知らないと一瞬で壊す。オシロスコープ測定で絶対に避けたい8つの落とし穴
前回の記事、計測器を知らないと、基板評価は"勘"になる。基板・装置評価で最初に押さえたい測定器の話(導入編)の続きで、オシロスコープ編です。
電子回路の測定で欠かせないオシロスコープ。
波形が見えると、回路の状態が一気に理解できる便利な測定器です。
ただし、便利な反面、使い方を間違えると測定器を壊す、回路を短絡させる、場合によっては感電につながることもあります。
特に危ないのが、
「とりあえずGNDをつなぐ」
「複数チャンネルで同時に測る」
「高電圧を普通のプローブで見る」
といった、慣れてくるほどやってしまいがちな操作です。
この記事では、オシロスコープを安全に使うための基本ポイントを整理します。
オシロスコープの基本的な使い方を説明している記事が多数あるため、本記事では一歩踏み込んだ内容にしたいと思います。
まず押さえたい基本ルール
オシロスコープを使うときは、最低限、次のポイントを意識しておく必要があります。
1つ目は、異なる電位の回路を同時に測定しないことです。
特にAC系とDC系、あるいは基準電位が違う回路を複数チャンネルで同時測定する場合は注意が必要です。
2つ目は、基本的に電源コンセントのFGを接続しないことです。
ただし、これは「常にFGを外せば安全」という意味ではありません。フローティング測定には別の危険があるため、後ほど詳しく触れます。
3つ目は、高電圧測定では必ず高圧プローブを使うことです。
通常のプローブで高電圧を測るのは非常に危険です。
4つ目は、FETプローブの取り扱い方についてです。
FETプローブやコネクタ部は意外と繊細です。計り方の間違い、つなぎっぱなしにしておく、引っ掛けたり、曲げたり、破損させたりする原因になります。
落とし穴①:複数チャンネルのGNDは独立していない
オシロスコープで最も重要なのに、意外と見落とされやすいのがここです。
多くのオシロスコープでは、各チャンネルのGNDは内部で共通になっています。
つまり、CH1のGNDクリップとCH2のGNDクリップは、電気的にはつながっています。
そのため、基準電位が違う2点にそれぞれGNDをつないでしまうと、オシロスコープ内部を通じて短絡が発生します。
これは単なる測定ミスでは済みません。
回路を壊す可能性があります。
オシロスコープを壊す可能性があります。
高電圧が絡む場合は、作業者に危険が及ぶ可能性もあります。
複数チャンネルで同時測定するときは、
「各チャンネルは同じGND基準の信号を測っているか?」
を必ず確認する必要があります。

落とし穴②:FGを浮かせれば安全、ではない
基本的に電源コンセントのFGは接続しない、とされています。
理由は、プローブのGNDとオシロスコープのFGが同一だからです。
測定対象のGNDがFGに対して電位を持っている場合、そこへプローブGNDを接続すると短絡する可能性があります。
では、FGを浮かせれば問題ないのでしょうか。
ここが危険なポイントです。
FGを浮かせることで短絡を避けられる場合はあります。
しかしその代わり、オシロスコープの筐体そのものがフローティング状態になります。
つまり、条件によっては筐体に触れることが危険になる可能性があります。
ノイズの影響を受ける場合など、FGを接続した方がよいケースもあります。
ただし、その場合も測定器を破壊しないよう、回路構成と電位関係を十分に確認する必要があります。
大事なのは、
FGをつなぐ/つながないを作業習慣で決めないことです。
毎回、測定対象の基準電位、電源系統、接地状態を確認してから判断します。

事前準備:プローブの種類
説明の前に、プローブの説明を簡単にします。
オシロスコープで使う電圧プローブは、大きく分けると受動型(パッシブ)と能動型(アクティブ)があります。
受動型プローブは、一般的によく使う普通のプローブです。
代表例は10:1パッシブプローブで、電源波形や信号波形の確認など、幅広い測定に使われます。
高い電圧を測る場合は高電圧プローブ、特定条件の測定では抵抗プローブなどを使います。
一方、能動型プローブは、プローブ内部に電子回路を持っているタイプです。
代表例として、アクティブプローブ、FETプローブ、差動プローブがあります。
アクティブプローブは、高周波信号を測定するときに使われます。
通常のパッシブプローブよりも入力容量が小さく、測定対象の回路に与える影響を抑えやすいのが特徴です。
そのため、高速なデジタル信号や微小な高周波波形を確認したいときに有効です。
FETプローブは、アクティブプローブの一種として扱われることが多く、高インピーダンスで微小信号の測定に向いています。
ただし、内部回路を持つため、接続順や取り扱いを間違えると破損しやすい点に注意が必要です。
差動プローブは、GND基準ではなく、2点間の電圧差を測るためのプローブです。
オシロスコープのGNDを直接つなぐと危険な回路や、浮いた電位の信号を測るときに使います。
以降では、特に注意が必要な高電圧プローブとFETプローブについて整理します。

