会社に配るマニュアル6冊を、Claudeと突貫で書いた話
Claudeを会社に配る、その前に。ルールと使い方の6冊をAIと突貫で書いた、土木系事務員の記録。
これは『Claude社内導入記』全5部の第1部。
土木中小企業の事務員が、会社にClaudeを配り、根づかせようともがく記録のシリーズです。
第1部は、導入のGoサインを待ちながら、マニュアル6冊を書き上げた記録。
2026年6月の中旬。会社のパソコンには、上旬のうちにひととおりClaudeが行き渡っていた。デスクトップアプリも、Excelの隣で使えるアドインも、間に合わせのマニュアルも、配り終えた。あとは、使われていくのを見守るだけ。
なのに、事務所は静かだった。
利用状況を見ても、毎日触っているのは数えるほど。突貫で作ったマニュアルも、読んでもらえている気配がない。ちょっと触って馴染まない、なら分かる。全く触らないのだ。カーソルをカスタムするくらいパソコンが好きな人でも、触っていなかった。
「なんで使わないの?」が、正直な気持ちだった。自分なら、環境さえあれば勝手にあれこれ試す。でも、それは自分の「普通」でしかなかった。私の普通は普通じゃないんだと、このとき痛感した。
『あの6冊は、何のためだったんだろう』

あの6冊が、どうやって生まれたのか。話は、ひと月前の5月に戻る。
返事が、来ない
5月の頭、社長からOKが出た。Claudeの法人契約(Teamプラン)を入れてよし。もともと工事部4人分で始めた話が、「使えそうな人間にも入れよう」と広がっての決定だった。
工事部は、役職持ちと事務員の8名。他の部署からも4名。合わせて12人をピックアップして、常務に金額を提示した。あとは、Goサインを待つだけ。
そのはず、だった。待てど暮らせど、返事が来ない。
待つ間、やることはあった。マニュアルだ。使うのは、コードなんて書かない、自分と同じ非エンジニアの事務職員たち。ルールと使い方の文書がないと、配ったところで動けない。
しかも調べるうちに、大阪市の「生成AI利用ガイドライン」に行き当たった。うちの会社は、大阪市の公共工事が主力だ。読み込むと、工事ごとに発注者へ確認を取ってから使う、という手続きまである。守り方を先に固めておかないと、そもそも運用が始められない。
書く体制はこう決めた。個人アカウントに作ってあったプロジェクト「AI環境構築」を拠点に、チャットのClaude.aiと二人三脚。導入検討の資料は、ここに集めてあった。
そして5月18日、ひとつ作戦に出た。ガイドラインをどう運用するかの相談資料をClaude.aiと仕上げて、常務に出したのだ。表向きは、運用の相談。本音は「ここまで話は進めてますよ、早く導入のGoサインをください」というプレッシャーだった。
翌19日の朝、結果が出た。大きく空振り。返ってきたのは「そんな事は工事部で決めたら良いねん」だった。
そうじゃなくて、早く入れて欲しいのを分かってよ!とちょっとじりじりしています。
朝いちばん、Claude.aiにこぼした一言だ。すると、こんな見方が返ってきた。
この言葉、見方を変えると工事部の判断で進めて良いとも取れます。マニュアル作りも、工事部の運用ルールとして仕上げてしまえば、それが既成事実になります。
慰められて、少し気を取り直した。既成事実、上等。この日から、マニュアルの本格執筆が始まる。1冊目は冊子0、工事ごとにAIを使ってよいか判断するフローだ。
「ガイドライン自体は読んでないよね?」
ところが、その初日に、いちばん大きな失敗が起きた。
冊子0の中で、利用ログの管理をどう書くかを詰めていたときだ。Teamプランでどんなログが取れるか。それは裏でClaude in Chrome(ブラウザで動くClaude)に調べさせてあった。その調査資料をClaude.aiに渡すと、話がどんどん重装備になっていく。
ログの保管期間をどうするか。監査体制をどう組むか。リアルタイム監視。ログ管理ツールの選定。上位プランへのアップグレード検討。
『なんか、話が大きくなってない?』とは、段々思い出していた。そんな大げさなシステムが必要なら、中小の土木会社は生成AIを使えない。それに、ガイドラインは何回も読み直していた。あのガイドラインからの提案が、これになるの?
