短歌連作・小説『キャンディと鉄格子』

もう何も考えたくない。籠の中で飼われたい。飼い主の死なんて見たくないから飼い主の責任でわたしが先に死にたい。君はわたしを攫ってくれて、甘い願いを叶え、悪い所へ一緒に堕ちた。
けれど、ヘマをしたわたしたちは捕まった。
鉄、Feの原子番号は26だ。わたしは今、囚人番号26番である。只でさえ鉄は血の味がするのに、拷問器具は鉄でできている。血の味は嫌いだ、不味くて痛い。口内に拡がる二重の苦。
勒(ろく)される。
二重に勒される。
舌はこれは鉄だという。脳は血が出ていると叫んでいる。
しばらくしてわたしは「被害者」となり、精神病棟に収容された。
格子状の側溝蓋、グレーチングの中には毒虫や鼠が住む。格子もグレーだが、彼らの色覚なら空もグレーだろう。
カフカの「変身」を想う。主人公のグレーゴル・ザムザは、朝目覚めるとベッドの中で毒虫になっていた。毒虫は精神病の比喩という説がある。
格子窓から見える空は今日もグレーだ。
娑婆だ。
君はどこかにいるのだろうか。
十字路の中心部には交差点。交差点は侵入許可を要す神域だ。間違えれば死と衝突する。
信号は今日も赤いまま、黒いアスファルトを染め上げている。停止線の「外」ただ止まり続ける。君との思い出に踏み込む許可は未だ下りない。
十字架ではわたしの神が磔にされて死んでいる。
<了>
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