落とし穴③:高電圧を普通のプローブで測らない
高電圧測定では、専用の高圧プローブを使用します。
ノイズ波形やAC電源波形を測定するときは、想定以上の電圧が入力されることがあります。
特にノイズシミュレータを使用する場合、印加電圧が高くなるため、通常のプローブでは耐圧不足になる可能性があります。
私の所属先ではノイズシミュレータの電圧は最大4000Vであっても、波形測定は1500Vにとどめること、とされています。
ここで重要なのは、
印加できる電圧と安全に波形観測できる電圧は同じではない、ということです。
「定格ギリギリまでいけるだろう」という考え方は危険です。
プローブ、オシロスコープ、測定対象、周辺環境を含めて、余裕を持った条件で測定する必要があります。

落とし穴④:FETプローブは接続順を間違えない
FETプローブは高インピーダンスで微小信号の測定に便利ですが、非常に繊細です。
FETプローブを使うときは、
プローブのGNDを先に接続し、その後に信号側を接続する
とされています。
逆に、信号側を先に接続してからGNDを取ると、プローブ内部回路が保護できない場合があります。
「ちょっと当てるだけだから大丈夫」
と思って操作した一瞬で、プローブを破損することがあります。
FETプローブは高価です。
しかも修理費も高額になりがちです。
測定前に、
GND位置はどこか。
信号点はどこか。
手元の動線に無理はないか。
プローブ先端に余計な力がかからないか。
ここまで確認してから測定に入るのが安全です。

落とし穴⑤:信号点とGNDが遠い場所を無理に測らない
レクロイのFETプローブで信号を測定する場合、信号点とGND間の距離を考慮するよう注意されています。
理由はシンプルです。
信号点とGNDが離れすぎていると、プローブ先端に無理な力がかかります。
その結果、プローブ先端のアクリル部が破損することがあります。
先端部の可動限界が6mm〜10mm程度と示されています。
それ以上に無理な角度や距離で測定しようとすると、プローブを痛める原因になります。
測定したい点が遠い場合は、無理にプローブを当てるのではなく、測定用の治具やリード、基板側の測定ポイントを工夫するべきです。
測定器を守るコツは、
プローブに無理をさせないことです。

落とし穴⑥:使用温度範囲を軽く見ない
FETプローブには使用可能な周囲温度があります。
通常のFETプローブは0〜50℃までの範囲で使用可能とされています。
そのため、0℃未満や50℃を超える環境で測定する場合は、必要最小限の時間にとどめる必要があります。
高温環境で長時間使うと、プローブに負担がかかります。
温度条件が厳しい場合は、高温環境で使用可能なFETプローブを選定することも重要です。
「少しの時間だから大丈夫」ではなく、
測定器の仕様範囲内で使っているか
を確認する習慣が大切です。
落とし穴⑦:プローブは消耗品ではなく、高額な精密機器
最後に、プローブ全般に共通する注意点です。
プローブは雑に扱ってはいけません。
引っ張らない。
こすらない。
先端をぶつけない。
ケーブルを無理に曲げない。
使用後は本体から外して保管する。
ものによっては修理だけで数十万円の費用が発生するとあります。
特にFETプローブや高圧プローブは、測定器本体と同じくらい大切に扱うべきものです。
まとめ:オシロスコープは「つなぐ前」が一番大事
オシロスコープの事故や故障は、波形を見ている最中よりも、プローブを接続する瞬間に起こりがちです。
測定前に確認すべきことは、次のようなポイントです。
測定対象のGNDはどこか
各チャンネルのGNDは同電位か
FGを接続するべきか、浮かせるべきか
高電圧に対してプローブの耐圧は十分か
FETプローブに無理な力がかかっていないか
測定環境はプローブの仕様範囲内か
使用後の取り外し・保管まで考えているか
オシロスコープは、正しく使えば非常に強力な測定器です。
しかし、GNDやFGの考え方を間違えると、一瞬で危険な状態になります。
波形を見る前に、まず接続を疑う。
測定する前に、まず電位関係を確認する。
この習慣が、測定器も回路も自分自身も守ってくれます。
