上場後「勝負の3年」を経たnoteの現在地と、日本のグロース企業の成長に向けて。
今、日本のグロース企業は大きな転換点にあります。成長企業向けの上場市場である東証グロース市場は「高い成長可能性を持つ新興企業向けの株式市場」をコンセプトに掲げながら、実際には上場後に成長が止まってしまう企業の多さが問題視され、上場維持基準の厳格化(上場後5年で時価総額100億円以上など)といった抜本的な改革が進められています。
2022年末、私たちが上場した際、世間の評価は必ずしも追い風ばかりではありませんでした。アメリカの金利上昇を受けた世界的な株式市場の逆風の影響もあり、公募時価総額は50億円と、定義的にはまさにグロース市場改革において課題視される「スモール上場」でした。市場からも「上場がゴールではないか」という冷ややかな視線も向けられました。
実際には、IPO時の私のnoteにも記載したとおり上場ゴールとは真逆で、大きなミッションに向けて動いており、「上場がゴールでないからこそ、上場というマイルストーンは早く通過して、その先のミッション実現へ向かった方がよい」との考え方で上場しています。
しかし、そうは言っても実績でそれを証明できないと意味がない。
ちょうどnoteは昨日、上場後3度目の通期決算を発表しました。
noteが上場後の3年間、「スモール上場」という入り口から、どれだけの歩みをしてきたか。この記事では、上場後の答え合わせというわけではありませんが、CFOの視点で、noteの軌跡を定量・定性面から振り返ってみたいと思います。
「上場後の成長の谷」という残酷なデータ
その前に、日本のスタートアップが直面している「現実」を直視する必要があります。
少し前の調査ですが、一橋大学の鈴木健嗣教授とグロース・キャピタルによる共同研究レポート(2021年)には、厳しい現実を示す数字が並んでいます。
売上の停滞: 全体の1/4以上の企業が、上場後3年間のCAGR(年平均成長率)で売上成長が見られない。
利益の低迷: 営業利益の成長率は、上場から3年間で中央値が-0.6%と、約半数の企業はマイナス成長に陥っている。平均でも2.3%の低成長。
伸びない時価総額: 約半数の企業において、上場後3年間で時価総額がほぼ成長していない。


東証のフォローアップ会議において「スモール上場」が問題視されたのは、こうした「上場した瞬間に成長が止まってしまう」事例があまりに多かったからでしょう。機関投資家の投資対象にならない規模のまま停滞し、流動性も失われていく。これがグロース市場と、そこに上場しているグロース企業が直面している課題です。
noteの3年間の軌跡(定量面)
では、noteのこの3年間はどうだったか。具体的な推移は以下です。

noteの上場後3年間の足取りを先述の「市場平均」と比較すると、まったく異なる景色が見えてきます。
noteの上場後3年間の成績:
売上の年平均成長率(CAGR):21.4%(直近1年は25.0%)
営業利益の年平均成長率(CAGR):赤字上場だったため3年成長率は出せませんが、絶対額として-732百万円→256百万円と約10億円増加。黒字化した2年目→3年目の営業利益成長率(単年)は+384.7%(1年で5倍弱)
時価総額:IPO時から公募価格ベースで7.1倍(49.7億円→354億円)、初値ベースで4.6倍(76.2億→354億円)
※ 時価総額は3年目のFY25通期決算発表日前日の終値ベース。(追記) 決算発表翌日の株価はここからさらに上がりストップ高、また、決算発表から1週間後の1月20日終値ベースの時価総額は504億円と、公募時価総額から10倍となりました。
売上成長率は、上記の一橋大学/グロースキャピタルの研究でいうと75パーセンタイルの3年間CAGRが22.1%とのことなので、ちょうど上位1/4あたりにいるかと思います。上位10%でないのは悔しいですが、noteはM&Aなしのオーガニック成長のみでこの成長率を実現していますので、低い成長率ではないと思います(M&Aについては選択肢から排除していたわけではなく検討したこともありますので、M&Aしていないというのは当社の実行力不足という評価もできます。ですので、M&Aしていないから偉いということではありません)。
利益に関しては赤字上場であったため成長率を出せないのですが、上記の研究では半数の企業がマイナス成長、平均でも2.3%成長という数字に照らすと、大きく伸ばすことができたと考えています。
そして時価総額については、公募価格ベースで7.1倍、初値ベースでも4.6倍となり、IPO付近で買っていただいた投資家の皆様にもしっかりとリターンをお返しできているかと思います。

