ブライアン・ウィルソンVSマイク・ラブ トランプも巻き込んだ「ビーチ・ボーイズ」の政治闘争
11日に亡くなったブライアン・ウィルソンと、従兄弟でバンドの共同創設者であるマイク・ラブとの長年の確執は、非常に有名です。
でも、それは複雑で、不可解な物語でもあり、簡単に記すのは難しい。
ともあれ、ビーチ・ボーイズは、基本的に家族バンドだったわけですが、ブライアンの死でウィルソンの3兄弟は全て亡くなり、基本メンバーでは、従兄弟のマイク・ラブと、血のつながりがない友人、アル・ジャーディンだけが生き残った形です。

マイク・ラブは、ブライアンの死に際し、以下のような追悼文を発表しました。
妻のジャクリーンと私は心が張り裂けそうです。彼女はこの物語の多くの章で私のそばにいてくれました。私たちはブライアンの家族、彼の子供たち、そして彼の人生と才能に触れたすべての方々に、愛と祈りを送ります。
ブライアン、あなたはかつて“もし私たちがもっと年をとっていたら素敵じゃないか?”と尋ねましたね。今、あなたは時を超えた存在となりました。君が作り出した天国のような音楽に包まれ、あなたにふさわしい安らかな眠りにつくことができますように。あなたの魂が、あのファルセットのように高く舞い上がり、翼を広げて飛翔することを願っています。
ハーモニーと、思い出と、愛をありがとう。死は誰にも癒せない心痛を残し、愛は誰にも奪えない記憶を残します。
永遠に君を想い続けます、愛する従兄弟よ。
マイク
(amass 2025/6/12)
ブライアン・ウィルソンとマイク・ラブの対立は、一時は法廷闘争にもなりました。
ブライアンが、「マイク・ラブなんて大嫌いだ。エゴが強すぎるから」と言っている映像↓
Brian Wilson doesn't like Mike Love... at all
その「闘争史」は、改めて専門家によって書かれるべきだろうと思います。
ビーチ・ボーイズの音楽的リーダーは、間違いなくブライアンでした。
だから、「前のほうでタンバリンを叩いているだけ」で、「ブライアンの『スマイル』の価値がわからず発表を遅らせた(ように言われる)」マイク・ラブの分が悪いのは、当然かと思います。
とくに1990年代以降は、山下達郎も言っているように、ブライアンは神格化されていき、「ペット・サウンズ」や幻の「スマイル」がやたら持ち上げられるようになりました。
「ビーチ・ボーイズ」よりも、みんな「ブライアン、ブライアン」言うようになる。(同時に、それまで軽く見られていたビーチ・ボーイズが、少し真面目に捉えられるようになったかもしれない。村上春樹の小説に登場したりしたし)
しかし、1960年代当時、LSDの乱用でガイキチ同然になったブライアンから、「ビーチ・ボーイズ」を守ったのが、マイク・ラブである面もあります。
まあ、「ビートルズのライバル」として、ヒット連発の義務をひとり背負わされていたブライアンが、ツアーから退いてスタジオにこもり、ドラッグに逃避していったのもわかるのですが・・。
今ではアルバム「ペット・サウンズ」(1966)は、ブライアンの天才の爆発であり、ロック史の金字塔と認められています。
しかし、同時代の洋楽ファンの印象としては、この「ペット・サウンズ」と同時に発売された「グッド・ヴァイブレーション」を最後に、ビーチ・ボーイズがヒットチャートから遠のいていったのも事実です。
その時点で、ますます頭がおかしくなるブライアンと、サイケデリックな「芸術」を志向する彼の音楽に、マイク・ラブが不安を持ち、抵抗したのは理解できます。
(マイク・ラブ自身は、近年のインタビューで、自分が「ペット・サウンズ」や「スマイル」の方向性に抵抗したとされるのは誤解だ、と述べており、真相は依然不明。wiki"Mike Love"等参照)
ビートルズの「サージェント・ペパーズ」に影響を与えた「ペット・サウンズ」の評価が批評家のあいだで高まる一方で、ビーチ・ボーイズの昔のサーフロックのヒット曲を懐かしむ人々も多かったんですね。
バンドのフロントマンであったマイク・ラブは、そうした昔ながらのファンのために、ブライアン不在時代のビーチ・ボーイズのツアーを牽引し、そのイメージの維持に努めました。
その結果として、1988年に、「グッド・ヴァイブレーション」から22年ぶりのNO1ヒット「ココモ」を生むわけです。
この曲では、作曲もレコーディングも、ブライアン・ウィルソンは関わっていません。
マイク・ラブばかりが目立って癪に触る、ということで、批評家に酷評されたことは、以前の記事で書きました。
1990年代に出たブライアンの自伝をきっかけに、ブライアンVSマイク・ラブの確執は、バンドの権利をめぐる法廷闘争に発展しました。
