主人公・美神令子そのものである。これが、私のルーティーンだった。
この秘密の儀式を終えたのち、私は真夏の外に飛び出していき、何食わぬ顔でみんなと一緒にプールを楽しんでいた。
その心のうちでは「私はきみらと違って大人の階段をのぼっているんだぜ」と、よくわからない優越感を抱いていたものである。
さて、時は流れて現在。『子供アニメ大会』は影も形もなくなり、あの洗顔料もとっくの昔に廃盤になってしまった。私の鼻の毛穴も、すっかり角質に占拠されている。
そんな私も親になった。子どもがYouTubeを見すぎている状況に苦言を呈することも多い。しかし、当時の私だって似たような生活をしていた。『子供アニメ大会』がYouTubeに変わっただけである。私の夏休みなど暇の権化だったではないか。どの口が息子に文句を言うのか。
同時に、夏休みなんてそれぐらいでいいのではないか、と思う。特別なイベントばかりでは疲れてしまう。「暇~」とゴロゴロしている時間があるぐらいが、丁度いいのではないか。
などと、子どもを連れだしてやれない現実に、そっと言い訳を添えてみるのであった。
本作はきいろいろさん主催『 #夏の思い出交換日記 リレー』に寄せたものです。
明日8/3のご担当は花こあらさん。
明日もお楽しみに!
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