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【STAR ISLAND 2026】静かな海と、緻密な狂気。本番前夜のゲネプロ Day3

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本番前日、5月22日。
この日にゲネプロ(通しリハーサル)が行われました。会場に観客はなく、花火もあがらない。強風でドローンも飛ばない、孤独な会場ステージで、パフォーマーたちは何を感じていたのか? 三人の視点で振り返ります。


10:30 曇天の現地入り、そして静かな準備

朝、メンバーが続々と現地入り。レインウェアを羽織り、濡れた青い浮き桟橋を渡って、海上フロートへ向かいます。本番と同じ装備、同じ道具。今日はその全部を、本番さながらに通す一日です。

まず行われたのは、テントの中でのブリーフィング。代表の和泉さんがタブレットを手に、車座になったメンバー全員へ、今日のゲネの段取りと一日の流れをひとつずつ共有していきます。

ここから先は、ひたすら準備の連続です。

燃料を一本ずつボトルに小分けし、道具を一本ずつ点検する。ガスを充てんしたり、ステージごとのセットをいくつも組んでいく。ベテランも若手も、黙々と自分の道具と向き合います。

派手さは、どこにもありません。でも、この一本一本の確認こそが夜の通しで「事故0」を成立させる土台になります。

もちろん、現場はずっと張り詰めているわけではありません。準備の合間には、メンバーを中心に笑い声も絶えませんでした。極限の緊張と、こういう緩んだ時間。その両方が現場の空気をかたちづくっていきます。

そして15時、最初の関門がやってきます。

用意した道具を手に海上フロートへ

15:00 小細工はしない。正面から通す

この日の最初の関門は、消防査察

実は火を扱うイベントの世界では、「申請は最小限の物量で通しておいて、本番でこっそり機材を増やす」というやり方をする業者も少なくないそうです。申請を通すのは、それだけ面倒だから。

かぐづちは、その逆をいきます。最初から、本番と全く同じ最大量で申請を通しきる。

最小限で許可をもらって本番で増やせば、抜き打ちの査察が入った瞬間に明確な違反になって、ショーごと中止せざるを得なくなる。でも最初から最大量で通しておけば、当日の風を見て『安全のために数を減らしました』と報告できる。消防も納得するし、何より心証がいい。小細工で現場をごまかすんじゃなくて、正面から最大のセッティングで通しきる。それが、僕らの安全に対するスタンスです。

——代表・和泉

この日、海上フロートには東京消防庁の査察官が立ちました。実際に道具へ火を点け、炎の上がり方そのものを見せながら、一つひとつ説明していきます。

今回客席からの安全距離は6メートル以上確保されているため、消防の許可が通る勝算は高かった。
それでも事前の書類審査はかつてないほど厳しく、スチールウールやフレームパウダーに至るまで、すべてMSDS(安全データシート)の提出を求められました。

消火器も消費期限ギリギリのものではなく、10年使える新品の消火器を6本買い揃えて持ち込んでいます。

——代表・和泉

この姿勢は、設計するトップだけのものではありません。火を扱う演者たちもまた、査察の意味を深く理解しています。

数多くの観客の前で火を使う以上、道具の管理と認知は不可欠なんです。査察を受けて、安全だと認められた道具だけを使う。それが事故防止につながるのはもちろん、万が一のときにも『どういう状況で何が起きたか』という事故解析の助けになる。今日をむかえるまでに、和泉さんが道具ごとの安全対策を全部シェアしてくれていたので特にヒヤヒヤすることはなかったですが、今回初めて使う電動の機材だけは許可を取ったばかりだったので『通ってくれ』って、正直祈ってました。

——ファイヤーパフォーマー・Dai Zaobab

魔法のような炎の裏側にあるのは、徹底した安全管理と備品への投資。狂気ともいえる炎は、ここまで緻密に管理されています。


17:00 風との戦い

海上の風は強く、上空はその2倍ほどの風速が観測されていました。
しかし、かぐづちは過去に風速16メートルの台風が直撃する中でファイヤーショーをやり切った経験があります。細かいポイントかもしれませんが「風を体でせき止めて、火が育つまで待つ」など、強風下での技術やノウハウが活かされる時です。

