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【産業構造を考える③】束ねる力と端を拾う力——分業しすぎた社会で何が起きるのか

こんにちは。

前回は、なぜサービス業が増えていくのか、という話を書きました。

社会が複雑になるほど、探す、選ぶ、運ぶ、契約する、管理する、保証する、安心させる、といった面倒ごとは増えていきます。その面倒ごとを引き受けるところに、第三次産業、つまりサービス業が広がっていく。

面倒ごとを引き受けるサービスが増えすぎると、今度はサービスを選ぶこと自体が面倒になるので、また新しいサービスが生まれる…

前回は、そんな整理をしました。

今回は、分業されたものをもう一度束ねる力が働くことについて、書いてみます。(2つセットなんですけど1つにすると長すぎたので分けました。)



1. 一か所で済むことが価値になる

小売業界を見ると、この流れはかなり分かりやすいと思います。

ドラッグストアは、もともと薬を買う場所でした。ところが、今は食品も、日用品も、化粧品も、飲料も売っています。

スーパーマーケットも、もともとは食品を買う場所でした。ところが、今は食品だけでなく、薬なども取り扱っていたり、ポイント、アプリ、配送なども取り込んでいますね。

コンビニも分かりやすいです。食品や日用品に限らず、総菜や、ATM、公共料金の支払い、宅配、チケット販売、コピー、淹れたてコーヒー、各種公的書類発行まで扱っています。

これは、企業が節操なく事業を広げているというより、資本市場の原理で、顧客により良いサービスを提供しようとすると、選択肢として幅を広げる、というのが価値提供としても再現性もあり分かりやすいからです。

要するに、顧客から見れば買い物をするなら、一か所でニーズになるべく合致するものが全て揃う方が楽です。

薬は薬局、食品はスーパー、日用品は別の店、支払いは銀行、と分かれているより、うちの店舗に来てくれたら、それだけでほぼすべてそろいますよ!というアピールが一番客を呼び込む効果がありそうですよね。

その結果、ドラッグストアもスーパーもコンビニもショッピングセンターも、別々の入口から入って、だんだん「生活の面倒ごとをまとめて処理する場所」に近づいていく構図がまさに今各店舗で起こっているんだなあと感じます。

これが、サービス業に働く「束ねる力」の1つです。


2. 横だけでなく、時間軸にも広がる

この束ねる力は、横方向だけではありません。
(横方向というのは、薬も食品も日用品も一か所で買える、という意味のこと)

時間軸の展開もあります。
よく大手の会社で使われている言葉に、「ゆりかごから墓場まで」とありますね。
人生のイベント(進学、就職、転職、結婚、住まい、旅行、美容、子育て、介護、相続)ごとに接点を持つサービスがあります。
こうしたイベントのたびに、人は情報を探し、比較し、申し込み、契約し、不安を減らそうとします。リクルートはまさにそうですよね。

たとえば小売だと、年代ごとの店舗・商品展開が該当します。
子ども向けのおもちゃだけなら、接点は短く終わるかもしれません。
しかし、ゲーム、家電、教育、エンタメ、ファッション、金融、健康、介護まで広げれば、顧客との接点はもっと長くなります。

ファッションは特に分かりやすいと思います。
10代向け、20代向け、30代向け、子育て世代向け、シニア向け。
年代やライフステージごとに、ブランドも、価格帯も、見せ方も変わります。
企業から見れば、一度つかんだ顧客と、どれだけ長く接点を持てるかが重要になります。一回の買い物だけで終わるのではなく、日常の買い物、人生のイベント、年代の変化まで含めて、できるだけ長く関係を持つ。

サービス業の拡大の1つのアングルが、顧客の生活の中で、どこに接点を持ち、どの面倒ごとを引き受けるか、という設計になっていきます。


3. 一気通貫という言葉は、分業された世界の再統合

不動産会社やコンサル会社が「一気通貫で対応します」と言うのも、同じ構造ですね。

分業された世界は、専門性を高めます。
ただ、顧客から見ると、誰に何を頼めばいいのかが分かりづらくなります。そこで、「まとめて見ます」「窓口になります」「最後まで伴走します」「ワンストップでやります」ということ自体が価値になります。

不動産であれば、物件探し、売買、ローン、リフォーム、管理、売却、相続まで見る。
コンサルであれば、戦略、実行、システム導入、運用まで見る。
小売であれば、商品、決済、配送、ポイント、金融、広告まで持つ。

分業が進んだからこそ、今度はそれを顧客側から束ね直すサービスが必要になる、という話です。1周まわって、この「束ねること」自体にも価値がつくのは面白いですよね。

本当は、それぞれの専門業者に個別に頼めば安く済むこともあるかもしれません。ただ、顧客からすると、比較するのも、選ぶのも、管理するのも、責任範囲を確認するのも面倒です。

だから、少し高くても、まとめて任せたい、この安心感がサービスになっていたりします。


4. 束ねたものは、やがて重くなる

ただし、束ねる会社も万能ではありません。

一気通貫やワンストップは強いです。顧客接点を持ち、周辺サービスを取り込み、データも集まります。うまくいけば、かなり強いポジションになります。

一方で、広げれば広げるほど、管理コストも上がります。
扱うサービスが増える。人が増える。品質管理が難しくなる。意思決定が遅くなる。現場感が薄くなる。平均点を取りに行くようになる。

