二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第四話 ミレーネ(4-4)
ミレーネは封筒から杖の形の紙を封筒から引っ張り出そうとして、恐る恐る指先で紙に触れた。
途端に指先がビリッと痺れ、ミレーネは悲鳴を上げて封筒をテーブルに放った。
「なにこれ? 指にショックを受けたわ。お母さま、触っちゃだめよ」
「あら、宮廷のお抱え魔術師や他の魔術師が害はないと保証しているのに、ミレーネは私の好意のプレゼントを疑うの?」
拗ねた口調のメルシアが、顎を引いて上目遣いでミレーネを見る。ミレーネは言葉に詰まり、助けを求めて母へと視線を移した。
「これはゆりかごね。メルシアは私に子供が授かるように頼んでくれたの?」
「はい。王妃さま。ミレーネは心優しく繊細な女の子です。絹糸のような銀色の髪も、煌めくエメラルドのような瞳も、王妃殿下譲りでとても美しいと諸侯の殿方から評判で、求婚の打診が相次いでいると母から聞きました。隣国のトリスタナ王国からも招待状が届いているとか」
寝耳に水とは、まさしくこのことを言うのだろう。ミレーネは自分の胸を指で指し、婚約って、私が? とうろたえた。
「王妃さまを前にして、こんなことを話していいものか迷いましたが、ミレーネのために申し上げます。小さなころからミレーネをずっと妹のように思っている私には、ミレーネの純粋さや守ってあげたくなるようなか弱さは、政治に巻き込まれた途端に壊れてしまうのではないかと不安なのです」
「そうね。魔力があれば身を守ることも可能でしょうけれど、ミレーネは普通の少女だわ。親としてはミレーネを大切にしてくださる方に嫁いで、添い遂げてほしい。ミレーネのために、この幸福のお守りを試してみましょう。どうすればいいの?」
ミレーネは、メルシアがわざわざ隣国にいる魔導士に幸運のお守りを作らせたのは、ミレーネがクイーンになったときの苦労を思ってのことだと知り、感謝の気持ちでいっぱいになった。
―――いつも心配をかけてばかりで、何もできないのが心苦しいけれど、今回は願いが叶うお守りがあるのだから、メルシアの幸せを願ってみるのはどうかしら?
突然閃いた思いつきに、ミレーネは気持ちが昂ぶった。
メルシアが喜びそうなことを考えながら、ミレーネはメルシアが願のかけかたを話すのを満面の笑みで聞いた。
「陛下。受け入れてくださってありがとうございます。寝る前に枕の下にこの紙を入れて、男の子を授かりますようにと強く願ってください。きっとうまくいきますわ」
「それだけでいいの?」
「ええ、たったそれだけで、お守りに込められた念術が功を奏すると聞きました。さぁ、成功を祈っておいしいお菓子とお茶をいただきましょう」
メルシアが浮き浮きしながら、侍女に持ってきた焼き菓子をサーブするように言いつけた。
小皿に盛られた小さなケーキの上にバラの砂糖を置いて、木苺を潰した酸味のあるソースをかけると、白い砂糖がソースを吸って、淡いピンクから赤く色づいていく。
その美しい変化にミレーネとフロリアは釘付けになり、感嘆のため息を漏らした。
木苺の酸っぱさを吸ったバラ砂糖を崩すのがもったいないと思いつつ、ミレーネは以前メルシアのお茶会で食べた花シリーズのケーキの美味しさを思い出し、はしたなくも口に溜まった唾液をゴクリと飲み込んだ。
眉をあげておかしそうに見つめるメルシアに、ミレーネは慌ててお礼を言ったが、照れ隠しなのはバレバレだ。
「お守りとケーキをありがとう。いつもながらきれいなお砂糖ね。この間はすみれだったわよね。季節ごとにお花のシュガーケーキを楽しめるなんて、メルシアのおうちのパティシエは最高ね」
「ミレーネが好きな花のシュガーケーキも作れるわよ。今度持ってきてあげるわ」
今日は何度メルシアに感謝する日なのだろう。
ミレーネは舌の上で甘酸っぱくとろけるソースとフワフワケーキのコラボを味わいながら、幸福の笑みを浮かべた。
ミレーネは、メルシアが母と自分に尽くしてくれたおかげで得た幸せを、メルシアにも返せないだろうかと思案した。
いつかは自分の力でメルシアに恩をお返しするとして、あのお守りが本物なら、今夜枕の下に入れてメルシアのために願ってみれば、最短のお礼ができるかもしれない。
ーーーメルシアが幸せになりますように。彼女が頑張った分の良い評価を人々から得て、誰よりも幸せになりますように!
考えながらも強く念じていたミレーネは、今の文言を忘れずに今夜絶対に試そうと思った。
まさかその翌朝に王妃が流産しかけ、メルシアが殺人未遂の嫌疑をかけられることになろうとは、今のミレーネには想像もできなかった。
次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第五話 謎(1-4)|風帆美千琉 (note.com)