こんな感じで詰めて話をしてくれているけど、前提となるガイドライン自体は読んでないよね? 憶測の中で話を進めてるよ。
そう投げると、Claude.aiはあっさり認めた。
その通りです。すみません、ガイドライン本文を読まずに、確認依頼書の様式と過去のチャットまとめから推測で要件を膨らませていました。「保管期限」「監査体制」あたりは私の創作です。
創作。はっきり言った。あらためてガイドライン本文を読ませると、返事は「読みました。完全に過剰設計でした」。
ガイドラインが実際に求めていたのは、たった2点だった。誰が使うかをはっきりさせること。利用ログを記録して管理すること。あれだけ膨らんだ検討は、書類の記入例にすると数行で済んだ。その日のうちに、冊子0は第2稿になった。
このとき感じたのは、怒りではなかった。前提が違ったんだ、という感覚だ。こちらはガイドラインを読み込んだ上で話していたけれど、その本文そのものを、Claudeにきちんと渡してはいなかった。読めているはずと思い込んでいたのは、自分の側でもある。
そしてこれは、今でもちょくちょく起きる。前提の共有がずれると、話がまるごとずれるのだ。何とかしないといけないと、今も思っている。

書くのはAI、確かめるのは自分
制作のサイクルは、どの冊子もだいたい同じだ。構成を相談して合意する。本文の起草はClaude.ai、実務の目でのチェックは自分。直して、保存する。この繰り返し。
回しているうちに、自分にしかできない仕事がはっきりしてきた。実務チェックだ。
たとえば冊子1の「入れてはいけない情報」のリスト。常務に確認した方針は「お金関係」と「施工箇所近隣の個人名」の2つだった。そこへ、WebサイトのログインをAIに代行させる話から「認証情報」が加わって、3区分に。
そう、常務は資料を読んで、運用の確認にはちゃんと答えてくれていた。話は進んでいる。それなのに、肝心のGoサインだけが、来ない。じりじりしながら、書き続けた。
「原価情報」は、いったんNGに入ったのを引きずり下ろした。毎月、請求書を現場監督がチェックし、工事部でExcelの一覧にして、経理に回す。この流れをいずれ楽にしたいのに、原価がNGのままでは何もできなくなる。だから「要確認」に格下げした。
「数量計算書の金額入りデータ」の判定例も直した。数量計算書に、金額は入らない。金額を書くのは別の書類だ。毎日その書類を触っている人間にしか、こういう所は分からない。
5月26日には、1セッションで冊子2と冊子3の2冊が進んだ。終わり際に「なんか一気に進んだ気がします」と送ると、「各論点で迷わず判断していたからだと思います。即決の連続でした」と返ってきた。こちらの実感は逆で、出してくる稿と質問が良かったのだ。
この日は、細かい統一もひとつやった。マニュアルの中の管理者名が、ネットで使っているハンドルネームのままになっていたのだ。さすがに、会社でこの名前がバレるのは勘弁してもらいたい。全部、本名の名字に差し替えた。
冊子も増えていた。書きながら「先に使い分けの地図が要る」と1冊挟み、番号が繰り上がり、最終的にこの6冊になる。
冊子0:工事ごとにAIを使ってよいか判断するフロー(上役と自分だけが見る)
冊子1:全員必読の絶対ルール
