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生きる喜び作戦

まもなく91歳になる父は昨年5月まですこぶる元気でした。
日常生活はもちろん、畑仕事も山仕事も難なくこなし、集落の人たちから頼まれると、油圧ショベルで整地をすることもありました。
とても90歳には見えないと言われることが自慢であり活力のもと。

しかし5月に脳卒中に倒れ、父の生活は一変しました。
幸い、早期の治療が功を奏して、またその後のリハビリを頑張ったお陰で、ほぼ運動麻痺は気にならない程度まで回復しました。

問題は脳の虚血による高次脳機能障害、認知症と類似の症状が残ったことです。血管性認知症との区別がつけにくいですが。

本人はできなくなったことが増えたことに、いらだち、悲しみ、絶望しました。たびたび「もう死んだほうがいい。」「いっそ殺してくれ。」などと口走るようになりました。

当たり前にできていた能力を一気に奪われるという残酷さの前に、父はなすすべがなく、日に日に憔悴していきました。

家族は、励ましたり、なだめたり、叱咤激励したり。
あの手この手で、まだ生きたいと思えるようになるように試してきました。

父の立場になると、無理もないことなのかな・・・と思ったこともありました。
人生100年時代とはいえ、現在の平均寿命はとうに超えています。
毎日、目が覚めて起きてきても、することもない、ごはんもおいしくない、身体がだるい、生きていても何も楽しみがない。

それでも、生きているからこうやって家族と会話ができるじゃない。
思い出を語ることができてるじゃない。
一度死んだら、二度と話はできないんだよ。
それでもいいの??

と言いつつ一方で、それは私のエゴなのか・・・とも思いました。
毎日、頭の中で、ぐるぐる、ぐるぐる、いろんな思いが交錯しました。

最後にたどり着いたのは(今の時点でですが)、
短くてもいいから、生きている今を味わってほしいということ。
笑っている時間を少しでもたくさん持たせたいということ。

父にとっての生きる喜びとはなんだろうと考えました。
笑えるのはどんなときだろうとか。

父が一生懸命生きてきたのは、家族のためです。
自分を取り巻く周囲の人々のためです。
そんな頑張る自分を誇りに思うからです。

誰かの役にたち、喜んでもらうこと。
誰かに自分を必要とされること。
「ありがとう」と言われること。
「さすが、〇〇さん」と言われること。

そういえば、「△△してほしいと言うなら協力するよ。そう思わないなら手は出さない。」とよく言っていました。

父にしてもらうことは、ほとんどなくなりました。
これまでのような方法で父が誰かの役に立つことは、もうないでしょう。
でも、私たち家族は父を必要としています。
それを伝えることならできる。

「いいこと考えた~!!」

ある日、私にはあるアイデアが浮かびました。
が、しばし考えて、寝かせておきました。
そしてお正月に、思い切って姪っ子たちに向けてメッセージを送りました。

じいちゃんの現在の様子。
じいちゃんの悲しみと苦しみ。
生きていてもいいという理由がほしいこと。
だから、たまにでいいからハガキをください。
「私たちは、じいちゃんを覚えているよ。」と。
でも、決して強制はしないから、気が向いたらぜひ。

姪っ子に送ったメッセージ要約

それから、毎日ポストを見るようになりました、こっそり。
でも、なかなか来ません。
「うわー、私の独りよがりかぁ。空振りかぁ。😣」

と思っていたある日。
ついに第一通目が届きました。
遠くに住むひ孫くんの描いたひいじいちゃんの絵が添えられていました。

早速「ありがとうね!」とLINEを送ると、「気になっていたけど、何もしてあげられなかったから、逆に教えてくれてありがとう。」と返事が来ました。
めっちゃ、嬉しかった。😭

その割には父の反応がイマイチでしたけど。🤣


それから、ポツポツと5人の孫からハガキや手紙が届くようになり、父もだんだん楽しみにするようになりました。
何度も繰り返し文字を追う姿を見ると、じーんとしてきます。
お誕生日のカードも届きました。
「ありがたいねー、しあわせだねー。」と父は今しみじみと、生きる喜びを噛み締めているようです。

***

この話はしばらく下書きに残ったままでした。
最初の頃の「死んだほうがまし」とばかり言っていた頃からすると、いろいろなことが複合的に作用し、次第に好転していきました。
この「生きる喜び作戦」はその中のひとつです。

声かけに応じてくれた姪っ子たちには感謝しかありません。子育てに多忙を極める中、一時ひとときじいちゃんに思いを馳せ、子どもたちとハガキを書く時間を取ってくれる。それは、父が孫たちと関わってきた時間や思いとリンクします。

感染症が流行していたこの3年間、孫やひ孫ともほとんど会えなくなりました。LINEもあるけど、やっぱり手書きのハガキや手紙には独特の温かさがあります。いつでもすぐ手にとって眺めることができるのもいいですね。

孫やひ孫との再会の話をしながら、父は笑っています。
「もちょっと生きてみるかぁ。」



タイトル画像は”hibino yuuki”さんにお借りしました。
「思いを集めて」というイラストのタイトルに惹かれました。
今はバイクに乗った郵便屋さんが届けてくれますけど。




そして、2023/03/20 追記


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