会社をつくるより、つくってからのが大変だった。起業のリアルと最後に思うこと。
「これ、本当に一人でやる必要があったのだろうか」
思わずそう思ってしまう日が、ほぼ毎日だった。
働きながら、大学院に通いながら、書籍の原稿を書きながら、やることではなかった。ほんとに。
先月、個人事業主から法人化することにした。(理由はまぁいろいろあるのだが、それはまたいつか。)
問題は、その手続きから全部ひとりでやると決めたことだった。
税理士さんや司法書士さんにお願いすることもできる。会社設立をまとめて支援してくれるサービスもある。
それでも、私には「人に頼むのは、自分でやってから」という謎の理念がある。
やりたいことは、とりあえずやってみる。やれそうなことも、とりあえずやってみる。そして、やったことはないけれど、やっておいたほうがよさそうなことも。
いったん、全部自分でやってみたい。これが私の人生のモットーでもある。
それが、ようやく今日、一息ついた。
そうして、最後に思ったことがある。
会社は、登記したら完成するわけではない
株式会社を設立するために行ったことを、大まかに並べるとこんな感じになる。
・会社名、事業目的、本店所在地を決める
・資本金や株式数、決算月を決める
・定款を作成し、公証役場で認証を受ける
・資本金を払い込む
・登記書類を作成し、法務局へ申請する
・法人口座や法人用クレジットカードをつくる
・個人名義の契約や請求書を法人名義へ切り替える
会社を「つくる」ところまでは、手順を調べながら一つずつ進めれば、なんとかできた。
ちなみに、その「なんとか」であるが。
最初から躓いていたわたしは、市の創業支援センターの無料相談に相談しまくっていた。
起業までに4回個別相談をすると、株式会社の登録免許税15万が半額の7.5万になる、という補助金があるということも、ここで教えてもらった。もう感謝でしかない。
むしろ大変だったのは、そのあとだった。
税金と社会保険という、見えない世界
会社は、登記が終わっただけでは動かない。税務署や自治体への届出、社会保険への加入、役員報酬の決定、給与計算、会計処理など、会社を継続して動かすための仕組みを整えなければならない。
税務まわりでも、次のような対応が必要だった。
・法人設立届出書や青色申告承認申請書を提出する
・給与支払事務所の開設届を提出する
・源泉所得税の納付方法を決める(特例の承認など)
・法人税、住民税、事業税の仕組みを確認する
・消費税やインボイス制度への対応を決める
・設立前に購入した備品や立替経費を処理する
・個人と法人のお金を分けて管理する
わからない言葉を調べると、その説明の中にまたわからない言葉が出てくる。一つ終わると、次の手続きが待っている。
果てしない。時間がかかる。(時間がないときにかぎって…)
税理士さんに、全部をお願いしなかった理由
税理士さんに丸投げのほうが、圧倒的に楽だったと思う。
それも考えたが、今回は日々の記帳や請求書発行、給与計算、経費精算は自分で行い、決算と法人税申告をお願いすることにした。
もちろん、全部を自分で判断するのは危険である。専門的な部分は税理士さんに確認する。
それでも、会社の数字を日常的に見るところまでは、自分でやっておきたかった。(MBA通っているしね←)
売上が増えていても、お金が残っているとは限らない。
何にいくら使い、毎月いくら必要で、どの仕事が会社の利益につながっているのか。それがわからなければ、経営の判断もできないとも思ったからだ。
そこで、収益予算シートも一からつくった。(エクセル!)
毎月、どの仕事からいくらの売上が入るのか。役員報酬、社会保険料、税金、各種経費、システム利用料などを差し引くと、会社にいくら残るのか。
役員報酬も、そのシートを見ながら決めた。
高くすれば自分の生活は安定するが、会社に残るお金は少なくなる。低くすれば会社にはお金が残るが、自分の生活とのバランスが難しくなる。
どちらが正解という話ではない。決めるのは自分だ、という話だ。
会計処理を、自分なりに自動化してみた
会計まわりは、AIに自分専用の手順を覚えさせて、freeeと組み合わせて仕組み化した。(注:AIほぼ初心者でもできた)
やったのは、だいたいこんなことだ。
まず、領収書。
サブスクの請求書も、書籍の購入履歴も、出張の宿泊費も、たいていメールで届く。これを毎回ダウンロードして、名前をつけて、保存して、会計ソフトに上げる。この一連が、地味にいちばん続かない。
なので、メールから請求書や領収書を探して取ってきて、「日付_取引先_金額」の形に名前を揃えて、月ごとのフォルダに入れて、そのまま会計ソフトへ上げるところまでを、まとめてやってもらうことにした。(この名前のつけ方にも、ちゃんとルールがある。電子帳簿保存法というやつである)
次に、月末の確認。
売上の請求漏れはないか。入金は入っているか。登録していない領収書はないか。カードの明細と銀行の同期は合っているか。役員報酬と給与明細は処理できているか。
毎月ぜんぶ同じことを見るのに、毎月どれかを忘れる。だから見る順番を決めて、一つずつ聞いてもらう形にした。
それから、経費のメモ。
経費は、金額だけ残っていても意味がない。誰と、どこで、何のために使ったのか。それが書いていないと、あとから自分でも思い出せない。(税務調査で聞かれるのも、たぶんそこだ)
これも、週に一度リマインドが来て、その場で書き足すようにした。
そして最後に、収益管理シート。
自分でつくった、あのエクセルである。会計ソフトに入った実績の数字を、そこへ反映させる。予算と実績が並んで、今月どれだけずれたかが見える。
つまり、メールに届いた1枚の領収書が、名前を整えられて、会計ソフトに入り、月末に確認され、最後は経営の数字になるまで。その道を、通しでつくった。
これが、本当に大変だった。
(Claude Coworkでつくった。できないなりに、友達に助けてもらいながらね)
でも今思えば、つくったのは会計の仕組みだけではなかった。自分の記憶力と注意力に頼らなくても、会社が回るようにすること。要は、それをやっていたのだと思う。
やってみて、見え方が変わったこと
役所への届出、税金、社会保険、役員報酬、会計処理。
やる前とあとで、意味が変わった言葉がいくつかある。
税金は、突然請求される正体不明のお金ではない。社会保険料にも、ちゃんと計算の仕組みがある。役員報酬は、なんとなく決めるものではない。議事録や契約書は、面倒な形式ではなく、会社と自分を守るための記録である。
会社をつくるとは、好きなことをするための看板を掲げることではなかった。
お金の流れをつくり、決定を記録し、期限を守り、続けられる形を整えること。それが、会社をつくるということだった。
そして何より、ひとりで全部やったからこそ、これから誰かに頼むときに「何を頼んでいるのか」「それに見合ったものをやってもらえているのか」がわかる。
どこまでは自分でできて、どこからは人の力が必要なのか。
これはたぶん、会社に限った話ではない。仕事でも、家のことでも、たぶん介護でも、同じことが起きている。
大変だった。本当に、大変だった。それでも、やってみてよかった。
そして、ひと息ついた今、やっぱり少しだけ思っている。
これ、最初から誰かに頼んでもよかったのではないか、と。
そして、本当に大変なのは、これからなのではないか、とも。
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