見出し画像

【S2|生命とデザイン】デザインは、地球の意思を聴くことから始まる #1

第1章 血の記憶 ─ 父から受け継いだ感性

5歳の私に残されたのは、父の手の記憶だった。

私の父は、私が5歳のときに病で亡くなった。直接交わした会話や一緒に過ごした記憶はほとんどない。それでも、私の感性や創作の根幹には、父から受け継いだ“血の記憶”が確かに息づいていると感じている。

父は生前、手仕事が得意で、絵を描くことも好きだった。なかでも忘れられないのは、父が描いた一枚のシクラメンの絵だ。小さなキャンバスいっぱいに咲く花々は、寒い季節にも凛としていて、命の強さと儚さを同時にたたえていた。私はその絵を見て、子ども心に「これは命の象徴だ」と感じた。父の死後も、その絵はずっと家にあり、私の心に深く刻まれていった。

几帳面な性格も父ゆずりだと母からよく言われた。布団にシーツをかけるとき、四隅をきちんと折り込む──そんな癖は、父も全く同じだったらしい。父の大工道具も、物置の棚に一定の順序で美しく並べられていた。母がそれを片付けなかったのは、あまりに整然としていて手を加えることがためらわれたからだろう。私はその秩序の美しさに尊敬の念を抱き、自分が手に取って使うときも、必ず同じ順序に戻すようにしていた。

母からは「母子家庭だからこそ、後ろ指を刺されるようなことはしてはならない」「人様に迷惑をかけてはならない」と、何かにつけて言われて育った。私の中の善悪の基準が厳しいのは、この教えの影響だと思う。

物心ついたころから、将来自分は手を動かす仕事に就くと自然に思っていた。それは、父の果たせなかった夢を叶えたいというよりも、自分にその素養が備わっているという自覚があったからだ。高校受験のとき、母にこう告げたことを覚えている。「学区で一番の公立高校に行って親の体面は保つ。だから大学は美術系に行かせてほしい」。母は「お父さんの叶わなかったことをしてくれてうれしい」と言ってくれた。この会話は、私がデザインの道へ進む決意を固めた瞬間だった。

出会いは縁であり、必然だと信じている。価値観の合う友人はたいてい同い年で、直感的に「この人とはつながっている」と感じることがある。それは前世や宗教の話ではなく、もっと自然な“血のネットワーク”の感覚だ。いまの妻とも、血はつながっていないが、価値観は驚くほど一致している。迷ったときには即答で助言をくれ、私を拡張してくれる存在だ。

血液は栄養や情報を全身に巡らせる。地球をひとつの生命体とみなすなら、血は海であり、雨であり、太陽光でもある。そのネットワークは物理的な血縁を越え、意思や感性の伝達も担っているのではないか。そう考えると、私のデザイン活動もまた、その大きな循環の一部に位置しているように思える。

私にとってデザインとは、“誰かの心と響き合う”行為だ。それは血のネットワークに新しい波紋を広げるようなものだ。だからこそ、私が生み出すデザインは、ただ形を整えるだけでなく、触れた人の価値観や感情を揺さぶる存在でありたいと願っている。


次回予告
第2章では、私の創作や判断の基盤となっている「腸」の感覚と、その不思議な直感について語る。生命がどのように“腹”から始まったと感じているのか──その原点を探る。 第2章を読む ▶

連載一覧(マガジン)はこちら

D4G Worksについて
私が運営する「D4G Works」では、デザインを通じて社会や生命の営みをより良くする実践を進めています。
詳しくはこちら → D4G Works公式サイト


いいなと思ったら応援しよう!