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困難な時代を越えて ─アダム・シュレンジャーに捧ぐ:Fountains of Wayne 『Troubled Times』|感情の設計図#4

拝啓、アダム・シュレンジャー様。


あなたが52歳で早すぎる生涯を閉じてから、早いものでもう5年もの月日が経ちます。
それは日本でも緊急事態宣言が発出され、新型コロナウイルスによる先の見えない困難に直面していた時でした。


少しだけ、きっともう届かない手紙を書きます。


あなたとクリス・コリングウッドが結成したバンドFountains of Wayneの作品に僕が初めて出会ったのは、2002年頃のこと。

WeezerやBen Foldsに触れて洋楽の魅力を知った当時大学生の青年は、ディスクユニオンやバナナレコード、レコファンの中古売り場で、むさぼるように視聴しては気に入った作品を買い求めていたものです。そこで出会ったのが1stでした。



1st『Fountains of Wayne』

パワーポップの魔法が詰まっていた96年の1st『Fountains of Wayne』には、甘いメロディの奥に、ざらついたグランジの肌感をこっそりと忍ばせていましたね。

1st『Fountains of Wayne』



2nd『Utopia Parkway』

99年の2nd『Utopia Parkway』ではグランジ風味が薄まり、カントリーやブリットポップの影響も受けつつ、よりメロディと憂いに磨きをかけた作風が確立していました。

2nd 『Utopia Parkway』


特に「Troubled Times」には内向的な思春期のナイーブな感情が幾重にも織り込まれていました。当時、取り憑かれたように何度も繰り返し聴いたものです。そして今でも、この歌詞が胸を掻きむしります。

Maybe one day soon
It will all come out
How you dream about
Each other sometimes
With the memory of
How you once gave up
But you made it through
The troubled times

いつかきっと、すべて明らかになるだろう
今もたまに、互いに夢に見ることを
かつては諦めた記憶があるのに
どうにかやり過ごした、あの辛い時期を

『Troubled Times 』より



3rd『Welcome Interstate Managers』

僕がリアルタイムであなたの新譜に触れたのは、2003年の3rd『Welcome Interstate Managers』。弾けるような極上のポップソング集でした。特にリードシングルの「Stacy's Mom」は2億回以上再生されました。
あなたたちの代表曲として、いまでも聞き継がれています。

この曲もそうですが、あなたたちの曲には「She」「He」などの三人称が多く登場します。第三者の視点を通して感情表現するストーリーテリングが、豊かな世界観を成り立たせていました。

3rd『Welcome Interstate Managers』


2007年、2011年とFuji Rock Festivalで見たその姿を一生忘れることはないでしょう。



困難な時代を越えて

あなたが亡くなり5年が経ちました。コロナウイルスの猛威は去りましたが、あなたにはもう会えない。会えないのです。
リアルタイムでFountains Of Wayneが演奏すること、それを目の当たりにすることは永遠にないと思っていました。

その矢先に飛び込んできたニュース。再始動、そして来日公演決定。


かつて何度もあなたたちの来日公演をともにしていたASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文さんのメッセージに、この場にかける想いが滲んでいます。

その後、彼らの活動は止まってしまった。インタビューなどを読んだり、メンバーたちの活動状況から察するに、もう観られないのかなと思っていた。そして、新型コロナでアダムは亡くなってしまったというニュース。信じられなかった。彼の死後の幸福を願って止まないが、やっぱり今でも悲しい。

Fountains Of Wayneの再始動のニュースはとても嬉しい。しかも再始動してふたつ目のライブにNANO-MUGENを選んでくれた。感謝しかない。アダムが亡くなってしまったことは残念でならないけれど、彼がバンドと一緒に残した曲は永遠だから、その楽曲が横浜で響く瞬間を心に焼き付けたいと思う。

「NANO-MUGEN FES.2025に寄せて②」より抜粋


僕は今回、残念ながら会場に駆けつけることは叶いません。

ですが、再始動したあなたたちの姿を若い人たちが見て、その青い音に触れる体験をするでしょう。そしていつかまた、あなたたちの影響を受けた新たな素晴らしい音楽が生まれていくでしょう。

その時を、空の向こうでゆっくりと見守っていてくださいね。

それではまた、音源で会いましょう。あの頃の声で、あの頃の心で。



補足:Fountains of WayneのPeople Tree

Fountains of Wayneが主に活動したのは、1990年代後半~2000年代。彼らを表すキーワードの「パワーポップ」は、1960年代のThe BeatlesやThe Kinksなどのブリティッシュ・ロック、1970年代のCheap TrickやTodd Rundgrenなどから影響を受けた、キャッチーな「歌メロ」とコーラス・ワーク、弾けるようなビート感のバンドサウンドだった。

同時期に活動を始めたWeezerが現代パワーポップの象徴であり太陽であるならば、Fountains of Wayneは月といえるかもしれない。でもそれは決して地味というわけではなく、端正ながらもシニカルな遊び心とオマージュ、つまり先人への敬意と愛情に満ちた作風ゆえだったのだと思う。

日本においては、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやGoing Under Groundなどが彼らと同時代に活動し、音楽的にも共鳴していた。

僕は、音楽が、好きだ。


タイフーン寺尾事務所様による『Utopia Parkway』の素晴らしいレビュー記事もありました。


ご興味を持っていただいた方へ。他の楽曲も👇で紹介しています。
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