二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第六話 難航する論証(4-5)
ミレーネが向かおうとしているのは、王弟ヘンリーの館のメルシアの部屋だ。
早朝に急いで着た飾り気の無いドレスのままで訪問するのはマナー違反だが、今はそんなことに構ってはいられない。
メルシアを伴ってやってきた王弟夫妻の格好も似たようなものだったから、「嘆きの間」にずっと詰めていたことを察してくれるだろう。
それよりも、二時間ほど前に気絶したカリーナ叔母に付き添って退室したヘンリー叔父が、もう館に戻っているかどうかが気にかかる。主が留守で館に入ることができないのなら、審議を抜け出した意味がない。
ミレーネの予想では、多分夫妻は王宮にはいられず屋敷に戻っているのではないかと思うのだが、王弟と王弟妃にとっては、どこに居ようと心が休まることはないだろう。
もし、メルシアが未来の女王になるために殺人未遂を犯していたのなら、国王に対する反逆罪にもあたり、王弟夫妻も立場上ただでは済まなくなるのだから。
王宮から王弟の館までは馬車で十分ほどかかる。馬車に揺られている間、ミレーネはメルシアがふるまってくれたお菓子の種類を思い起した。
―――昨日のバラのシュガーケーキの前はスミレのシュガーケーキ。その前は何だったかしら。確か粉砂糖をまぶした揚げ菓子だったような気がする。
「わかった! 共通するのはシュガーだわ」
いくら何度か訪れた部屋だといっても、探すものが魔術道具というあやふやなイメージでは、見過ごしてしまう可能性がある。シュガーなら陶器か瓶の入れ物に入っているはず。これで探す手間が格段に減った。
だが、ミレーネの顔には期待も喜びも浮かんではいなかった。
母のお腹の中の赤ちゃんを救いたい一心で、ミレーネは恐怖を抑えて動いているようなものだった。
でも、メルシアが呪術を使ったという証拠を見つけ、やはりミレーネにまで害をなしていたと証明されたとき、ミレーネは自分がどうなってしまうのか怖かった。
あんなに優しくて姉のように慕っていたメルシアから、ずっと憎まれていたと知ったら、多分他の人からの好意も信じられなくなりそうだ。
館に着くと、馬車の音を聞きつけた家令がドアから顔を覗かせ、ヘンリーにミレーネの来訪を伝えに行った。
普段ミレーネは、この家の召使に案内されて客間に向かうのだが、アプローチの階段をヘンリーが下りてくるのが見える。ヘンリーの顔色は悪く、服装は呼び出されたときと同じもので、クラバットは解けて首にだらしなくぶら下がっていた。
「ミレーネ殿下、あの子に何かあったのですか? いや、ここで話すことではないな。さぁ、どうぞ中へ」
ヘンリーがミレーネの表情から少しでも状況を読み取ろうとして、じっと見つめてくるのに、ミレーネは笑顔で返せない。
メルシアがレディーらしく振舞うことで、せっかく取り戻した良好な親子関係も、メルシアの野望を挫きはしなかった。
ヘンリーが娘を信じて心から案じている姿は、まるで昨日までの自分のようだ。ミレーネは顔を背けたくなる衝動をこらえた。
「ヘンリー殿下、メルシアから頼まれて探しものをしにきたのです。メルシアのお部屋に入ってもいいですか?」
「ああ、あの子の無罪を証明してくれるなら、屋敷中を探してくれても構わない」
ミレーネは喉にこみ上げた熱い塊のせいで、礼も言えずにドレスの裾をつまんで頭を下げた。すぐに歩きだしたヘンリーにミレーネが落とした涙は見えただろうか。ミレーネは唇をかんでヘンリーの後に続いた。
メルシアの部屋をあちこち探し回り、ようやく並んだ香水瓶の一つに白い粉が入った瓶を見つけた。
ハンカチの上に三分の一ほど出して観察したが、砂糖とは似ても似つかない。ただ驚くことに、減ったはずの瓶の中身が蓋をした途端に元の高さまで戻った。
「間違いない。やっぱりこれが魔法の道具だわ。呪文がいるのかしら?」
呪うための粉なら、使った本人にも影響が出るのではないか。
だけど、メルシアには何も害が出ていない。今まで黒魔術も感知されなかったのだから、毒薬ではないのかもしれない。
なにか簡単に試せる願いはないだろうかと瓶から移した視線の先には、メルシアの色とりどりのドレスがかかっていた。
ミレーネはブルーのドレスに粉を振りかけ、反対色になれと命じた。
息を殺してじっと待つ。瞬きも忘れていたらしく、目がじんじんと疼いた。
「どうしてドレスの色が変わらないの? メルシアはどうやってこの粉を使っていたのかしら。それとも魔術とは関係ない粉なの?」
メルシアの部屋は隅々まで探したが、怪しいものは何も見つからなかった。
唯一使った粉末の量が元通りになる瓶を除いては。
ミレーネは王宮に戻って、瓶をハリアーに見せることにした。
次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第六話 難航する論証(5-5)|風帆美千琉 (note.com)