ただ、その技術の手前に、全員が必ず置いている基準があります。

演出優先じゃなく、安全優先。危ないと思ったら、自己判断で着火をやめていい。事故を起こせばイベント側にも演者側にも、何一ついいことはないですから。

——代表・和泉

技術でも経験でもなく、いちばん上に置くのは安全。その一本の芯を全員で確かめたまま、現場は夜を待ちます。


19:30 無音のゲネプロ

陽が落ちると、現場の空気が一変。
テントの中で、メンバーが次々と本番衣装に着替えていきます。

着替えを終えた一行はトーチを手に、海上フロートへと続く桟橋を一列で渡っていきます。背中には、かぐづちのロゴ。その先で、ライトアップされたレインボーブリッジが待っていました。

予想以上の低気温にゲネはベンチコート持参で海上へ向かうこととなった。

そしてこの日、近隣への配慮から、20時を回ると会場は完全に音止め。観客の歓声もない、スピーカーの音もない、音という音が消えた海の上でいよいよステージの幕が開きます。

孤独に思えるこの環境で、パフォーマーたちは何を感じていたのか?

本番と、特に違いはなかったですね。そもそも本番中だって、観客の歓声でパフォーマンスを変えたりしない。無線やイヤモニを何個も付けて動くのが日常なので、無音だからって感覚が狂うことも、逆に研ぎ澄まされることもないです。

——代表・和泉

イヤモニだけなら音を聞くだけだから、実は全然問題ないんです。むしろ本番のほうが、移動のときに片耳を外して、外の音とイヤモニの両方が聞こえちゃう。あっちのほうが、よっぽどタイミングはずれやすいんです。

——ファイヤーパフォーマー・KIKI

イヤモニが耳にしっかりはまっていて、体をどう動かしても安定して音が入ってくる。観客がいないのは事前に分かっていたし、ゲネは決められた時間とタイミングで、道具を確実に回すことに集中するだけ。途中からイヤモニだけになっても、自分のパフォーマンスには全く影響しませんでした。

——ファイヤーパフォーマー・Dai Zaobab

なぜ、音がなくても完璧に安心して動けるのか。その答えはDay2で少しだけ触れた、あのシステムにありました。


炎を動かしていたのは、「色」だった

Day2で、かぐづちが視覚的シンクロシステムを自作したと書きました。置き型のLED照明、FT
その正体が、ここでようやく完全に見えてきます。

プログラムしたのは、ほかでもない代表の和泉自身です。

ダンサーみたいに何十回も練習して体でタイミングを覚えるやり方は、炎を扱う人間には無理なんです。練習する場所も、燃料のコストも桁が違う。だからこそ、そこはテクニカルなシステムでカバーするのが一番理にかなっていると考えてます。

そのため、光の色を完全に信号化。「待機・準備・直前点灯・着火」、色そのものが、演者への指示になっています。さらに色が切り替わる瞬間にフラッシュを光らせるため、音をまったく聞かなくても完璧に動けるシステムです。演者8人に対して、機材は22〜24個。万が一の軌道ミスや、途中からの合流にも対応できるよう、リカバリープログラムも4パターン組んであります。

——代表・和泉
FTプログラム確認中

オープニング。無音の海の上でFTの色が変わったのを合図に演者たちが一斉にガストーチへ火を移し、スタートに備えます。「STAR ISLAND」の文字を浮かべたFTパネルの脇で、火柱がまっすぐ夜空へ伸びていきました。

