かすみを食べて生きる62:楠木さん(仮)は生きていた
脳梗塞 発症1か月と29日目:リハビリ病院2か月目⑨
・食事:脳梗塞(ワレンベルグ症候群)の後遺症のため、嚥下ができなくなり訓練中。食事はミキサー食(朝・昼食)と鼻からの経管栄養。首を左に向けると飲める。食事以外の時間は一口にスプーン半分の量の水分であれば飲んでもよい。
・状態:歩けるようになってきた。終日、館内フリー歩行自立。きょろきょろすると少しめまいがする。
朝、病棟の廊下を歩いていたら、車いすの小柄なご婦人とすれ違った。
どこかで見たことがある。
『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症1か月と28日目:リハビリ病院2か月目⑧
発症1か月と30日目:リハビリ病院2か月目⑩>
朝ごはん#5
今日も朝6時から経鼻の栄養をいただいた後は、朝ごはん!
今日もミキサー食。

今にも雨が降りそうな曇り空。
朝のおかずは見た目で分かりにくいことが多い。
献立はこちら。
卵とキャベツのスープ煮
マンゴーペースト
ソフール
おかゆ
なるほど具だくさんスープかな。
お味は洋風。食べやすい。
ソフールは普通においしいし、マンゴーinおかゆも安定して食べれるようになってきた。
所要時間は1時間。
いい調子。
楠木さん(仮)は生きていた
朝食を終えて病室に帰る時、車いすの小柄なご婦人とすれ違った。
すれ違って、しばらく考える。
あれ?あの方どこかでお会いした気がする。
どこだろう。
…あっ!!!楠木さん(仮)だ!!!
およそ1か月前、私のベッドの向かいだった楠木さん(仮)。
夜、窓を閉めずに寝て、翌日肺炎になって急性期の病院に転院となっていた。
その後安否を確認するすべもなくうっすらと心配していたけど、戻ってこれたんだ!
よかった!!
楠木さん(仮)は隣の病室に入られてようで、その後よく間違えてこちらの病室に入ってきては、自分のベッドの場所に他の人がいて困っていた。
「楠木さん(仮)!お部屋はおとなりですよ!」
そう声をかけると「ありがとうありがとう」といって、隣に戻っていった。
よかった。ご無事で何より。
お昼ごはん#18
さてさて今日もお昼はミキサー食。
昨日は強敵ピカタと出会って大変だったけどおいしかった。
今日は何かな。

窓の外は結構な雨が降っているので、おかゆも雨模様。
献立はこちら。
茶碗蒸し
南瓜と高野の煮付け
おかゆ
多分手前のおかずが南瓜と高野の煮付け。
奥の緑は茶碗蒸しだと思われるけど、なんで緑?
茶碗蒸しは食べてみると確かに茶碗蒸しの味。
緑は中に入ってたほうれん草か何かの葉物の色かな。
お出しの味で食べやすい。
南瓜と高野はもさもさしそうかなと思ったけど、わりと飲みこめた。
南瓜は何度か出ているから、自分が飲みこめるようになっているのを確認できた。
所要時間は57分!1時間切った!
そして朝ごはんも安定して食べれるようになってきたので、3日後から夕食も食べてみようということになった。
庭のシャベルが一日濡れて
「虹が出てますよ!」
と、通りがかった患者さんが教えてくれた。