大きく束ねたサービスは、便利で安心です。ただ、大きくなるほど、端のニーズを拾いにくくなります。
ここに、次の変化の入口があるのだと思います。

たとえば、Amazonはオンライン書店という、かなり特定の入口から始まりました。

本は、実店舗ではすべての在庫を置きにくい商品です。種類が多く、探す手間もあり、店頭にない本もたくさんあります。そこにオンライン検索、レビュー、配送が刺さりました。

本という一つの端から入り、顧客アカウント、検索、レコメンド、決済、物流を押さえることで、やがて日用品、家電、食品、動画、広告、クラウドにまで広がっていく。

最初から巨大な総合小売だったわけではありません。大きな小売が拾いきれなかった端の不便に刺さり、そこから広がっています。

Netflixは、レンタル店に行く面倒を減らすところから始まりました。
その後、配信、さらに制作へと広がっています。

決済の世界でも、開発者や小規模店舗が感じていた導入の面倒を減らすところから、新しいサービスが伸びました。

つまり、中心にいる大きなサービスが拾いきれないところに、次のエッジが刺さっています。
大きく束ねた会社が平均化してしまったところに、特定の顧客、地域、工程、価格帯、不満、技術、思想で深く刺さる、それが次のサービスの入口になるのだと思います。


5. 歴史でも似たことが起きている

これは、サービス業の話だと割と最近の情報しかないので、リアル店舗がEC系に浸食されている、など同じ小売を時間軸で追っても例が少ないので、ちょっと似たようなケースを歴史から考えてみましょう。

(歴史の部分はそれ自体を詳しく説明することは今回はしないので、ピンとこない方は読み飛ばしてしまってください!)

歴史を見ても、中心が大きくなりすぎると、遠い場所や端の不満を拾えなくなることが割とよくあります。

日本でいえば、徳川幕府と薩長の関係も、似た構造として見られなくもないですよね。
江戸を中心に長く秩序を作ってきた幕府に対して、その中心を揺らしたのは、江戸の中枢そのものではなく、薩摩や長州のような日本列島の端の藩でした。
幕末の政治や外交を単純化することはできませんが、中心から距離があり、独自の財政、軍事、人材ネットワークを持ち、西洋技術や国際環境の変化にも触れていた場所が、やがて新しい秩序を作る側に回ったという見方はできると思います。

欧州でも、宗教改革は少し似た面があります。
長く宗教的な権威を持っていた中心に対して、印刷技術や地域ごとの不満、政治勢力が結びつき、周辺から広がっていきました。中心が握っていた解釈や情報流通の経路が、新しい技術と結びついて揺らいだとも見えます。

中心は強くとも、すべてを同じ密度で見れるとは限らない。
そこに、次の変化が生まれる余地があるのかもしれませんね。


6. 束ねる力と細かく拾う力

ここまで考えると、サービス業の変化は、単に「分業されたものが統合される」という話だけではなさそうです。

最初は、生活や仕事の中にあった面倒ごとが外に出ていく。
その面倒ごとを引き受けるために、専門のサービスが増えていく。

ただ、サービスが増えすぎると、今度は利用者から見て分かりづらくなります。そこで、一気通貫、ワンストップ、プラットフォーム、ショッピングセンターのように、分かれたものを束ねる力が働きます。

これは、利用者にとってかなり大きな価値です。

一方で、束ねたものは大きくなるほど、どうしても標準化されます。多くの人にとって使いやすい形に整える必要があるからです。
標準化されたサービスは強いです。便利ですし、安心感もあります。

ただ、その分だけ、個別の事情や、地域の事情、細かい違和感、特殊なニーズまでは拾いにくくなります。
どれだけ大きく束ねても、すべての端まで同じ密度で見ることはとても難しいことです。

そこに、専門性の高い業者や、地域に根差した会社、特定の顧客を深く理解している分業側のサービスが入り込む余地が残ります。

分かれた面倒ごとを束ねる力は、確かに働きます。
ただ、束ねたものが大きくなるほど、端には取りこぼしも生まれる。
そして、その取りこぼしを拾えるサービスがまた別の価値を持つ。

これは小売や不動産、コンサル、決済のようなビジネスの話でもありますし、歴史の中でも似たような構造が繰り返し出てきたのかもしれません。

便利さは、面倒ごとを減らしてくれます。

ただ、その便利さを作るためにサービスが増え、増えすぎたサービスをまた誰かが束ね、束ねたものが大きくなると、今度は端にある細かな違和感を拾うサービスが増える…

サービス業ではこんな循環が起こっているのかもしれませんね。


いかがでしたでしょうか。
今回は、産業構造の変化について考えてみました。

・なぜ社会全体で見ると、第一次産業や第二次産業よりも、第三次産業、つまりサービス業の存在感がどんどん大きくなっているのでしょうか。
・なぜ私たちはここまで多くのサービス業を展開してきたのでしょうか。
・これから起こる変化のヒントはあるのでしょうか。

この問いの答えを考える示唆になればと思いました。

それでは。


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