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短編|芥川龍之介「蜘蛛の糸」その後~また蜘蛛が見ていた話

古典文学の名作、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」。その続きの物語として前回、「蜘蛛が見ていた話」を書きましたけれども、今回はさらにそこから続くお話でございます。

「御釈迦様、あの、御釈迦様…」

蓮の池の葉の上から、蜘蛛の震えるような、か細い声が聞こえてまいりました。御釈迦様は蜘蛛に目をやりました。

「蜘蛛よ。どうしましたか」

「御釈迦様…ハッとされましたか?」

「なにを言うのです?」

「私もなぜ自分がここにいるのかわからないのです。でも、最後に御釈迦様のおみ足の裏を見たように思うのです。御釈迦様、なにがあったのでございましょうか?」

「ここは、いつもと同じですよ。なにもありません」

「そうですよね。でも、私はおぼろげな記憶を辿ってみたいのです。もし、許されるのなら、おみ足の裏をみせていただけませんでしょうか。なにか思い出せそうな気がいたします」

蜘蛛はそう言って、蓮と蓮の間を渡りながら、するすると御釈迦様のおみ足のもとにまいりました。

「御釈迦様、お願いします。おみ足を」

「よいでしょう」

御釈迦様は、そっと、おみ足をお上げになりました。

「あのぅ、反対側のおみ足だったような気がいたします」

御釈迦様はやさしく、反対側のおみ足をお上げになると、そのまま蜘蛛の上へとおろしかけました。しかし、気が変わられたのか、そのおみ足で、蜘蛛をぽんと蹴られました。

蜘蛛は、蓮の池の方へと勢いよく飛んでいき、葉と葉の間を抜けて、ぽちゃんと池に落ちました。蜘蛛は独楽のようにくるくる回りながら、蓮の池の底に続く地獄に真っ逆さまに沈んでいきました。

御釈迦様は、極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて蜘蛛が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになりはじめました。

しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着いたしません。

その玉のような白い花は、御釈迦様のおみ足のまわりに、ゆらゆらと花びらを動かして、そのまん中にある金色のしべからは、何ともいえないよい匂が、絶え間なくあたりへあふれております。

御釈迦様が御歩きになられますと、目の前に、するすると蜘蛛の糸が下りてきました。

御釈迦様が空を見上げますと、糸は雲の合間から続いております。そして、その長い糸をつたって、蜘蛛が降りてくるのが見えたのでございます。蜘蛛は御釈迦様の目の高さで止まりますと、糸につかまったまま静かに揺れております。御釈迦様の耳にあの声が聞こえました。

「御釈迦様。不思議なことがあったのでございます。私は気がつくと血の池地獄に落ちておりました。そこではたくさんの囚人たちが苦しんでおりました。でも、ずっと底まで沈んでいくと、光がみえたのでございます」

「…」

「その光をのぞきますと、不思議なことに、極楽の蓮の池を空から眺めているようにみることができたのでございます。囚人たちにはそれがみえないようでした。地獄に来るべきではないものだけがみることができるのかもしれません。私は糸を垂らして、こうして極楽に戻ってくることができたのでございます」

「…」

「でも御釈迦様、わたしはなぜ地獄に落ちてしまったのか、どうしても思い出すことができないのでございます。おぼろげに、御釈迦様のおみ足のつま先をみたような気がいたします。ねぇ、御釈迦様…」

御釈迦様は、なにも答えることなく、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになりはじめました。

「ねぇ、御釈迦様…」

御釈迦様のあとを蜘蛛がついてまいります。

しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着いたしません。

その玉のような白い花は、御釈迦様のおみ足のまわりに、ゆらゆらと花びらを動かして、そのまん中にある金色のしべからは、何ともいえないよい匂が、絶え間なくあたりへあふれております。極楽の昼は過ぎておりました。

「ねぇ、御釈迦様…お釈迦様...」

御釈迦様のあとを、いつまでもいつまでも蜘蛛がついてまいります。

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ケイメイ 最後までお読みいただきありがとうございました。チップしちゃおうかなと思ったら、迷わなくていいんです。私がそっと背中を押しますからね!