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Trick or ??【ショートショート】

笑い声の絶えない会議室に、パンパンと手が鳴った。

音の主は、9人全員が席に着いていることを確認してから、「じゃあ始めますね」と開会を宣言した。

ここは、23××年の国会議事堂。半世紀前に広大な議場が閉鎖されてからは、すべての会議をこの小さな部屋で開催している。

A国の人口は、全盛期の100分の1にまで減少。GDPの国別の順位は、下から数える方が早い。しかしながら、実に平和であった。国家間の争いはもとより、私人間のいさかいもほとんどない。「自衛隊」や「警察」という組織は、形骸化して久しい。ついこの前まで「パクス・エテルナ永遠の平和」ともてはやされていたが、天下泰平の世が続く中で、いつしか死語と化した。

この四半世紀、誰が国家の舵を取っても、どんな政策をおこなってもことごとく上手くいった。徐々に国民は政治に興味を示さなくなり、議員の数は、本日欠席した一人を含めてたったの10人しかいない。でも、全く問題はない。だって、平和なんだもの。

「議長、今日の議題は?」

副議長が、あくび交じりに尋ねる。

「えーとね、今日は『ハロウィン』についてです」

「ハロウィン?」

「そう。ハロウィンって、お決まりの掛け声があるでしょう。『Trick or Treat』ってやつ」

「ありますね」

「その掛け声の後半部分を変更すべきだと、こいつが言ってきてな」

そう言いながら、議長は机の上に置いた人型ロボットの頭を優しく撫でた。

かつては話し合うべき議題がたくさんあったらしいが、今となっては昔のこと。だって、平和なんだもの。喫緊の国家の課題なんて、あるはずもない。私が議長になってからは、相棒に議題を考えてもらっている。掌に伝わる柔らかく温かい感触を感じながら、皆にこう呼びかけた。

「ということで、みなさんには『Treat』の代わりになる言葉を考えてほしい。5分時間を図るので、まずは各自意見をまとめてください。その後、一人ずつアイデアを聞いていきます。よろしいですか?」

「はーい」

覇気のない返事が、会議室の壁に吸われていく。議員たちは、議長の「はじめ」の合図で、一斉に自分の目の前に置かれた人型ロボットの頭に手を置いた。「アイデアを考えてほしい」と念じると、ロボットの顔が切り替わり、開かれたドキュメントに自動でテキストが打たれていく。

「あの、すみません」

2分が経った頃、最若手の男が手を挙げた。

「ん、どうかしたか?」

「あの、この子がおかしなことを言い始めまして。内容、共有してもよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

ピッと音がして、それぞれの画面にテキストが映し出された。

「Trick or Treat」の『Treat』を変えたいって話だけど、俺さ、やるなら『Trick』を変えた方がいいと思うんだよね。

だって、『Trick』って「いたずらする」って意味でしょ? なんか物騒じゃね? そのいたずらが、争いの火種になることも普通にあるじゃん。しかも、自分からいたずらを選ぶ人なんて誰もいないじゃん。なのに残しておくって、マジで無意味。

てかさ、『or』もマズくね? 相手に「Aですか? Bですか?」選ばせるんでしょ? 今の時代、選択させるって古いよ。『and』でいいじゃん。「AもBも与えるよ」でよくね?

例えば、「Peace and Happy」とかどう?
てか、これにした方がいいよ。
早急に変えようぜ!

あ、変更するんだったら、ちゃんと法律作ってね。作っといて損ないからさ。分かった?

議長は「なるほど」と小さく呟いてから、皆に諮った。

「みなさんは、どう思われますか?」

その呼びかけに応じるように、議員たちは一様に目の前のロボットに手を触れ、変更の是非を尋ねた。もちろん声には出さず、心の中で。

「私は賛成です」

「わたしも」

「僕もです」

かくして、多数決の結果、ハロウィンの合言葉は「Peace and Happy」となり、新しい法律も作られることになった。政府は緊急会見を開き、国民にこう呼びかけた。

「みなさんごきげんよう。本日は、国民のみなさまに大切なお知らせがあります。23××年10月1日より、『ハロウィン法』を施行いたします。今年のハロウィンから、『Trick or Treat』の代わりに『Peace and Happy』を使うようにしてください。なお、法律に反した場合は罰則が……」

ハロウィンの日。街には、人々の明るい声が響き渡る。

「Trick or Treat」

「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!」

新法を遵守する者は、ほとんどいなかった。法律を破ったところで、警察が 動かないのを知っているからだ。それなら、これまでの慣習を変える理由はどこにもない。

こうして、A国の文化と秩序が維持されていく。

まだまだ続く、パクス・エテルナ永遠の平和

【1,945字】




あとがき

今回は、花邑 灯火さんの企画に参加する形で、ショートショートを創りました。

企画を発見したのは締切の2日前でしたが、「なんか面白そう」という思いだけで物語を考えてみることにしました。

話のベースは、シャワーを浴びている最中に思いつきました。作中で政治・民主主義(における意思決定のプロセス)・平和が扱われているのは、ニュースで自民党総裁選を見聞きしてたからかもしれません。このタイミングだからこそ、出来上がった作品ともいえるでしょうか。

1000字くらい書けたらいいか、くらいに考えていたら意外と筆が進みまして、2000字弱にまとまりました。原案は、もっとディストピア感のあるものでしたが、書き進めるうちに今の少しライトなオチに落ち着きましたね。

僕は、星新一先生の作品が大好きです。小説を書き始めたきっかけが、彼のショートショートでした。初めて読んだ時の衝撃は、今でも忘れられません。
本作は、近未来のことを描く/寓話性を持たせる/オチをつけるという点で、彼の作風に(もちろん到底及びませんし、狙ったわけでもありませんが、結果的にどこかしか)近いものになっていると思います。その辺りも楽しんで読んでいただけると、嬉しいです!

余談です

下のマガジンに、この企画に参加されているみなさんの作品がまとめられています。これからゆっくり目を通して、お気に入りを探してみたいと思います!

花邑 灯火さんは、定期的に「参加型」の企画を実施されています。

興味のある方は、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?

以上、かなりあでした!

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