親の介護で住民票を移すとき、少しだけ考えてほしいこと
こんばんは。kachaです。
先日、親しくしている士業の方から、相続した空き家について、こんな話を聞きました。
「相続空き家の3,000万円特別控除が使えないケースがあったんです」
不動産をいくつも所有している資産家にとっての3,000万円と、親から相続した一つの家を売却する個人にとっての3,000万円では、その重みは違うと思います。
特に、親が長年暮らしてきた家を一つだけ相続したようなケースでは、とても大きな金額です。
今回のお話は、少し複雑でした。
一人暮らしをしていたお父様の病状が急に悪化し、一人暮らしを続けることが難しくなりました。
ところが、すぐに入院できる病院も、入所できる施設も見つかりません。
そこで、娘さんが「一人にしておけない」と、お父様を一時的に自宅へ引き取りました。
介護保険を使う必要があったため、介護事業者から住民票を移すように言われ、お父様は娘さんの住む自治体へ住民票を移しました。
その後、無事に施設へ入ることができましたが、住民票は娘さん宅のままでした。
一方で、元の実家はどうなっていたかというと、娘さんがいつかお父さんが戻ってくるかもしれない実家として、そのまま維持していました。
電気も水道も止めず、家の中もそれまでの状態を保っていました。
そして、お父様が一時退院できたときには、実家で家族と食事をし、家族写真も撮影したそうです。
ご家族にとって、その家はずっと「お父さんの家」だったのだと思います。
ところが、相続が発生し、その家を売却することになったとき、相続空き家の3,000万円特別控除について問題が出てきました。
空き家のある自治体に確認したところ、「被相続人居住用家屋には該当しない」という判断だったそうです。
ここで、私はいろいろと考えました。
もちろん、私はこのご家族の書類を見たわけでもありません。
自治体との具体的なやり取りを知っているわけでもありません。
ですから、この判断が正しい、間違っているということを私が言うことはできません。
ただ、この話を聞いて、私自身がこれから高齢の不動産所有者のご家族と関わるときに、気をつけたいと思ったことがあります。
それは、「親の介護のために住民票を移すことになったとき、そのことが将来の不動産の問題につながる可能性も、少しだけ考えておきたい」ということです。
親が一人暮らしを続けられなくなった。
でも、すぐに施設が見つからないので、いったん子どもの家で暮らす。
介護保険を利用するために、住民票を移すよう求められる。
こうしたことは、誰にでもあり得ることだと思います。
そして、今回のお父様も娘さんも、最初から「娘の家に住み替えよう」「お父さんを引き取って同居しよう」と考えていたわけではありません。
急に介護が必要になり、施設が見つかるまでの間、お父様は一時的に娘さんの家で暮らしていたのです。
そして入れる施設が見つかったので、無事入所することができました。
介護をする家族からすれば、そのとき必要な手続きをしただけです。
「数年後に、相続した実家を売るときの税金に関係するかもしれない」
そんなことまで考える余裕があるでしょうか。
そこまで考えられる人は少ないと思います。
ここは、私自身も誤解しないようにしたいところですが、住民票だけで、その人の「本当の居所」が決まるわけではないと思います。
ただ、その人がどこを生活の本拠としていたのかを考えるとき、住民票も一つの判断材料になるのは理解できます。
今回のお父様の場合、住民票は娘さん宅に移りました。
行政から見れば、元の自治体から転出し、娘さんの自治体で介護保険を利用し、その後施設へ入所した、という経過になります。
一方、ご家族から見れば、
「お父さんは介護のために一時的に娘のところへ行っただけ」
という認識でした。
ご家族の気持ちも理解できます。
この二つは、同じ出来事でも見え方が違います。
だからこそ、難しいのだと思います。
今回、もう一つ気をつけたいと思ったことがあります。
「自宅を売ったら3,000万円控除が使える」
という話を聞いたことがある方も多いと思います。
でも、ここで素人判断をしてはいけないと思います。
たとえば、マイホームを売った場合の3,000万円特別控除では、以前住んでいた家について、住まなくなってから一定の期限内に売却するなどの要件を満たせば、住まなくなった後にその家を賃貸などに利用していた場合でも対象になり得ます。
一方、相続した空き家についての3,000万円特別控除は、別の制度です。
被相続人が老人ホーム等に入所していた場合には、一定の要件を満たせば、入所直前まで住んでいた家を対象とできる仕組みがありますが、こちらにも要件があります。
「3,000万円控除」という同じ金額の特例でも、制度も要件も異なります。
ここを混同してしまう人が多いので、現場では、
「相続空き家を賃貸しても3,000万円控除が使えるだろう」
という勘違いが発生しがちなのだと思います。
税制のことで、素人判断はとても危険です。
特に、大きな金額となる不動産の売却や相続に関わる税金については、個別の事情を専門家に確認することが大切だと思います。
今回の話を聞いて、私は改めて思いました。
介護の場面では「今どうするか」が最優先になります。
病院がない。
施設がない。
一人にできない。
だったら、まず子どもの家に来てもらう。
介護保険を使うために住民票を移す。
そのときは、それが必要なことだったのだと思います。
でも、親が不動産を所有している場合、その後に相続や売却という別の問題が出てくることがあります。
だから、もし親御さんの介護のために住民票を移すことになったら、
「この家は親にとって、これからどういう位置づけになるのだろう?」
と、ぜひ考えて頂きたいのです。
そして、将来その家を売却する可能性があるのであれば、
「施設が見つからず緊急なので、一時的に子どもの家へ移ることになりました。親の自宅の扱いはどうなりますか?」
と、元の自宅がある自治体に、早い段階で相談してみると良いのではないかと思います。
それで将来の税務上の判断が変わるとまでは言えませんが、その時点で事情を伝えて相談しておくことには意味があるのではないかと、今回の話を聞いて私は思いました。
そして、もし住民票を移すことになったとしても、
「いつ、なぜ、どこへ移ったのか」
という経緯を家族で記録しておくことも、大切かもしれません。
何年も経ち、本人が亡くなり、家を売却した後で
「お父さんは、いつからこの家に住まなくなったの?」
と聞かれても、そのときの事情を正確に説明するのは難しいからです。
今回の話を聞くまで、私は介護のための住民票の移動と、相続した実家の売却について、ここまで繋げて考えたことがありませんでした。
介護が必要になったときには、介護のこと。
施設に入るときには、施設のこと。
相続が起きたときには、相続のこと。
それぞれ別の問題のように見えます。
でも、実際の暮らしは、そんなふうに分かれてはいません。
一つの家族の中で、介護、住民票、介護保険、施設入所、相続、不動産売却が繋がっています。
だから私は、これからお客様から、
「親を一時的にこちらで預かることになったんです」
という話を聞いたら、
「親御さんは持ち家ですか?」
と、一度確認してみたいと思います。
3,000万円という大きな特例があるからこそ、素人判断はしない。
そして、必要な手続きはきちんと行いながら、その後のことも少しだけ考えておく。
今回、親しくしている士業の方からこの話を聞いて、私はそんなことを学びました。