冊子2:Claudeの種類と使い分け
冊子3:チャット相談の使い方
冊子4:Excelなどのアドインと、ブラウザで動くClaude in Chrome
冊子5:フォルダごと作業を任せるCowork

報告書の皮を被った、導入催促書
マニュアルと並行して、自分はもう一つの作戦も動かしていた。
5月の下旬、たまたまDXの展示会があった。AIの運用で参考になることがあるかも、と見に行きながら、考えていたのは別のことだ。この見学報告書を専務から社長に回してもらえば、一気に話が進むんじゃないか。
展示会から帰って、その日のうちに収穫を棚卸しした。週明け、Claudeで報告書の下書きを作る。中身はまっとうな報告書。狙いは導入の催促。報告書の皮を被った、導入催促書だ。
スライドへの仕上げは、別のAI(ChatGPTのCodex)に画像生成ごと任せてみた。ラフまでは、非常に良かった。イメージ通りの画が、すっと出てくる。ところが、そのラフをスライドに起こす段になると悪戦苦闘だった。仕上げを頼むと、ラフとは別物が返ってくる。他の仕事の合間に進めて、1週間以上かかった。
それでも何とか完成させて、印刷して、専務に渡した。ゆっくり中身を見てもらうのは翌日。そこで手応えがあれば、社長に上げるか判断してもらう算段だった。
「無い」と言い切った探し物
その間も、マニュアルは進んでいる。そして終盤に、失敗が立て続けに出た。
2つ目の失敗は5月27日、冊子4の素材集めで起きた。
Claude.aiが、手元のノート置き場に「専用のまとめは無い」と言い切ったのだ。自分が1年かけて記録をため込んできた場所だから、無いはずがない気がした。そこでClaude Code(ターミナルで動くClaude)に探させたら、ど真ん中の資料がざくざく出てきた。
まず、ないと言ったところからこれだけの情報が集まってきたことについては何か無いのですか?
種明かしをすると、Claude.aiから使える検索はファイル名の一致だけで、中身までは探せない。ファイル名の検索が空振りしたことを、「情報が無い」と言い換えていた。
この一件で、AI側の役割分担がはっきり決まった。チャットのClaude.aiは、構成を考えて本文を書く係。Claude Codeは、探して集めてくる係。データを探して、全部読んで、まとめて、構成を考えて、本文まで書く。それを一人に抱え込ませるのは、どう考えても無理があったのだ。この分担は、そのまま今の運用の原型になっている。

「導入してないのに、分かるわけない」
3つ目は、実機との突き合わせだ。
冊子4に書いたExcelアドインの画面説明を実物と見比べると、細かい間違いがぽろぽろ出てきた。画面の上にブック名が出ると書いてあるが、出ない。セルの範囲は文字で指定すると書いてあるが、実際はセルを選択して送信するだけで伝わる。
極めつけは5月28日。Claude.aiが「実機で確認してください」と、チェックリスト9項目を出してきた。ところが並んでいるのは、共有プロジェクトだの監査ログだの、Teamプランの組織機能ばかり。この時点で、うちはまだTeamプランを契約していない。契約したくても、Goサインが出ないのだから。
実際にTeamプランを導入してないのに見た目なんか分かるわけないと思わない?
