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悪役令嬢転生MBA~趣味は事業再生、特技は市場分析ですの~20

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20・第十七章:贖罪の代価

絶望的な挟撃。
宮廷内での、社会的信用の失墜。宮廷外での、民衆からの蜂起。
二つの、致命的な危機が、同時に、エリザベートに襲いかかる。
衛兵に囲まれ、身動き一つ取れない。そして、外からは、自分への憎悪を叫ぶ、怒りの津波が、刻一刻と、迫ってくる。
どうすることも、できない。
チェックメイト。

エリザベートの唇から、血の気が引いていく。その瞳に、初めて、深い絶望の色が、浮かんだ。
(――ここで、終わるの…?)
長谷川梓の亡霊が、嘲笑うように、脳裏をよぎる。
『ほら、見たことか。お前は、いつだって、一人だ』

(――いいえ)
エリザベートは、奥歯を、強く、噛みしめた。
(一人じゃない!)
彼女の視線が、人垣の中で、自分を信じて、必死の形相でこちらを見つめる、イザベラの姿を捉えた。忠誠を尽くし、震えながらも、彼女の前に立ちはだかろうとする、レオンハルトとセバスチャンの姿を。
そして、脳裏に蘇るのは、領地で、自分を信じて、待っている、あの子たちの、笑顔。
(私が、諦めて、どうする!)

彼女は、決断した。
その決断は、あまりにも常識外れで、そして、無謀なものだった。
「イザベラ様!」
エリザベートは、小さな声で、しかし、鋭く、親友の名を呼んだ。「時間を稼いで!衛兵隊長を説得し、侍医の診断が終わるまで、この場を動かさないで!必ず、戻ります!」
「エリザベート!?何を…!」
イザベラの制止を聞く前に、エリザベートは、衛兵たちの混乱に乗じて、近くの天幕の、深い物陰へと、その身を滑り込ませた。
そして、意識を集中させる。
(――飛べ!)
内臓が裏返るような、強烈な吐き気。激しい消耗感。だが、彼女は、歯を食いしばって、それに耐えた。

次の瞬間、エリザベートは、怒号と熱気に満ちた、王宮前の広場の、ど真ん中に立っていた。
「天罰を!」「悪徳貴族を許すな!」
怒れる民衆の前に、たった一人で現れた少女の姿に、誰もが息をのむ。
「――エリザベート!」
群衆の先頭で、その名を憎悪と共に叫んだのは、アルフレッドだった。その瞳は、復讐の炎で、赤く燃え上がっている。
「どの面下げて、我々の前に現れた!その毒で、公爵閣下を殺め、今度は、我々までをも、口封じに来たか!」

「いいえ、アルフレッド」
エリザベートの声は、マイクもないのに、不思議なほど、広場全体に響き渡った。
「私は、あなたに、謝罪をしに来ました」
その言葉に、アルフレッドも、民衆も、度肝を抜かれる。
「学園時代、私が、あなたにしたこと。それは、紛れもない事実です。嫉妬心から、あなたの未来を、あなたの家族の人生を、私は踏みにじった。その罪は、どんな言葉をもってしても、償えるものではありません。本当に、申し訳ありませんでした」
エリザベートは、群衆の前で、深く、深く、頭を下げた。
それは、計算されたパフォーマンスなどではない。自らが犯した罪に対するエリザベートとしての罪悪感と、かつて、このような理不尽な力の行使に、ただ耐えることしかできなかった無力な自分への長谷川梓としての後悔が一体となった、魂からの、謝罪だった。

そして、顔を上げ、続けた。
「ですが、今の私が、本当に、あなたが言うような、民を虐げるだけの悪徳貴族なのか。それは、あなた自身の目で、確かめてほしい」
彼女は、群衆の中にいた、見覚えのある顔を指さした。
「あなたは、元スラムの孤児、今は『青の工房』のリーダー、ティーナのお兄さんね?妹さんの仕事ぶりを、見たことがありますか?彼女は、今、自分の手で、自分の未来を、誇り高く、創り出している」
エリザベートは、一人一人に語りかける。
「私の罪は、消えません。それは、私が、一生をかけて、背負っていくものです。ですが、今の私が成そうとしていることは、本当に、あなたたちの敵になることなのか。どうか、見極めてほしいのです」
その真摯な言葉に、民衆の怒りの熱が、少しずつ、戸惑いへと変わっていく。アルフレッドは、孤立した。

だが、時間がない!
「…イザベラたちが、待っている…!」
エリザベートは、残った最後の力を振り絞り、再び、意識を集中させた。
(――戻れ!)
今度の転移は、身体が内側から引き裂かれるような、激痛を伴った。視界が、暗転する。

彼女が、よろめきながら、収穫祭の会場の天幕から姿を現したのと、クラウディアが、国王に向かって、勝ち誇ったように言い放ったのは、ほぼ同時だった。
「――ご覧ください、陛下!エリザベートは、自らの罪を認め、逃亡いたしました!これこそが、彼女の答えなのです!」
「…それは、どうかしら」
その、か細く、しかし、凛とした声に、会場の誰もが、凍りついた。
そこに立っていたのは、顔を青くし、肩で息をしながらも、決して、その瞳の光を失っていない、エリザベート・フォン・リヒトハーフェン、その人だった。
その劇的な帰還と同時に、イザベラが叫ぶ。
「犯人を捕らえましたわ!」
衛兵に引きずられてきたのは、臨時の給仕だった。彼は、全てを白状した。ヘルナー商会に、金で雇われた、と。

チェックメイト。
完全な、逆転劇。
クラウディアは、血の気を失った顔で、その場に、立ち尽くしていた。
エリザベートは、全ての敵に、勝利したのだ。

「…エリザベート様!」
レオンハルトの悲鳴のような声。
エリザベートは、最後に、憎きライバルの、絶望に染まった顔を、確かにその目に焼き付けると、次の瞬間、張り詰めていた意識の糸が、ぷつりと、切れた。
彼女の華奢な身体は、力なく、床へと、崩れ落ちていった。

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金森努@マーケティング・研修講師/コンサルタント ありがとうございます! これからも頑張ります。