ショートエッセイ:姉弟
なにげなくテレビを観ていて、ふと思った。
「最近、姉と話してないな」
そうだ。
私には姉がいる。
四つ上。
いまは遠くの町で暮らしている。
仲が悪かった、というほどでもない。
ただ、近すぎた。
母が仕事から帰るまで、
私たちはよく二人きりだった。
姉はよく怒った。
私は言葉で応戦した。
イチャモン VS ヘリクツ。
ある日、
私のヘリクツに逆上した姉は、
こたつの上の皿を、
私の後頭部に思い切り投げつけた。
1メートルもない距離だった。
その瞬間、帰宅した母が叫んだ。
「おまえは、弟を殺す気か!」
姉は泣き、
私は泣かなかった。
あのとき、
なぜか少しだけ、誇らしかった。
いま思えば、
あれは勝ち負けの話ではない。
感情を出さないことが、
私なりの防御だっただけだ。
泣かなければ負けじゃない。
理屈で返せば立場は守れる。
そうやって私は、
言葉を武器にしてきた。
歳を重ねるにつれ、
そのヘリクツは形を変えた。
構造で語る。
感情を整理する。
少し距離を置いて考える。
いまこうしてデザインを語り、
noteを書いているのも、
どこかあの延長線上にある気がする。
スピードスケートを観ていた。
引退した姉が、妹に向かって言う。
「金メダルを取ってほしいと、心の底から思う」
きれいごとには聞こえなかった。
時間が、関係の角を丸くした声だった。
私と姉も、
いまはそんな感じだ。
皿のことを笑い話にできるくらいには、
ちゃんと歳をとった。
「たまには電話してみるか」
きっと、
ヘリクツなしで話せる。
たぶん、
向こうも。
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