犯罪者レストラン 第二章 一流への道 8.5-洗濯機を作ろう 前編

年が明けて間もない頃、ハミエルは服をタライに入れて運ぶアレンを見かけた。

「おや、アレン。そんなに服を持ってどうしたんだい?」

「あ、こんばんはハミエルさん! これから皆さんの服を洗濯するんです! 今日はぼく非番なんで……」

アレンがタライに入れている服を見れば、たしかにアレン以外の服も入っていた。それにしても、抱えているアレンの目の高さまで服が山積みになっていてかなりの量だ。

「そうかい、偉いね。たまには私も手伝おうかな」

「え!? いいですいいです! ここに来た時に『ぼくにやらせてください!』って自分から言ったんです。それに、お洗濯することでちょっとお小遣いもいただいてて……」

そう言いながらぶんぶんと横に首を振るアレンだが、その両手はあかぎれのような傷が多くできていた。ハミエルは目を見張る。

「アレン、この指の傷は?」

「えっと、お洗濯しているとお湯に長く触ってしまうので、それで……」

アレンの話を聞いたハミエルは、ふむ……と考え込んだ。

「わかった。それじゃあ私も自分にできることをしよう。洗濯する機械……略して『洗濯機』を作れないか、ちょっと考えてみるよ」

「そんな、いいんでしょうか。ぼくだけ楽になるのは、悪い気がして」

心配そうな顔をするアレンに対し、腰をかがめて目線を合わせたハミエルは首を横に振った。

「アレン、楽をすることは悪いことじゃないよ。たとえばアレンが洗濯機を使うことで手早く洗濯できるようになったら、その浮いた時間で君はこのリビングを掃除できるかもしれないんだ。それは、みんなのためにならないかい?」

「それは……たしかにそうですね」

「それに、君がもし傷ついた手の人を見たらどう思うかな?」

「『痛そうだな』って思います」

アレンの言葉に「そうだね」とうなずいたハミエルは優しい表情で話す。

「それはきっと、レストランで君の接客を受けた人もそう思うだろう? アレンはお客さんにおいしく食べてもらいたいよね」

「そっか……。そうですよね!」

「とりあえず、機械がちゃんと完成するまではアレンに頑張ってもらうよ」

「はい!」

アレンは嬉しそうに笑った。

***

「……ということで洗濯機を作るための部品が欲しいんだが、ちょっと重たそうなんだ。誰か力がある人がついてきてくれると嬉しいんだけど」

休業日にハミエルから相談を受けたダルクはうなずいた。

「洗濯機か、あれば助かるな。考えてくれて嬉しいよ、ハミエルさん。買い物には俺が付き合おう」

するとその話を聞いていたスヴァンとトレインも話に入ってくる。

「暇だから俺も」

「会話に彩りを与えるなら僕も忘れないでくれよ」

トレインの久々に見るナルシストな言葉にスヴァンは「うわ」と言いたげな顔をした。ダルクも苦笑する。

「要するに暇なんだろ。よし、俺たち三人がついてくよ。いいかな、ハミエルさん」

「もちろんだよ。ありがとう」

そうして四人はハミエルの車に乗り込んだのであった。

信号待ちの車の中で、トレインは白い息を手に吹きかけながら少しでも温めようとする。

「さすがにまだ冬なだけあって寒いね」

「そうだな」

ハミエルの自動車は四人乗りで、運転席にトレイン、助手席にハミエル、後部座席にダルクとスヴァンが乗っていた。

ふと、スヴァンが通りのあるものに気づいて指をさす。

「おい、ちょっと待て。なんだ? あのポスター」

ダルクがその方向を見ると、先ほどナルシストぶりを発揮していた男の顔がポスターに大きく載っているではないか。

「トレインじゃないか。あれは……香水の広告か?」

すると、ふふんと気を良くして笑った運転席のナルシスト男は得意げに話し始める。

「そうだよ。この間年末に十日間休みをもらっただろう? あの期間で撮ったものさ。時雨の紹介でご縁があったんだよ」

「そうなのかい? トレイン君はモデルもできるんだね」

「それほどでもないよ。でもまぁ、素人なりに頑張らせてもらったけどね」

しかし、気を良くしているのもつかの間、スヴァンは容赦なく言った。

「てめぇ自分が詐欺師だったの忘れてんだろ」

一行が店に着くと、ハミエルは店主と顔なじみなのか仲が良さそうに話を始めた。ダルクたちには専門用語がわからないので、店の外の様子を眺めている。
すると雪道を一台の馬車が走ってきて、大きな屋敷の前に停まった。馬車の中から煌びやかなドレスを着た六十代くらいの細身な夫人が降り、使用人と挨拶を交わして屋敷の中に入っていく。

「あれはたしかマダム・イザベラだな」

「マダム・イザベラ? あのババアが?」

「そんな言い方をするものじゃないよ、スヴァン。あの人は貴族の中でも公正で真面目な方なんだ」

「ふーん」

そんな話をしていると、ハミエルが三人のもとに来た。

「待たせてすまないね。持ち運んでほしいものが決まったからこっちに来てくれるかな」

「わかった」

十分後、色々な部品を膝の上に乗せてダルクたちはレストランへと出発した。
ガタガタと固くなった雪道を車で走っていると、道端に見慣れた美女と数人の男性を見つける。

「あ、時雨だ」

トレインが指をさした方向を見るが、ハミエルだけ首をかしげた。

「時雨君? どこにいるのかな」

その言葉を聞いて数秒後、ダルクたちは何故ハミエルだけ時雨の女装姿を知らないのか理解した。
ハミエルはレストランの営業中は店内に姿を現さないし、まだリビングなどの生活スペースで時雨の女装した姿を見ていないのだ。

「あそこにいる女だ、ハミエルさん」

ダルクの助言を得てもう一度その方向を見るハミエルは、時雨を二度見した。

「!? あの美しい女の子かい!? 時雨君はてっきり男の子かと……」

「時雨は男だよ、ハミエル。女装してんだ」

ほう……。とハミエルは言ったものの首を傾げた。

「でも時雨君はなんで女装なんかしてるんだい?」

「それは彼の趣味さ。でも女装したからこそ得られる情報もあるみたいだよ」

「なんかまた男たちから誘われてないか? ほんとモテるな」

トレインがハミエルによく時雨を見てもらおうと、自動車の速度を落としてすぐ傍を通過しようとする。
時雨は車に気づいて、ひらひらと上品に手を振って見送った。

第28話↑ 


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