となりのトップランカー #12 | 出禁寸前の男① 毒味役
一店舗目の体験入店を9日間で打ち切り、
私は本指名のお客様から紹介された新店舗で
働くことを決めました。
新天地にて、いざ初陣
前店舗の待機室は、カーテンとパーテーションで
仕切られただけの簡易的な空間でしたが、
新しいお店は壁と扉でしっかりと区切られ、
個室感が保たれていました。
待ち時間の環境としては、
こちらの方が格段に良さそうです。
いざ、初日。
最初のお客様は、若い男性でした。
オプションで電マを希望され、
それを用いたサービスとなりました。
正直なところ、
私は電マがあまり好きではありません。
強い刺激に身体は反応してしまいますが、
それは私にとって心地よいものではないからです。
私は声が出る方なので、
女性が喘ぐ姿を好む方には
興奮材料になるのでしょう。
その男性も、
自分は直接触れられていないにもかかわらず、
私の反応を見ているだけで
しっかりと熱を帯びていました。
お互いの身体の準備が整ったら、
ローションを使って互いの脆い部分を
擦り付け合いました。
ぬるぬると滑るのが、
ローションのせいなのか、
私から溢れるもののせいなのか。
熱が馴染んでわからなくなってきたところで、
やがて白い情欲が放たれました。
お客様は、満足そうに笑っていました。
突然の申し出
一本目の仕事を終えてお店に戻ると、
スタッフさんから
「かなちゃん、ちょっといい?」
と声をかけられました。
案内されたのは、
面接の際にも座ったカウンター裏のスペース。
何事かと思いながら腰を下ろすと、
スタッフさんが声を潜めて切り出しました。
「次のお客様なんだけどね。
よく来てくれる人なんだけど、
女の子からの評判が良くないんだ。
うちは3人のキャストからNGを出されたら
出禁にするルールにしていて、
その人は今、既に2人からNGが出ている。
かなちゃん、悪いんだけど……
様子を見てきてくれないかな?」
言われた意味がすぐにわからず、
頭の中で少し考えました。
(つまり、私に『最後の毒味役』をしてって
言ってる??)
入店初日に、なんて客をぶつけるんだ——。
不安な気持ちが顔に出ていたのでしょう。
スタッフさんは慌てて付け加えました。
「みんながNGを出しているわけじゃないから!
大丈夫だったって子もいるし。
もちろん、ルール違反を強要されたら
キッパリ断っていい。
何かあったらすぐ店かホテルに連絡して。
僕たちがすぐに飛んでいくから。
みんなでかなちゃんを見守っているから!」
力強くそう言われましたが、
とはいえ、部屋に入れば二人きりです。
いつでも連絡していいと言われても、
常にスマホを手に持っているわけには
いきませんし、ホテルの電話が
すぐそばにあるとも限りません。
相手がどんな人物かは分かりませんが、
男性の力に女性が敵わないことくらい、
身を以て理解しています。
怖さはありました。
けれど、私が断ればまた別の誰かが
同じ依頼を受けることになる。
このお店のキャストは20代前半の若い子が多く、
30代後半の私は年齢層で見れば上の方です。
だからこそ、私に白羽の矢が立ったのでしょう。
人生経験の分だけ、
酸いも甘いも噛み分けてきた自負はあります。
いざって時の度胸も適応力もある。
男性相手に怖い思いもしてきましたが、
もしこれが、経験の浅い若い女の子だったら。
トラウマを植え付けられ、
これをきっかけにお仕事自体が
困難になってしまうかもしれません。
そこまで考えて、私は引き受けることを決めました。
正義感を振りかざすつもりはありませんが、
ここで保身に走って誰かに押し付ける方が、
私にとっては後味が悪かったのです。
「わかりました」
私がそう告げると、
スタッフさんは心底安堵した様子で、
何度もお礼を口にしました。
「何かあったら絶対に守るから。
我慢しないで、すぐに連絡してね」
その言葉を百パーセント信じたわけでは
ありませんが、「嫌なことは断ってもいい」という
免罪符は、微かな安心材料になりました。
これまでのお仕事の中では、
それが「嫌なこと」であるかを選ぶ権利すら
私にはありませんでした。
いざという時、自分の身を守れるのは自分だけ。
私は私を、ちゃんと守ってあげられるだろうか。
あの時の私は、
それを試したかったのかもしれません。
私はいつもより念入りに支度を整え、
挑むような足取りで、
出禁寸前の方が待つ場所へと向かいました。
2026年4月22日
KANA
▼出禁寸前の男といざ対面。緊迫の次の記事はこちら
▽全店舗でのお客様とのエピソードを綴った、前の記事はこちら
👑創作大賞2026にエントリーしています!
📖 となりのトップランカーを全話マガジンで読む
↓以下は、メンバーシップ加入者限定の
執筆後記です。
電マは苦手。
その思いの真実を、貴方だけに……。

ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
