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藍色の共鳴――返らない手紙に、僕は返事を書いた 9

第九章:静かな告白
翌朝、研人は、まるで執行を待つ死刑囚のような心地で目を覚ました。世界から、色が失われていた。 疲労困憊し、アパートに帰り着いた時だった。彼は、自分の部屋の郵便受けに、一枚の封筒が差し込まれているのに気づいた。 消印はない。彼女が、直接届けに来たのだ。 震える手で封を開けると、中には、一枚の便箋が入っていただけだった。

『明日、午後二時に、井の頭公園の池のほとりにあるベンチでお待ちしています』

翌日、彼は指定された場所へと向かった。 ベンチに、彼女は先に着いて、静かに座っていた。空色のコートを身に纏った灯は、まるで一枚の絵画のように、その風景に溶け込んでいた。 彼がベンチに腰を下ろすと、長い沈黙が落ちた。 やがて、彼女が、池の水面を見つめたまま、静かに口を開いた。
「教えてください」 その声は、震えていなかった。「なぜ、あんなことを?」

その一言が、堰を切った。 研人は、用意していた言い訳も、謝罪の言葉もすべて忘れ、ただ、話し始めた。 初めてあの手紙に触れた日のこと。「あれは、何と説明すればいいのか…僕にもよく分からないんです。ただ、手紙に込められた想いが、感情が、まるで自分の記憶みたいに、頭の中に光景として広がって…。僕自身の、妄想なのかもしれない、と今でも思います」 彼は、そう前置きをして、自分の過去を語り始めた。事業に失敗して死を選んだ父のこと。その父を追うように、ある日突然、自分を置いて消えた、母のこと。

彼は、雄弁ではなかった。言葉は何度も途切れ、同じ場所を彷徨った。だが、彼は、嘘偽りなく、自分のすべてをさらけ出した。彼女の姿に、救われることのなかった自分自身の孤独な魂を重ねて見てしまったこと。彼女を救いたいという願いが、いつしか、生身の彼女への、醜い恋慕へと変わっていったこと。そのすべてを。

彼は、顔を上げることができなかった。どんな罰でも、受け入れるつもりだった。 長い、長い沈黙が落ちた。 研人が、もうこれ以上、この沈黙に耐えられない、と思った時だった。 「…あなたのお母さんも…」 灯が、ほとんど吐息のような声で、そう呟いた。

研人は、弾かれたように顔を上げた。 彼女は、彼を見ていた。その瞳に浮かんでいたのは、怒りでも、軽蔑でもなかった。 それは、あまりに深い悲しみと、そして、同じ傷を持つ者だけが交わすことのできる、痛切な「共鳴」の色だった。 彼女は、彼の罪を裁く前に、彼の告白の中に、自分と全く同じ「喪失の痛み」を見出してしまっていたのだ。
 
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金森努@マーケティング・研修講師/コンサルタント ありがとうございます! これからも頑張ります。