【YouTube】ヤクザ映画の頂点「修羅の群れ」再び無料公開中
東映のYouTubeチャンネルで、昨年9月に続き、「修羅の群れ(1984)」が無料公開中。11月27日まで。
昨年9月に見たときに、概要はnoteに書いた。
<稲川聖城の半生>
博徒指定暴力団(本部は六本木)、稲川会の初代会長・稲川聖城(映画の中では稲原龍二)の半生を、松方弘樹主演で描いたヤクザ映画。
映画のモデルとなった稲川聖城(本名・角二)は、1914年(大正3年)横浜生まれ。
片瀬(現・藤沢市)の親分・加藤伝太郎(映画で丹波哲郎が演じる)の子分となり、加藤の若衆、横山新次郎(鶴田浩二)の弟分となる。
その後、当時関東一の親分と言われていた、横浜の綱島一家総長・鶴岡政治郎(若山富三郎)の代貸となる。
そして戦後、熱海の不良外国人を制圧した功により、熱海の山崎一家総長・石井秀次郎(映画には出てこない)のあとを継いで、1949年、稲川会を立ち上げる。
稲川聖城は、この映画公開時(1984年)はまだ稲川会会長だった。
映画は、その経歴を忠実になぞっている。ヤクザ界独特の出世ルートが、映画の中では丁寧に説明されていない(私も最初、混乱した)ので、上の経歴を頭に入れて見た方がいい。
稲川は、この映画公開翌年に稲川会総長となり、その後、山口組4代目の竹中正久、5代目渡辺芳則の後見人となる。亡くなったのは2007年、93歳。
ヤクザ映画の総本舗、東映がオールスターで作ったものだが、実在のヤクザを美化・英雄視するようなこんな映画は、もうコンプライアンス上、作れない。東映としても、事実上最後の劇場用「実録」ヤクザ映画の1つとなった。
<Vシネの原点>
今の若い人がこの映画を見るとどう感じるだろうか。
鶴田浩二が啖呵を切れば雷鳴がゴロゴロと響き、松方弘樹が男の涙を流したらザーッと雨が降り出すような、リアリティ無視の様式美でできた映画だ。
基本的テーマは、兄貴分である鶴田浩二と、弟子の松方の、ヤクザにおける師弟愛、兄弟仁義だ。鶴田浩二演じる「大船の親分」が、自分の出世を犠牲にして、松方弘樹を一人前の「男」になるよう導き、松方が多くの子分を心服させて大出世するのを見届ける。
だから、この映画で一番カッコいいのは横山新二郎役の鶴田浩二であり、「光り輝くオモテの顔を、裏で支える馬鹿がいる」という主題歌も彼の心情を歌っている。
「いかにも昭和の邦画」と感じるかも知れないが、昭和といっても1984年は、マイケル・ジャクソンの「スリラー」が流行り、若者は「ビバリーヒルズ・コップ」なんかを見ていた頃だ。
同時代で見ても、古臭い映画だった。実際、興行的にも振るわなかった。しかし、今見たら、最後のヤクザ映画であると同時に、「最初のVシネマ」という感じがする。
ちょうどレンタルビデオが栄え始めた頃だった。ここでヤクザ映画の進化は止まり、伝統芸となってVシネマとして存続していくことになる。この映画の「修羅」という言葉は、その後Vシネマでも多用される。
この映画で鉄砲玉役だった清水健太郎が、一大看板となってVシネ界を牽引していき、今の「日本統一」まで続くわけである。
そういう意味で、Vシネマの原点、出演者がやたら豪華なVシネマ、として見れば、楽しめるのではないだろうか。
<オールスターのその後>
出演者がやたら豪華、と言っても、今の若い人にはまったくピンと来ないかも知れない。
私のような年寄りには、懐かしい人ばかりである。主な出演者の「現状」をちょっと調べてみた。(カッコ内は役名、役柄)
松方弘樹(稲原龍二) 2017年没(74歳没)
品川隆二(稲原の父) 存命(89歳)
酒井和歌子(稲原の妻) 存命(73歳)
北島三郎(稲原の若衆) 存命(86歳)
菅原文太(伊沢輝一、稲原の若衆) 2014年没(81歳没)
小林繁(伊沢の舎弟) 2010年没(57歳没)
張本勲(川崎の韓国系ヤクザ、伊沢の子分) 存命(82歳)
清水健太郎(稲原の子分) 存命(70歳)
丹波哲郎(加藤伝三郎) 2006年没(84歳没)
鶴田浩二(大船の親分、稲原の兄貴分) 1987年没(62歳没)
若山富三郎(鶴岡政次郎) 1992年没(62歳没)
北大路欣也(伊沢の兄弟分) 存命(79歳)
グレート小鹿(会津川、力士崩れの人夫) 存命(80歳)
小林稔侍(鄭、韓国系ヤクザ) 存命(81歳)
天知茂(大島栄五郎) 1985年没(54歳没)
にしきのあきら(稲原の子分) 存命(73歳)現・錦野旦
私としては、鶴田浩二や若山富三郎が、この映画に出ていた時点でまだ50代であり、ともに62歳で亡くなっていることに、軽い衝撃を受けた。スクリーンの中の彼らは現在の私より若く、私よりも早く死んでいるのである。彼らの貫禄、彼らのイメージは、私の中ではもっとずっと年上だった。
元プロ野球選手、小林繁を知らない若い人も多いだろう。1978年の「江川事件」(巨人が江川卓を獲得するためトリッキーな手段に出て社会問題となった事件)で、江川卓と交換で、巨人から阪神に出された「悲劇の英雄」だ。阪神の投手として、巨人戦になるとやたら闘志を剥き出しにした。この映画の時点では、まだ江川とも巨人とも和解していなかった。そういう「はみ出し者」的な人物として、この映画には出ているわけだ。
この後、巨人のオーナー正力亨が小林に謝罪し、江川と一緒に仲直りのCMに出たりする。現役引退後もタレントとして活躍していた彼が早死にした(心臓発作)のは意外だった。
この映画で目立っているのは、役者としての北島三郎だ。ヒロポン(覚せい剤)を打ちながらマシンガンをぶっ放す、短躯で威勢のいい姿は、「日本のジョー・ペシ」という感じだ。ヤクザ映画にピッタリなのだが、北島三郎はその後、暴力団との「不適切な関係」が次々取りざたされ、ヤクザ映画に出にくくなった。開き直ってVシネマで活躍すればよかったのに、と無責任に思ったりする。役者の才能が封印されたのは惜しいことだった。なお彼が歌う主題歌「神奈川水滸伝」も名曲で、稲川会のテーマソングになったと言われる。
映画の最後の方で登場する天知茂も印象的だ。実在の韓国人実業家、町井久之がモデルとされる役を演じる。登場時間は短いのだが、天知茂がこれを撮ってすぐ、くも膜下出血で亡くなったことを思うと、惜しい役者だったと改めて思う。
そんな風に、一人ひとりの役者の人生に思いを馳せ、昭和の時代を思い出していると飽きない。
1年に1回、「修羅の群れ」を見て、感慨にふけるのを習慣にしてもいいかも知れない。
