川面に映る桜色
小さい頃、目黒川といえばぬらぬらと黒光りした怖い川だった。
ヘドロが積み重なって川底も見えない真っ黒な川。
桜は咲いていたけれど、花見散歩で賑わう、なんてこともなかったように思う。
その目黒川が、何年もかけて綺麗な川に生まれ変わった、と聞いた。
それどころか近年では都内屈指のお花見スポットとして名高く、毎年多くの人で賑わっているという。
SNSなどで素敵な写真が出るようになって一気に人が増えた。
そんな話を聞いて、私は久しぶりに目黒川に行こうと思った。
地下鉄の池尻大橋で下りて、カメラを肩にかけて上流から川沿いを歩く。
平日の午前中にもかかわらず、川沿いは結構な人出だった。
川沿いの店舗や露天が並び、桜モチーフのお酒も出ていて、人で賑わっている。
ぼんぼりが川沿いに吊られて並んでいて、ピンク色の連なりがお祭り騒ぎを彩っていた。
目黒川も上流の方は川幅も狭く、川の両側の桜が川にせり出すように咲いている。
水面に反射する桜も綺麗で、確かにこれは写真を撮りたくなるな、と思いながらシャッターを切った。
中目黒駅をすぎたあたりから、徐々に川幅が広がっていく。
観光客よりも家族連れや散歩中の人が目に入るようになる。
花見の賑やかさもいつのまにか収まって、穏やかな空気に変わっていた。
ああ、この辺の景色は少し見覚えがあるな、昔のことを思い出しながら川沿いを歩く。
川は本当に綺麗になっている、記憶にある黒光りとは雲泥の差だ。
透き通った川を見ながら歩いていたら、大きな固まりが視界の隅に入る。
視線を川面から上げると川の反対側に大きな桜が咲いている。
川に乗り出すように大きな幹が生え、そこから川に向けて突き広がるような枝々。
空の青、川の深い青、コンクリートのグレー、それらに囲まれて悠然とたたずむ桜。
私は思わず息を呑んだ。
思い出したように、カメラを構えてシャッターを切る。
カシャリ、というシャッターの音はいつもより手応えが無く、軽く聞こえた。
桜は、その美しく大きな姿を、目黒川に写し込んでいる。
少し強い風が吹いて、桜が舞い散る。
川には花びらがゆっくりと流れている。
私はそれだけを、ただ呆然と眺めていた。
このエッセイが少しでも面白かったら、フォローしてもらえると嬉しいです。
フォローすると記事が届きます。
月曜・金曜エッセイ更新、土曜は執筆週報、他不定期更新
▶ マガジン一覧は→ こちら
▶ このテーマが気になったら:日常エッセイは→ こちら