強い雨が降った後のまだ雲の残る空に、くっきりと虹が出ていた。
急いで病室戻って向かいのベッドの門田さん(仮)に伝える。
「虹が出てますよ!」
廊下まで出るのは大変だから私はいいわ、と門田さん(仮)。
もう一度戻って見に行くと晴れてきて雲が引いてきたので虹は少し薄くなっている。
病棟の廊下の大きな窓に患者さんが集まる。
しばらく眺めていると門田さん(仮)もやってきた。
よかった、まだ虹は見えてる。
「大きな虹ですねー」
とみんなで眺めた。
少しづつ虹が消えて患者さんも少しずつ病室へ帰っていく。
「見れてよかったわ」と門田さん(仮)。
門田さん(仮)の歩行器のスピードに合わせて二人でのんびり病室に帰った。
門田さん(仮)と折り紙
門田さん(仮)は以前、転倒の恐れがあるのでトイレに行く際は看護師を呼ぶように言われていたいたが、呼ばずにトイレに行き途中転倒して、スタッフの皆さんにひどく叱られるということがあった。
門田さん(仮)が立て続けに怒られるのをカーテン越しに聞いて、私はひどく憤慨をしたものだった。
その後すぐ、一人でトイレに行くことが解禁されその騒動は落ち着いた。
その頃の門田さんはよくベッドで一人でむしゃむしゃとお菓子を食べていた。
どう見てもストレスからくる暴食だった。
しかし、最近の門田さんはとても落ち着いている。
前のようなお菓子をむさぼる音も聞こえない。
代わりにカサカサ…と紙を折る音がずっと聞こえている。
門田さん(仮)に聞くと作業療法で折り紙を始めたとのことだった。
「リハビリ室にある折り紙のお花を作りたいって言ったのよ」
と門田さん(仮)は少し得意げに話す。
「でもあの子(セラピストさん)は作り方を知らないっていうの。聞いておきますだって」
「それから聞いてきてくれたみたいで、今折り方を教わっているの」
そして今日門田さん(仮)は私に折り紙のお花を二つくれた。
私は床頭台の上に飾った。
「色が素敵ですね!今度折り方を教えてくださいね」
折り紙を教えてもらう約束をした。

ーー振り返って
久しぶりに楠木さん(仮)にお会いして、ほんとにホッとしました。
無事でよかった。ほんとに。
緑の茶わん蒸しはちょっと驚きでした。
茶碗蒸しはあの黄色の見た目の中にいろいろな具が入っているから面白いはず。
例えば具材と卵液部分を分けてミキサーにかけて、先に具材を入れて上から卵液ミキサーをかけるとかできると、茶碗蒸し感を再現できたりしないでしょうか。
などと考えたものの、どう考えても手間なので管理栄養士の竹中さん(仮)に伝えるのをやめました。
ここに書いて供養しておきます。
変化の少ない病棟内で、虹はちょっとしたショーでした。
写真を夫に送ったら、家からも同じ虹が見えていたそうで、虹の反対側から撮った写真が送られてきました。
門田さん(仮)、作業療法で折り紙を始めたころから、目に見えて落ち着いていきました。
恐らくもともと手を動かすことが好きな方だったのだと思います。
あの騒動後門田さん(仮)からの要望をきいて、すぐに折り紙を作業療法に取り入れていた、門田さん(仮)の担当セラピストは長野さん(仮)。
長野さん(仮)は私が昼食中に他の患者さんが嘔吐する音を聞いて飲み込みができなくなりかけていた時に声をかけてくれた作業療法士さん。
そして門田さん(仮)の話では長野さん(仮)には折り紙の心得はなかったそうで、他の方に聞いて教わって折り紙を始めたとのこと。
実際にリハビリ室で門田さん(仮)と長野さん(仮)が二人並んで少し難しい顔をして折り紙を折っている姿を何度か見かけました。
作業療法は身体機能の回復だけでなく心の回復もサポートするというのを目の当たりにしました。
門田さん(仮)は「あの子(セラピストさん)は家で家族に聞いて折り紙の練習をしてきてくれたのよ」と長野さん(仮)が折った見本というチラシで作った折り紙を見せてくれました。
そしてその話を何度も嬉しそうにしてくれました。
リハビリに必要であれば新たな知識や技術を習得して自分も学びつつリハビリに取り入れる。
その姿がまた患者のセラピストへの信頼と心の安定につながっている。
長野さん(仮)すごいなぁ、作業療法士さんの引き出しはこうやって経験を重ねると無限に増えていくのだなぁと感じました。
門田さん(仮)が安定していることで、向かいの私も安心していられました。