noteの3年間の軌跡(定性面)
定性面でも、3年間の各年で収益性の改善、新規事業・子会社の設立、大型提携とそれぞれテーマを持って取り組んできました。
いろいろなことがありましたがすべては書ききれないので、主要なコーポレートアクションとIRの活動に限定して振り返ります。
※ noteの上場が2022年12月、noteの事業年度が12月-11月となっています。
上場1年目(FY23 / 2022年12月-2023年11月)
赤字を縮小するために、厳格なコストコントロールの実施(ただし、成長を犠牲にしないように、必要な成長投資は実施)
AI関連開発・事業に関する子会社「note AI creative」を設立
個人投資家向けにIRnoteマガジン、IR noteなどの発信を開始。
上場2年目(FY24 / 2023年12月-2024年11月)
引き続き赤字を縮小し、上場2年目で通期黒字化を実現
IPに関する新規事業を担う会社「Tales & Co.」の開始
徹底的な個人投資家向けIR(SNS、勉強会への登壇)
上場3年目(FY25 / 2024年12月-2025年11月):
Google(アメリカ)との資本業務提携
NAVER(韓国)との資本業務提携
新規の機関投資家への能動的アプローチ(これはまだ途上)
上場1年目はnoteがきちんと利益が出る会社だということを示すために、収益性の改善を意識した1年でした。赤字での上場でしたが元々赤字上場の予定で、人件費・開発費の先行投資をしていた経緯がありました。サービスの構造的に赤字なわけではなくしっかりと投資範囲を見直せば黒字を出せる自信はありましたが、新規上場でトラックレコードがないため、投資家の疑問は尤もだと思います。
収益性の改善は上場1年目・2年目の大きなテーマではありましたが、乾いた雑巾を絞るような無理やりなコスト削減はせず、トップライン成長との両立を旗印に掲げていました。上場2年目も期初の時点で頑張れば通期黒字に持っていけると思いましたが、無理やり黒字にするのではなく一定の投資も必要と考えたため、当初は赤字予想で出しています。結果的にトップライン成長がしっかりと実現しコストも想定ほど増加しなかったため、期中に通期黒字化へと上方修正することになりました。今思えば期初の見込みが保守的すぎたと反省しています。
上場1年目・2年目には、収益性の改善と並行して、将来に向けた種まきもしています。1年目に設立したAI子会社「note AI creative」でAI開発にR&D投資や知見を溜めていたことが、3年目のGoogleやNAVERといった海外ビッグテックとの資本業務提携にも繋がっています。
また、2025年12月に経済産業省・NEDOの生成AI国家プロジェクト「GENIAC」に採択されましたが、AIトレンドの初期からこの分野に張って活動していたことが、実績を認めていただき結果につながったと感じています。
2年目に立ち上げたIP事業の「Tales」は、3年目の最後に世界的な「Webtoon」(縦読み漫画)のプラットフォームを展開する韓国NAVERとの提携が実現し、これからの本格的な成長が楽しみな分野です。
上場のタイミング
「業績がしっかりと伸びているのは良いことだけど、3年前の業績が悪い時に上場するのではなく、今上場したら良かったんじゃない?」と思われるかもしれません。ここで最初に引用した3年前のIPO時のnoteに再び戻るのですが、答えは、「上場がゴールでないからこそ、上場というマイルストーンは早く通過して、その先のミッション実現へ向かった方がよい」というものです。
前述した上場3年間のコーポレートアクションは、理論的には非上場でも実現し得るものです。ただし、非上場ということはこの3年間また上場準備に時間を費やす必要があったわけで、上場準備を経験したCFOはその大変さに共感いただけると思いますが、その時間を本質的なサービスの向上や事業の成長に向けることができたのは大きなメリットです。
また、大規模な投資も一般的に上場企業より非上場企業の方がやりやすいと言われますが、上場が近くなってくるとM&A含む大規模な投資はむしろやりづらくなります。上場審査で毎月の予実管理がシビアに求められるため、上場直前期対比で言うと上場している状態の方が積極的なコーポレートアクションを打ちやすいと、自らの経験に照らして思います。実際に、当社が上場1年目にAI関連のトレンドにいち早く乗れたのは、すでに上場していて上場準備から解放されていたというのが大きいです。
また、仮に2022年末の上場から2年上場を延期して2024年末上場へと切り替えたと仮定します。その場合に上場申請期となる2024年(実際の上場2年目)は黒字にする必要があるため、年度の開始から慎重にブレーキを踏みながら事業運営せざるを得ず、その際の投資の実行の遅れが翌年の2025年で実現した大きな成長にもネガティブに響いていたことでしょう。
上場企業としてのメリットを武器に
業績面でも、上場企業としての投資家からのプレッシャー、健全な緊張感を上手く社内・社外に活用して、トップライン成長・収益性改善へのモメンタムに繋げることができました。
海外企業との提携にしてもメリットがありました。もちろん未上場でも海外の事業会社から日本のスタートアップが出資を受けた事例はいくつもありますが、noteにおいて海外ビッグテックから短期間で連続的に出資を受けることができたのは上場企業というステータスが貢献しました。
VCやファンドと異なり、投資が本業でない海外の事業会社が他国の非上場の会社からアプローチを受けた際に、情報の非対称性からどうしても一定の警戒感とそれを考慮した価値のディスカウントが発生すると思います(VCやファンドも同様ですが彼らはそれが本業なので)。未上場スタートアップの場合はその情報ギャップを利用して自分を大きく見せて「プレミアム」に変えるという戦略もあり得ますが、noteはそのようなステージではありません。情報の非対称性のリスクを小さくしようとすると、多大な時間とコストをかけて詳細なDDを行い、彼らの不安感を払拭する必要があります。
翻ってnoteは透明性が非常に高い日本市場における上場企業でしたので、主要な財務数値やKPIは開示されており、財務諸表の信頼性も高いものです。1年で2度の資本業務提携を実現できたスピードは、DDのプロセス含め上場企業であることの説明コストの低さと信頼感がプラスに寄与したと考えています。
noteの上場3年間のコーポレートアクションは非上場でも理論的には可能なものが多いかもしれませんが、上場企業だからこそ、このスピード感を持って実現でき、また企業価値の連続的な向上につなげることができました。
IRについて
IRも会社として力を入れた分野です。上場してすぐにIRnoteマガジンという上場企業のIR発信の枠組みが立ち上がり、今では134社の会社がnoteでIR発信をしています(2025年末時点)。当然note社もnoteでIR発信をしています。
上場してすぐは時価総額が100億円以下だったこともあり、個人投資家向けのIRをとにかく積極的にやっていこうと考えました。前述のIR noteはもちろん、Xでの個人や会社の発信もかなりアクティブに実施したり、日本の各地で行われる投資勉強会(湘南投資勉強会、神戸投資勉強会、Kabu Berryなど)にもIRセミナーで登壇させていただきました。Xでの発信に関しては、日本の上場企業のCFOの中でもかなりやってきた方だと思います。
IRに関しては、企業の業績が悪く時価総額が低いと機関投資家のスコープに入らないので、発信しても意味がないという意見もあります。そもそもの業績を上げるのは上場企業として大前提として、業績を着実に上げても出来高や株価が伴わないのが昨今のグロース市場の厳しいところだと思います。
IR芸で実態以上に膨らますのはやめた方が良いと思いますが、「やっても意味ないからやらない」「うちなんてスモールキャップだし知名度も低いから」みたいな感じでやらない理由を探していると、いつまでも負のスパイラルから抜け出すことができません。
「チャンスは準備された心に降り立つ」という言葉がありますが、時価総額100億円未満でも個人投資家向け、あるいは機関投資家に向けてでも、やれることはあります。将来業績が跳ねた時や、大型の提携によってアテンションが集まった時に備えて、しっかりと種をまいておくことは非常に重要です。何かのイベントが発生した際にゼロから認知獲得やリレーションを築くのは、その後のアクションのスピードに影響がでます。
個人も企業も、発信の重要性がどんどん増しているこの時代。SNSなどでの発信については、イチローのように何かを成し遂げて誰が見てもすごい人は別として、一般人や一般企業で世の中に自分のサービスや考えを届けたい人は活用した方が良いと思います(大谷翔平もInstagramやってますよね)。特にnoteやXなどは無料でできるわけで、法人としてやらない手はないでしょう(法人向けのnote proも年間100万円以下でできますので、効果を考えると安いのでぜひご検討ください)。
上場後3年間の重要性
上場した際に先輩経営者から次のようなことを言われました。
「上場後3年以内が勝負。この期間に、投資家はその会社が更なる成長に向けたコーポレートアクションをしっかり打てる経営陣か否かを見ている。」
去年発表されたSpeeda調査レポートだと、「上場後2年を境に成長軌道が大きく分岐する」との傾向も見られるようです。

