長嶋茂雄さんの死と「出版界の噂」
長嶋茂雄さんのご逝去を悼み、心からご冥福をお祈りします。
2004年に脳卒中で倒れてから、20年以上の闘病生活、誠にお疲れ様でした。
虫の知らせ、というほどではないですが、ちょうど1カ月前、私は長嶋さんのことを思い出していました。
5月1日、東北大名誉教授・田中英道さんの死去が公表された時です(死去は4月30日)。
「そういえば長嶋さんはどうしているだろう」と思っていました。
野球界のレジェンド・長嶋さん(享年89歳)と、美術史家で保守論客だった田中英道さん(享年83歳)は、世間ではイメージがまったく重ならないでしょう。なんなら、対極にある感じ。
でも、私の中では、お二人が重なりました。
長嶋さんが2004年、68歳で脳卒中で倒れた時、私は出版界にいました。
長嶋さんはその時、新刊プロモーションでサイン会などを精力的にやっていて、「それが体に障ったのではないか」と噂する人が業界にいたのです。
その噂が本当だったかどうかはわかりません。
今、ネットで調べても、その噂を裏書きするような情報はありません。
長嶋さんは、2004年3月4日、自宅で倒れた、とあります。
その直前の2004年1月22日、長嶋さんは幻冬舎から『人生の知恵袋 ミスターと7人の水先案内人』という本を出版しています。
長嶋さんの久しぶりの本で、幻冬舎のプロモーションに力が入っていたのは覚えています。
冬の寒い時期、書店の店頭でプロモーションをする長嶋さんの記事がスポーツ新聞に載っていました。
その姿を私も見ていたので、「噂」に心を痛めたのでした。
田中英道さんも、新刊のプロモーション中でした。
3月8日にYouTubeにアップされた、田中さん最後の動画の一つは、新刊『浦島伝説とユダヤ』の出版記念講演会でした(開催は2月13日)。
やはり寒い時期のプロモーションで、屋内とはいえ、田中さんは防寒のためのえり巻きをしています。
動画の中の田中さんはお元気ですが、訃報の後にこの動画を見ると、ちょっと老人に無理をさせているのではないか、と思ってしまいました。
それで、約20年前の、長嶋さんが倒れた時の「噂」を思い出していたのです。
もちろん、因果関係は不明の話だし、こういうことを書くと、万一、関係者で気を病む人が出てくると気の毒だから、書かないつもりだったのですが。
でも、長嶋さんが亡くなり、考えてみれば私もいつ死ぬかわからないので、書いておこうと思いました。
つい最近も、田中さんと長嶋さんのことを思い出すことがあったのです。
私より年長の、70を過ぎた知人が、やはり本を出したというので、イベントや、メディア出演などのプロモーションをやってたんですね。
それを見て、「その年で、そんな無理をしなくても」と思い、心配していたんです。
出版のプロモーションは、そういう人たちの通常業務に、臨時で付け加わるものだから、そうとうな労働強化なんです。
でも、たぶん年長者ほど「出版」に思い入れがあって、少しでも本を売ろうと努力してしまうんですね。
編集者だった昔の私も、本を出したら著者にプロモーションしてもらうことは多かった。
ほとんどは自分より年長の著者です。老人と言える人もいた。
それでも、本を出したら、複数のサイン会やメディア出演、場合によっては著者ツアー(全国書店回り)を、著者に要求していました。
当時は私も若く、それを当然のことと思っていましたが、いま自分が老人になってみると、大変な負担をかけていたなあと反省させられます。
いまは、当時より本が売れないから、ますますプロモーションの要求が多いのではないでしょうか。
ちなみに、私の知る限り、そういう場合の著者への「謝礼」は、出ても車代程度、ほとんどは「タダ働き」です。
少し前のことですが、別の年長の知人が、脳卒中で倒れました。
彼は新刊プロモーションは関係なかったけど、文章を書く仕事を続けていた人でした。
幸い、命に別状なく、また出血の部位が脳の言語領域ではなかったので、言葉は不自由なく使えています。
その彼も、「歳を取って、この仕事をしていたせいだな」と言っていました。
(私も、無理をしているつもりはありませんが、noteをそろそろやめねばなりません)
繰り返しになりますが、これは事実関係の不確かな話で、長嶋さんや田中さんの本当の病因・死因はわかりません。
もし関係があったとしても、結局はご本人の意思、そして運命であり、関係者の人は気にしないでください。
でも、「年寄りの冷や水」とはよく言ったもので、いかに元気に見える人でも、長嶋さんのようにフィジカルな意味でのエリート中のエリートでも、老人は老人。身体の中はガタが来ています。
老人(60歳以上)をあまり働かせてはいけない、とくに寒い時に、慣れないことをさせてはいけない、と出版界の後輩に遺言しておきます。
<参考>
