やさしい朝
高2の夏に特発性過眠症の診断を受けて以来、毎朝薬を飲む生活を続けている。
薬を飲んだら普通の生活を送ることができる。普通の大学生として、1限から授業を受けることができる。薬を飲めばの話であるが。
入学後に留学ガイダンスに参加した。
高校進学後にフランス現代思想に興味を持ち、パリ留学を夢見ていた。どうせ行くなら交換留学がいいな。まずは英語をちゃんと話せるようにならないとな。そんな風に漠然と考えていた。そんな中で配られた資料に目を通して、呆然とした。
心身の健康上問題がないこと。
当然と言えば当然のことであった。薬を飲めば普通になれたから、なんとか全日制高校を卒業できたから、とっくに普通になった気でいた。月一の通院は?薬はどうなるんだろう。向こうで体調を崩したら?よく考えたらすぐにわかることであったのに、気づけなかった。目を背けていただけかもしれないが、盲目的に全能感を抱いていたことがショックだった。
一緒にガイダンスに参加した友達は、ドイツに交換留学をすることを考えていると言っていた。私もフランスで考えてるよ、とは言えなかった。惨めだった。
その後、薬がなくなる前に新しい病院に行った。
「採血だけして帰ってください」なんて偉そうな医者が言ったせいで、薬代込みで一万近く払った。医療費控除の有難みを痛感した。くたばれ。
処置室では看護師たちが楽しそうに談笑していた。適当に刺してぐりぐり血管を探されて嫌気が刺した。あれで見つかった試しがないんだけど、探したら見つかるものなのかしら?変に粘ってもどうせできないじゃない。まるで治りもしない病気のためにムダ金を払い続ける私みたいだった。
薬で起きている感覚にも慣れてしまった。急に朝起きれない日が来る恐怖とは常に隣り合わせで、明日も起きられますようにと祈りながら眠っている。
これでも頑張っているけれど、月一で起きられなくなるときがあるし、薬を飲んでいても日中眠ってしまうこともある。怠惰だと言われることにはいつまでも慣れなくて毎回ご丁寧に傷つけられるけれど、私は今日も薬を飲んだし、明日も薬を飲んで生活する。甘くもかわいくもないお薬に生かされている現実なんかクソ喰らえだけど、そうして生にしがみついているんだよ。
だから、せめて夢の中だけはかわいいおひめさまでいさせてね。
今日はここまで。ごきげんよう。
眠れない夜に天使がやって来てレディメイドの愛をささやく
起きられた朝に悪魔は去ってゆくオーダーメイドの地獄を置いて
追記:ちゃんと確認しなかった私の責任でもあるけれど、初診から薬の処方を間違えられていた。紛失したかと思って探した時間と自責した体力を返してほしい。