この音に頼らない設計が、なぜそこまで重要なのか。その理由を、パフォーマー・Dai Zaobabが語ってくれました。

イヤモニでもしっかり音は聞き取れますが、実際のスピーカーの音はかなり大きくて両方の音が耳に入ってくる。すると数秒の音のずれで、どっちが正しいのか分からなくなる瞬間があります。だから、FTの光があることで着火に集中できるんです。

——ファイヤーパフォーマー・Dai Zaobab

「音を聞かなくても動けるように」と設計された光は、現場では文字通り、命綱になっていました。設計上の理屈が海の上で全身全霊の集中と噛み合った瞬間です。

強風とどう向き合ったか

そしてもう一つ、通しのあいだ現場を試し続けたものがあります。昼からの強風です。同じ風に対して、演者一人ひとりの向き合い方は、はっきりと分かれていました。

私は強風に対応できるほどの技術はまだないので、使う道具を直前で変えました。また、タイミングより少しだけ早く点火するようにして、足りない技術を道具とタイミングの工夫で補った感じです。

——ファイヤーパフォーマー・KIKI

演者同士の距離も十分に取れていたし、周りに燃えるものも危害を加えるものもない。だから、ある程度の強風でもしっかり炎舞するという心構えで挑みました。実際、風で火の付きが思い通りにいかないこともあったけど、そこはターボライターとホワイトガソリンをうまく使って、全部点火できるようにしました。海上フロートでは、足を滑らせて転落しないように、足を踏ん張って、意地でもフロートの上に立つ。それだけは常に頭に入れて火を振っていました。幸い、フロートのベニヤと僕の地下足袋の相性が良くて、滑る気配もなくグリップがしっかりしていた。そこは安心できましたね。

——ファイヤーパフォーマー・Dai Zaobab

通しは、最終局面へ

スチールウールが青い夜にスパークを撒き散らし、秘密兵器が横一線に炎を噴き上げ、レーザーが会場全体を貫いていく。背景には、いつものレインボーブリッジ。観客のいない海の上。それでも、ひとつの妥協もない数十分が、淡々と積み上がっていきます。

ゲネを終えて

通しを終えた二人が、それぞれこんなことを話してくれました。

しっかりゲネをやることで、当日に向けて改善できる。だからゲネって、本当に大切なんです。特殊な環境であればあるほど。正直、かっこいいイメージとかより、自分のアホ具合にいっぱいいっぱいでした(笑)。とにかく、怪我なく、事故なく、安全に。もうその気持ちだけ。初心に帰りました。

——ファイヤーパフォーマー・KIKI

本番では、どんなふうに花火やドローンと向き合うのか。
花火やドローンは、僕らにとってはバックグラウンドなんです。同時進行しているイベント全体の総合的なパフォーマンスの一つ。そもそも僕らは花火やドローンに合わせてタイミングを取っているわけじゃない。後ろで何が起きていようと音を聞いて、FTの光を頼りに正しい道具を正しい順番と正しいタイミングで回す。それが、与えられた使命です。

——ファイヤーパフォーマー・Dai Zaobab

フィナーレをむかえるまで、彼らは次の展開をひたすら頭の中でシミュレーションし続けている。

ゲネを終え、この日ゲストでかぐづち視察に来てくれた
マジシャン・セロと📸

明日に向けて

21:00過ぎ、静かにゲネプロは幕を閉じました。
メンバーは無言で機材を片付けはじめます。派手な達成感に浸るでもなく、ただ淡々と明日のために現場を戻していく。

そしてメンバーは、この日から会場近くのホテルに宿泊。
明日の本番に備えて、つかの間の休息に入ります。

明日はいよいよ、本番。
1万2,000発の花火、800機のドローン、そして海上の炎、すべてが一夜限りで揃います。

これまでの積み重ねが、爆発する瞬間へ。

次回、ついにDay4 本番編——お台場の夜空を、本当に焦がします。


撮影・文:ta2o
レポート依頼はこちら:t2photografy@gmail.com

出演:雷光炎舞かぐづち(KAGUZUCHI)
代表・和泉

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