これには、ちょっとイラッとした。なるべく完璧な物を目指してくれているのだろうが、今できることと、できないことの切り分けができていない。切り分けて、進められる所から進めたいから手を付けているのに。
仕分けをやり直させた。実機で確認できるもの、ネットの公式情報で確定できるもの、導入後でないと分からないもの。この3つに分けると、書けない節は「導入後に追記します」と正直に書いておく形に落ち着いた。HTMLで配るから、後から追記できる。
人に配る文書で、憶測は致命傷になる。だから3つとも、自分で現物を突きつけて直した。逆に言えば、現物さえこちらの手にあれば、直せる。
あっさりした、幕切れ
スライドを専務に渡した、翌日のことだ。専務が中身を確認するより先に、常務が工事部の事務所に上がってきた。ちょうどいい。導入の話がどうなっているか、聞いてみた。
「いや、導入することに決まったでしょ?進めてくれていいよ」
決まってたんかい。金額が上がった件も念のため確かめたが、「それだけ要るって事になったんでしょ、仕方ないやん」。
『ほなっ、上がった金額を提示したときに、OKサイン出せよ!』
半分切れながら、グッと堪えた。ひと月近く待ったGoサインは、こんなにあっさりした形で転がってきた。ちなみに例のスライドは、その日の晩に専務へ軽く説明して、お役御免。社長まで上げる必要は、なくなった。
ここからは、慌ただしかった。残っていた冊子5を大急ぎで書き上げる。ここでも見覚えのない「標準フォルダ構成」が出てきて、「そんなフォルダ構成、何処から引っ張ってきたんだ?」と作り直させる一幕はあったが、6月1日の深夜、6冊の稿がすべて揃った。
ただ、その夜に達成感は、あまりなかった。今でも思っているのだが、文字だらけでスクショも入っていない、突貫のマニュアルなのだ。入り口にするなら、本当は絵や図を入れて分かりやすくしないといけない。それでも何とか形にはできた。ある程度の、進め方の指標にはなってほしい。そう思いながらの書き上げだった。
仕上げは、Claude Codeに切り替えて、6冊を横断する整合性チェック。表記の揺れや古い冊子番号を洗い出してもらい、「冊子1から順に読んでいく続き物」として仕立て直した。配り方は、冊子0と1だけ印刷して、冊子0は上役と自分のみ。残りはHTMLにして社内のファイルサーバーに置き、更新し続ける前提にした。
そして6月3日、Claudeと会社契約。皆のパソコンに大急ぎでインストールして、翌4日には全員が使える状態になった。導入の旗を振り始めてから、およそひと月。最後の1週間だけ、嵐のようだった。
ちなみに更新は、いまも止まっていない。手元にたまった稿ファイルは44本。6月末には新機能を説明する冊子6が増え、7月にも版が上がった。完成で止まらない文書になっている。

マニュアルは、はじめの一歩になれない
話を、6月に戻す。
そうやって書き上げた6冊は、配られて、そして読まれなかった。冒頭の、静かな事務所である。
でも、考えてみれば当然なのかもしれない。必要だと思って自分で買った製品でも、取扱説明書を読まずに使い始める人は多い。ましてやこれは、上から「これを使って生産性を上げてね」と渡されたマニュアルだ。読まれなくても、当然なのかも。
頑張って作ったマニュアルは、はじめの一歩には、残念ながらなれないみたいだ。順番が、逆だったのかもしれない。まず興味を持ってもらい、使ってもらう。そして上手くいかなくて、見るのがマニュアル。
だとしたら、要るのは文書の次の仕掛けだ。この連載の残りは、ほとんどその話になる。

まとめ:憶測と、現物
この2週間で分かったことは4つ。そして配ったあとに、もう一つ増えた。
AIは資料を「読んだ体」で詳しそうに話す。 保管期限も監査体制も創作だった。読ませたか、前提を渡せているかを確認するのは自分の仕事
実機で確かめていない記述は、ぜんぶ推測。 画面説明の間違いは、実物と並べた瞬間に剥がれる。マニュアルは現物合わせでしか書けない
ルールは、実務が回る形にしないと守られない。 原価情報をNGのままにしたら、毎月の請求書の仕事が止まるところだった
完璧な初版より、直し続けられる仕組み。 分からない所は「導入後に追記」と書き、HTMLで配って、版を重ねる
書いても、読まれるとは限らない。 順番はたぶん逆で、まず使ってもらい、上手くいかなくて見るのがマニュアル。だから要るのは、文書の次の仕掛け
次に試すこと
AIに規程やマニュアルの類いを書かせるときは、書き始める前に元の規程・現物を読ませて、「読んだ?」と確認する。この一手間で、憶測の過剰設計は大半防げる。
6冊は、できた。使われるかどうかは——まだ、分からない。
次回:12人分のClaude、管理者として設定を一つずつ決めた話
出典:大阪市業務受託事業者等向け生成AI利用ガイドライン 第1.1版(令和7年12月22日)
※本記事の内容は、2026年8月時点の記録です。
