顧客が言葉にした悩みだけを信じると、商品を間違える
商談の終わりに、顧客が「少し高いですね」と言った。
担当者は価格が原因だと考え、値引き案を作る。
ところが金額を下げても、契約には進まない。
顧客の言葉を聞いたのに、直す部分が外れていることがあります。
(これは、販売や商談で起こり得る一般的な場面です。)
今回は、顧客の要望を聞いて商品や提案を直しているのに、購入や契約へつながらず困っている事業者に向けた話です。
顧客の発言は大切だが、原因の確定ではない
顧客が「高い」と言った事実は、尊重しなければなりません。
ただし、その一言だけで、購入を止めた原因が価格だと決めることはできません。
違いが分からない。使い方が分からない。導入後の手間が読めない。失敗した時の対応が分からない。売り手を信用できる根拠が足りない。
こうした不安を詳しく説明する代わりに、「高い」と短く伝える人もいます。
価格は、断る理由として言いやすい言葉です。相手を傷つけにくく、長い説明も要りません。礼儀正しい人ほど、本当の違和感をすべて話すとは限りません。
本人にも、理由を説明しきれないことがある
買わなかった理由を尋ねられても、人は自分の反応を順番に説明できるとは限りません。
説明を読んだ時に難しそうだと感じた。比較した時に違いが見えなかった。申込み後の連絡が多そうに見えた。保証の範囲が分からなかった。
小さなためらいが重なり、最後に価格表示を見た時点で購入をやめることがあります。その人の記憶には、最後に見た価格だけが残るかもしれません。
この時、「価格が高かった」という発言は嘘ではありません。しかし、価格だけを直しても、その前に生じた不安は残ります。
発言と行動を一緒に見る
私は、顧客の言葉だけで結論を出しません。
次の事実を合わせて確認します。
何と比較したか
どの説明を読んだか
何を質問したか
どこでためらったか
どの条件を確認したか
どの段階で話を終えたか
「高い」と言う前に、保証について何度も質問していたなら、不安の中心は価格だけではない可能性があります。
競合との違いを尋ねても納得できていなかったなら、価値が伝わっていない可能性があります。
(ここで書いているのは、一般的な可能性です。個別の顧客が何を考えたかは、発言と行動を確認しなければ分かりません。)
値下げの前に、分けて確かめる
価格を下げると、買いやすくなる人はいます。しかし、すべての離脱を価格のせいにすると、商品価値を傷めることがあります。
値下げの前に、少なくとも次を分けます。
金額そのものを負担に感じている状態
金額に見合う違いが分からない状態
失敗や導入後への不安が残っている状態
同じ「高い」でも、必要な改善は異なります。価格を変えるのか。比較説明を変えるのか。利用手順を分かりやすくするのか。約束できる範囲と根拠を示すのか。
原因を分けなければ、改善は当たり外れの繰り返しになります。
AIには、答えより照合をさせる
AIへ顧客の発言だけを入力すると、「価格を見直す」「割引を作る」といった案が出やすくなります。
そこで、発言だけでなく、商談記録や質問内容、比較した条件、話が止まった段階も入力します。
AIには、顧客が言ったことと、実際に行ったことを分けて整理させます。そのうえで、まだ確かめていない点を出させます。
AIが「原因は信用不足です」と決めても、それは事実ではありません。次回の聞き取りや提案で確かめる仮説です。
たとえば、価格を変えずに、違い、利用手順、対応範囲を説明した時、質問や反応がどう変わるかを見る。小さく試し、結果から直します。
聞き返し方を間違えると、本当の理由は遠ざかる
「高いと言われました。では、いくらなら買いますか」
この聞き方だけでは、顧客へ値段を決めてもらう形になります。顧客が答えた金額へ下げても、違いが分からなければ買われません。
必要なのは、反論でも説得でもなく、言葉の意味を分ける確認です。
予算を超えているのか。期待した効果に対して高く感じるのか。他の商品との違いが見えないのか。使う回数を考えると割高なのか。購入後の負担まで含めて不安なのか。
すべてを一度に尋ねると、顧客は答えにくくなります。商談で実際に出た質問や、迷った段階に近い1つから確かめます。
たとえば、保証について何度も確認していたなら、「金額のほかに、導入後の対応で分かりにくかった点はありましたか」と聞けます。
ここでも、答えを誘導してはいけません。「保証が不安だったのですね」と先に決めると、売り手が聞きたい返答へ寄せてしまいます。
顧客が答えてくれなかった場合は、無理に理由を求めません。提案書の説明順、質問が出た箇所、話が止まった段階を記録し、別の商談でも同じ反応が起こるかを見ます。
顧客の言葉を深く扱うとは、隠れた本音を言い当てることではありません。分からない部分を分からないまま残し、次に確かめられる形へ変えることです。
商談後の記録にも、推測を事実のように書かないことが必要です。「価格で失注」と書く代わりに、「高いとの発言あり。保証範囲を2回質問。終了理由は未確認」と分ければ、次の担当者も確かめ直せます。
顧客の声を否定する話ではない
発言だけを信じないというと、顧客を疑うように聞こえるかもしれません。しかし、その意味ではありません。目的は反対です。
顧客の一言を雑に分類せず、本当に困っていたことを丁寧に探すためです。
「高いと言ったのだから値下げする」だけでは、顧客が説明できなかった不安を残します。本人の言葉と行動の両方を見ることで、価格以外の負担も直せます。
一度の改善で成約したとしても、原因が確かめられたとは限りません。複数の場面で同じ反応が減るかを見ます。
最近「高い」と言われた場面を思い出すと、原因はどれに近いでしょうか。
A.金額そのものの負担 B.違いが伝わっていない C.導入後の不安
あなたが最近聞いた「高い」「難しい」「今は要らない」という言葉の前に、顧客は何を比べ、何を質問し、どの段階で進むのをやめたでしょうか。
顧客の言葉どおりに値下げしても成約が増えないと感じている営業担当の方へ、共有してみてください。
次回は、「何も言わずに帰った人に、売れない理由が表れている」を扱います。意見を伝えた人だけでなく、質問も苦情も残さず離れた人から、改善材料を見つけます。