その結果、私の理解では、バンドの権利は現在、マイク・ラブが持っていると思います。
そしてその結果ーー2020年には、ビーチ・ボーイズが、ドナルド・トランプの政治集会に登場することになり、ブライアン&アル・ジャーディンが抗議する事件も起こりました。
かつてのバンドの「グッド・ヴァイブレーション」はどこへ消えたのか。
ビーチ・ボーイズの共同創設者であるブライアン・ウィルソンとアル・ジャーディンは、元バンド仲間のマイク・ラブが日曜日にカリフォルニア州で行われたトランプ大統領の再選キャンペーンのための資金集めイベントでグループ名を使用したことを強く非難した。
ロサンゼルス・タイムズ紙によると、ラブはニューポートビーチで行われた、カップル1組あたり15万ドルにも及ぶ高額チャリティイベントでヘッドライナーを務めた。79歳のラブはビーチ・ボーイズ名義で演奏するライセンスを保有しているが、現在のメンバーの中では唯一のオリジナルメンバーだ。
日曜日に広報担当者が発表した声明の中で、ウィルソンとジャーディンは、このパフォーマンスを強く否定した。
Those good vibrations are long gone.
The Beach Boys co-founders Brian Wilson and Al Jardine slammed former bandmate Mike Love for using the group’s name at a fundraiser for President Trump’s reelection campaign Sunday in California.
Love headlined a big-dollar benefit event in Newport Beach that cost as much as $150,000 per couple, the Los Angeles Times reported. The 79-year-old singer holds a license to perform under the Beach Boys’ name but is the only original member in the current lineup.
In a statement issued by a spokesperson on Sunday, Wilson and Jardine strongly disavowed the performance.
ブライアン・ウィルソンとアル・ジャーディンは、トランプ氏の資金調達イベントでのビーチ・ボーイズのパフォーマンスと「全く関係ない」と主張Brian Wilson, Al Jardine say they had ‘absolutely nothing to do’ with Beach Boys performance at Trump fundraiser(Daily News 2020/10/19)
*マイク・ラブと、臨時メンバーだったブルース・ジョンストンは、共和党支持者として知られる。
話は少しさかのぼりますが、上述の法廷闘争が一段落した後、ブライアンとマイク・ラブは一時的に和解して、2012年に久しぶりに二人が共演しての「ビーチ・ボーイズ」ツアーがおこなわれました。
その時、来日コンサートもおこなわれ(星野源が前座だった)、その映像を以前の記事で紹介しました。
しかし、その後、また仲違いしていたようなので、来日コンサートで彼らの共演を見られた人は、幸運だったかもしれません。
(とはいえ、映像で見る限り、ブライアンは横のほうでぼーっとキーボードを弾いているだけですが)
ごく最近まで、ブライアン組と、マイク・ラブ組に分かれて、それぞれライブをおこなっていたようです。
それらの映像は、YouTubeでも散見されますが、まだよく精査していません。ただ、マイク・ラブの最近のパフォーマンスは、さすがに老いを感じさせます。
いずれにせよ、ブライアンの死によって、ビーチ・ボーイズ内の長年の確執も幕を閉じたわけでーー。
ビーチにやっと平和が訪れた感じです。
残された音楽に感謝し、改めてご冥福を祈る次第です。
The Beach Boys - Good Vibrations (Official Music Video)
<参考にした動画>
Brian Wilson vs. Mike Love: The Story of the Beach Boys' Many Conflicts(Music Mongoose 2024/10/2)
<参考>
