二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第八話 ルキウス王子との出会い(4-5)
―――きっと、青い鳥と猫のことだわ。
この子達の飼い主が護衛の騎士か衛兵に探しにいくように命じたのかもしれない。
レディーが男性と二人になってはいけないと教えられてはいるけれど、王女たちが滞在する棟の庭に、男性が紛れ込んだらまずいのではないかと判断して、ミレーネは迷子たちを届けることにした。
樹木の間のレンガの道を進んでいくと、道から外れた木々の間に明るく光る頭髪と白いシャツが見えた。
低木の間を覗き込む広い背中には、何枚か葉っぱが付着していて、ベージュ色のキュロット(半ズボン)と白いソックスも土で汚れている。鳥と猫を見つけるために、かなり苦労したようだ。
ミレーネは思わず笑ってしまった。
慌てて口元を押さえたが、振り向いた男の目が、鳥と猫を連れたミレーネを捉えて見開かれる。
手に鳥かごを持ったまま立ち上がった男は、4、5歳年上だろうか、かなり背が高く整った顔立ちだ。何よりも目を引いたのは、ミレーネが今まで目にしたことが無いくらい真っ青な瞳で、あまりの美しさに視線が外せなくなる。
立ち去らなければいけないと思いながらも、ミレーネは地に足がくっついてしまったように動けなかった。
「あの、この子たちを探していらっしゃるのよね?」
「あ…ああ。小鳥のララが逃げ出したから、私のプリンセスがご機嫌斜めなんだ。あなたは、ええっと……ああ、しまった! 私としたことが大失敗をしてしまった」
「大丈夫、この庭に入ったことは黙っていてあげるわ。早くあなたのご主人さまのところに、小鳥と猫を届けて差し上げて」
男は一瞬何を言われたのか分からないというように、ポカンとした表情をしたが、すぐに顔を背けてしまった。
口元を手で覆った際に肩が小刻みに揺れたのは、くしゃみを堪えたのかもしれない。きりりとした表情も様になっていたけれど、呆けた表情が一瞬かわいいと思ってしまったのは、大人の男性に対して失礼だろうか。
「あの、鳥かごの扉を開けていただけますか?」
「ああ。小鳥をかごに戻す前に、猫のミックをしっかり抱いていてください。ミックはかわいいものが大好きで、今はララに夢中みたいだ。部屋の中で放鳥しようものなら、大喜びで追い回して大変なんだ」
「まぁ、ミックは猫なのに小鳥が好きなの? 報われない恋ね。でも、ミックを抱っこしている間はララも逃げないから、満更でもないみたい。ゆっくりアプローチするのよ」
ミレーネが俯き加減でミックに話しかけると、ミックが「にゃう」と返事をする。その様子を男が目を細めて見守っていた。
「君は今度の舞踏会に参加する姫君なのかい?」
「ええ、残念ながらそうなの」
「……残念ながらって、どうして? 王子のことで何か悪い噂でも聞いているのかい?」
「いいえ。でも私が到着しても顔も見せてくださらなかったし、歓迎されていないみたい。きっと先に到着したどこかの姫君と心を通わせているのよ」
「ああ……」
男が額に手を当てて、ため息とも、納得の返事ともつかない声を出す。
「先に到着した姫君とは、うまくいかなかったと聞くよ。なんでもその姫は、侍女に唆されて、怪しい述をかけた飲み物を王子に飲ませたらしい」
怪しい述をかけた飲み物?
ミレーネの中に怒りとも嫌悪とも区別のつかない感情が湧いた。
「それで、王子さまは大丈夫だったのですか?」
「それがね、大変だったそうだ。なんでもひよこが最初に見たものを親だと思うように、その述がかかった飲み物を飲むと、最初に見た動くものについていってしまう効果があったんだ」
「ええっ。そんなものを飲んで王女のお部屋で二人きりになれば、王子は責任を取らなくちゃならなくなるわ」
「ああ、ただおしゃべりしていたとしても、最初から王子をはめるつもりなら、王女が何を言うかはわからない。危ないところを救ったのは、実はね……」
ミレーネは思わず身を乗り出した。
男は腕を組みながら、どうしようかと勿体つけている。
「誰にも言わないから、教えてちょうだい」
「でも、きみは王子に対してあまり良い印象をもっていないんだろ? 教えたら、もっと幻滅させてしまうかもしれないじゃないか」
「じゃあ、ララとミックは私のお部屋に連れて帰ります。あなたの王女さまに叱られるといいわ」
プイッと横を向いて、そのままミレーネが元来た道を歩き出すと、慌てて男が追ってきた。
「悪かった。言うよ。実は、その腕の中のマイペースなミックが、のっそり王子の足下にやってきたらしい」
「えっ? ミックを最初に見たの?」
男がお手上げポーズをしたのがブレて見える。ミレーネは大声をあげて笑った。
ルキウス王子がどんな人かはしらないけれど、大国の王子として敬われる方が、ミックを見失わないようについて回る姿が浮かんでしまい、おかしくてしょうがない。
「まさかとは思うけれど、四つん這いになられなかった?」
「さ、さすがに、そこまではしなかったと思うよ。あ~あ、私は王子のイメージを余計にさげてしまったようだ。だから言いたくなかったんだ」
もし、アイリスがこの場を見たら、男性の前で大きな口をあけて大笑いするなんて、レディーのすることではないと叱ったに違いない。
笑いすぎて目じりに滲んだ涙を手で拭いながら、ミレーネはミックに話しかけた。
「あなたが小鳥を追いかけるように、王子さまがあなたを追いかけまわしたのね」
タイミングよく、ミックがうにゃ~んと鳴き、ララが笑うように囀った。
次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
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