より引用。
東証の新基準は「上場5年後に時価総額100億円以上」で、2030年から適用となります。言い換えれば、今時価総額100億円未満の上場企業はもちろん、これから上場する企業はすべて上場してから5年以内に100億円に到達する道筋を描かなくてはなりません。5年以内に結果を出すためには、上場後2〜3年目のコーポレートアクションが重要となります。上場時に頂いた先輩経営者からのメッセージは、当時は100億円の基準はなかったものの、本質的には上場企業としての持続的な成長に向けた非常に的を射たアドバイスだったと思います。
この期間に主要なコーポレートアクションをして成長への道筋を示せないと、上場していてもリビングデッドの状態。これまでだったら最悪それでも上場維持できていたが、グロース市場改革により時価総額100億円の壁ができる。上場維持基準が緩いスタンダード市場に移行するという救済ルートもあるものの、そのような形で市場変更しても出来高や時価総額が改善するわけではないため、上場市場のメリットを行かせていないという点で問題の根本解決にはなっていない。
東証のグロース市場について、たとえスモール上場であっても前述したような「上場企業としてのメリット」を活かして成長できる市場が用意されていることは、日本人・日本企業としてありがたいことだと思います。企業として重要なのは、この恵まれた環境を、しっかりと成長へのエンジンへと変えること。
noteはグロース市場に上場して3年が経ちました。昨日発表した4年目の事業計画は、さらなる飛躍を掲げています。

上場マーケットにおける「勝負の3年」を終え、4年目、5年目、さらにその先へ。成長を続けていきます。そして、日本における「上場後の持続的な成長企業」のロールモデルとして、また、情報発信・流通のプラットフォームとして、日本のグロース市場とグロース企業を盛り上げていきたいと思います。
私たちはこれからも挑戦していきます。

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