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笑顔のむこう~ショートストーリー【シロクマ文芸部&風まかせ文芸部】

(1486字(ルビ除く))


花びらを手のひらで受け止めようとする。
キャッチした、と思った瞬間にふわりと逃げてしまう。
校庭の桜の木の下で、わたしは花びらをすくうのに一生懸命になっている……ふりをしていた。

卒業式が終わり、わたしたちボランティア部の五人は、三年生の有賀ありが先輩と写真を撮り、別れを惜しんでいた。
先輩を入れて総勢六人という小さな部だった。穏やかな性格の先輩が部長としてみんなをまとめてくれて、病院や施設の手伝いや通学路のごみ拾い、手話の学習をしていた。
そんな有賀先輩は、来週引っ越して、東京の大学で福祉関係の勉強をするという。やっぱり優しくて素敵だ。

先輩が言った。
「ボランティア部がなくなるのはさびしいな」
うちの高校の部活は今年度で終了し、地域に移行するからだ。
他のみんなは、今後は社協のボランティアサークルや地域の手話サークルに入ろう、と話している。
彩乃あやのはどうするの」
みんなにそう聞かれたら、まだ考え中だと答えていた。

だってわたしは、二年前の入学式の日、ボランティア部勧誘のチラシを配っていた有賀先輩の優しそうな笑顔に一目惚れして入部を決めたのだ。
ボランティアなんて全然知らなかったわたしだが、活動の中で得たものはもちろんたくさんあった。
でも、先輩のいないこの街で、活動する気になれるのかな……
そんなことを考えながら、談笑する先輩たちに背を向けて花びらを追いかけていると、副部長のマコに叱られた。
「ほら彩乃、いつまでも遊んでないで」
「はーい、マコぴょーん」
ふり返ったわたしは、わざと変な顔をしてみせた。

わたしはいつもみんなを笑わせていた。
みんなと違って、ボランティアに興味があって活動しているわけじゃないから、どこか後ろめたくて、いつもおどけて笑いをとっていた。
それに、面白いことを言って有賀先輩が笑うのを見たかった。
「彩乃はいつも面白かったよ」
笑いながらそう言った有賀先輩の上着には、ボタンがひとつもなかった。
「先輩!ボタンがないぴょん!女子に取られたんですね?モテモテなんだから~」
「ああ、スペアまで取られちゃったよ」
先輩は上着をめくって裾のタグを見せてくれた。そこにあったはずのスペアボタンもちぎられている。
「こんなことなら一つ予約しておけばよかったなぁ~」
もちろんわたしの本音だが、こんな言い方だからみんな冗談だと思ってる。
ひとしきり笑った後、マコが場を仕切った。
「先輩はこれから本町で三年生のランチ会があるから、もう行かないと」
「ああ、十一時半のバスに乗る」先輩は腕時計を見た。

他の三年生は早々と本町に行ったようで、正門前のバス停に並んだのはわたしたちだけだった。
先輩は本町に行き、他のみんなはバスに乗って帰る。わたしは電車通学なので、バスを見送ってから駅に行くことにした。
十一時二十分に北町行きのバス、二十五分に団地行きのバスが来て、みんなが乗って行き、バス停にはわたしと先輩だけになった。

ドキドキした……

ずっと憧れてました、これからもLINEしていいですか、そんなことも言えたはずだ。でも、いつものおどけたわたしが、それを止めてしまった。

わたしはぺこりと頭を下げた。
「有賀先輩……二年間ありがぴょんございました」
「なにが『ぴょん』だよ」先輩は笑った。「でも彩乃のギャグはいつも楽しかったよ。部活を明るくしてくれた。こちらこそありがぴょんだ」
「『ありが』だけに?」
「ありがぴょん!」
わたしと先輩は顔を見合わせて大笑いした。
面白い子・彩乃のまま、お別れでいいのかもしれないと思った。
そして、先輩の笑顔を目に焼き付けた。
その笑顔のむこうから、本町行きのバスが近づいてくるのが見えた。


(終)

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