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かすみを食べて生きる 35 :不幸自慢は犬も食わない

脳梗塞 発症1か月と2日目:リハビリ病院12日目

・食事:脳梗塞(ワレンベルグ症候群)の後遺症のため、嚥下ができなくなり絶飲食。食事は鼻からの経管栄養。
・状態:歩行訓練中。日中、フリー歩行自立。終日、車いす・歩行器自立。
・嚥下:嚥下訓練中。首を左に向ければ1~2mlの水を飲み込める。

食事訓練をかけた嚥下造影検査まで、あと9日。
犬も歩けば棒にあたる。

『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症1カ月と1日目:リハビリ病院1か月目⑪
 
発症1カ月と3日目:リハビリ病院1か別目⑬>


不幸自慢

リハビリ病院には、けがや病気で足腰を悪くして入院されている高齢者の方がたくさんいる。
昨日、日中病棟内の歩行器なしの歩行が解禁された私。
しびれのある右足、運動失調のある左足で慎重に歩いているが、足の機能自体に問題はないので、知らない人が見るとすたすた歩いているように見える。
そうすると足のリハビリをしている方から聞かれるようになった。
「あなたはどうして入院をしているの?」
脳梗塞をやって、嚥下障害により食べれなくなったことをお伝えする。
「でもあなたは歩けているし、食べれるようになるんでしょ。私なんか一生装具をつけないと歩けないのよ」
お、おぉ…。これは…もしや不幸マウント…。
いや…こちらもそれなりに大変なのだが…。
少し疲れていた私は勢いで答えてしまった。
「私も飲み込みができなくなって、もう1か月何も食べてないんです。(鼻のチューブを指して)あ、このチューブから栄養は入れてもらうんですけどね。もう、おなかすいちゃいました!大変ですよねー。ではお先に失礼しまーす!」

失敗した。
しんどいマウントにしんどいマウントをかぶせてしまった。
歯みがき途中に声をかけられてちょっと面倒になってしまった。

私の大好きな漫画に、喧嘩をした弟子たちに棟梁が「不幸自慢禁止」と説教をする場面がある。

キリがねえんだよ
そこ張り合い始めたら
全員で不幸めざしてヨーイドンだ
そんなんどこにイミがある⁉

羽海野チカ「はちみつとクローバー」第7巻より

そうですね棟梁!不幸自慢、無意味の極みですね!実感しました!
足が痛いときに目の前をすたすた歩かれたら言いたくなることもあるだろう。
こちらも目の前でむしゃむしゃご飯を食べられるのは本気でしんどい。
お互い様。
「お互い大変ですね。がんばりましょうね!」
をテンプレートの返事として、受け流す方針を決めた。
自主練で病棟内を歩く練習をする時は、なるべく廊下で他の患者さんがリハビリをしていない時間にしよう。

おかあさんといっしょ

NHKのEテレに「おかあさんといっしょ」という幼児番組がある。
60年以上続く言わずと知れた超長寿番組。
この日、子どもが赤ちゃんの頃から出演していたお兄さん・お姉さんのうちのお一人が卒業する日だった。
見たい。最後の雄姿を見届けなければ。
たとえ今、子どもがそばにいなくても。
この番組、そしてお兄さん・お姉さんには、子どもがイヤイヤ期の2歳のころからどれだけ助けられたことか。
お兄さん・お姉さんはもはや戦友のようなもの。

そして私は朝からベッド周りのカーテンを閉め切り、めったにつけないテレビをつけた。
イヤホンから今日もたくさんの歌が流れる。
子どもと歌ったたくさんの歌の中にあなたがいます。
ありがとう、ありがとう。
感謝とさみしさで胸がいっぱい。
涙目でテレビを見ながら、自主リハビリをした。

来年は一緒に見たい

病室からリハビリ室に行くとき、理学療法士の田中さん(仮)が「ちょっと寄り道をしましょう」と言った。
この日は土曜で外来がお休み。
外来のロビーに行ってブラインドを少し開けてくれた。
窓の外には満開の桜。
きれい!
その木は公園にあって、昨年はその下で子どもとお花見をした桜だった。
ありがとう田中さん(仮)。
今年は間に合わなかったけど、来年はまたお花見ができるように頑張る。

ガリガリチャレンジ#3

今日もきました。
絶飲食の私が氷菓子を口に入れて味わいそっと口から出して(貴族食べ)、ガリガリ君の当たりを狙うコーナー。

がりがりさん3本目

いざ!

はずれ:その3

うーん。残念。


ーー振り返って

その時は気づかなかったのですが記録を見ると、歩行器なしがOKになってすぐの頃に「なんで入院をしているの?」といろんな人に聞かれるようになっていました。
説明をすると「食べれないのは大変だね」と言う方や、「歩けるからいいじゃない」という方など、反応は様々でした。
そこからご自身がどれだけ大変かを語りだす方もおられるので、早い段階で「お互い大変ですね。がんばりましょうね!」を差し込むことが重要でした。
足腰が痛むのは本当につらい。
退院後何度か足腰を痛めているので今ならそれもよくわかります。
つらい胸の内を誰でもいいから聞いてほしいと言われるなら、タイミングが合えば話を聞きます。
でも不幸自慢は犬も食わないと思います。

病院のカーテンの中で、子どもがそばにいないのに幼児番組を見て涙ぐむ光景は、当時の私自身もシュールだなと自覚していました。
でもこの話は比較的最近幼児の子育てをした人にしか共感を得られないので、入院中は誰にも話せなかった事の一つでした。

病棟内は季節感がなくいつも同じ風景なので、桜が見えたのはうれしかったです。
理学療法士の田中さん(仮)は仕事に真摯なかっこいい女性なのですが、桜の見せ方がスマート過ぎて惚れました。

ガリガリ君ってなかなか当たらないんですね。

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