二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第八話 ルキウス王子との出会い(1-5)
魔導士ダートがメルシアをさらってから約二年が経ち、ミレーネは十七歳になった。
ダートが報復を予告した通り、黒魔術師たちが商人や旅の一座に扮してイゾラデ王国に入国し、城門を潜ろうとしたが、前回奇襲を食らった魔術師たちがハリアー大魔術師と策を練り、攻撃を未然に防ぐことに成功する。
術師が使う水晶玉を城門や城壁の各所に忍ばせて、浄化魔法の網を張ったのだ。
簡単に説明すれば、「幸運のお守り」の証明書にかけられていた黒魔術や邪念を弾く術を巨大化したもので、黒魔術師が王宮に潜入しようとしてもショックで気絶するか、何とか意識を保って入ったとしても、浄化の炎に身を包まれて逃げ出すしかなかった。
王宮内の王族に手が出せないと知った黒魔術師たちは、王族の領土や国の至る所に出向き、水や植物に毒性を持たせる述をかけた。
罪の無い数多くの国民が犠牲になったのが発端で、国王が魔術師狩りを命じる事態に。
沢山の黒魔術師が捕縛されて極刑に処され、ハリアー率いる白魔術師団がダートを打ち取った知らせが王宮に届いたのが数か月前。人々は残党の報復を恐れていたが、リーダーを失った黒魔術師たちは、もはや白魔術師に立ち向かう人数も気力も失い、散り散りになって国外に逃亡していった。
一時は流産の危機にあったフロリア王妃に宿った命は、ミレーネのおかげで無事に誕生することができ、先月一歳の誕生日を迎えた。名付け親はミレーネで、名前をアレックスという。
ちょうど季節は初夏に差し掛かり、ミレーネが見上げる木々の葉も光を浴びて青々と輝いている。王宮の庭に咲き乱れる色とりどりの花は、まさに幸福を謳っているかのようだった。
ミレーネが朝の散歩をしていると、アレックスを抱いた母がバラのアーチを潜ってやってくるのが見えた。
顔のすぐそばまで迫る大輪のバラに小さな手を伸ばしたアレックスが、摑んだ花びらをフロリア王妃の髪に散らした。
「まぁ、アレックスったら。私を花嫁にしてくれたのね。うれしいわ」
フロリアが王子のぷくぷくした頬にキスをしながら、幸せそうに笑う。ミレーネも弟の反対の頬を突っついて、私にもお花をちょうだいと催促した。
アレックスは母と姉から構われて、キャッキャッと声を上げて手足をばたつかせたので、フロリアはアレックスを落とさないように、地面に下ろさなければならなかった。
「男の子のパワーは、本当にすごいわ。ミレーネは何かに興味を持っても、私の袖を引いて連れていってと頼んだのに、アレックスは突撃しちゃうから、目が離せないのよ」
「ふふっ、外見は金髪と緑の目のかわいいエンジェルだけれど、体中に好奇心とエネルギーの塊が詰まっているみたい。アレックスがはしゃいだり、笑ったりすると、周りの大人がみんな幸せな顔になるの。厳しい状況を乗り越えて、生まれてきてくれてありがとうって言いたくなるわ」
フロリアはミレーネの言葉に真顔で頷きながらも、厳しい状況を作ったのが自分であることを嘆いた。
「まさか「幸運のお守り」に赤ちゃんができますようにとかけた願いが、シュガーケーキを食べたことで反転して、あの子の命を危機にさらすことになるなんて思いもしなかった。思い出しただけで、ゾッとするし、情けなくなるわ。ミレーネが最初に「幸運のお守り」を使うのを反対したときに、やめればよかったのにね。あなたはアレックスの命の恩人よ」
「お母さまもメルシアも、あの時はお母さまのお腹にアレックスが宿っていることを知らなかったのよ。メルシアは将来私からクイーンの座を奪うことを考えて、お母さまを敵に回さないように、お守りで心象をよくしようと考えたんじゃないかしら。本当の狙いはいつも通り、私の魔力を減退させることだったに違いないわ」
「そうかもしれないわ。もっとも今ではやんちゃな未来の王様がいるから、クイーンに執着しても意味がなかったのだけれど、ミレーネには要らない苦労をさせてしまったわね。ごめんなさいね」
ミレーネは大きく首を振った。
アレックスが最初に生まれていれば、争いは起きなかったかと考えると、そうだとは言い切れない。
恐ろしいほどに王座に執着していたメルシアのことだ、揺るがない王の冠を約束されたアレックスを蹴落とすために、魔力を奪うなどの生易しい方法で対処したとは思えない。きっと酷く危ない目にあっていただろう。
フロリアがミレーネを気遣いながら、思いもよらないことを話し始めた。
「実はお隣のトリスタナ王国のロアーナ王妃さまから、ミレーネを連れて遊びに来ないかと、招待状をもらったの」
「お母さまのはとこの方でしょ。国外へ逃げ出した黒魔術師を捕まえるのに協力してくださった親切な方よね。私も一度お会いしてお礼を申し上げたいわ」
「それがね……第一王子ルキウス殿下のお相手を探す舞踏会なのですって。トリスタナ王国の王族は魔力を持たない方ばかりだけれど、資源を活かして王国を発展させてきた先進国だから、見学すれば勉強になるわ。でも、アレックスが生まれたから、あなたを追い出そうとしていると思われたくないの。ロアーナ陛下へのお礼はまた今度でもいいから、招待をどうするか一度考えてみて。舞踏会は一か月後よ」
「だとしたら、すぐにでも返事をしなければあちらの用意に差し障ってしまうわ。第一王子のお相手ともなれば、周辺の国だけでなく、遠方の国からも年頃のプリンセスが招かれているのでしょから。そんな急な招待状を送ってくるなんて……」
ミレーネはフロリアの困った顔を見て、言いかけた文句を胸に収めた。
きっと母は、私の気持ちを考えて言い出せなかったのだろう。
「お母さま、私、招待を受けるわ。私がロアーナさまにお礼を申し上げれば、この国が礼儀を欠かさない国だと証明できるし、お母さまの顔も立てられるでしょう。ルキウスさまには興味はないけれど、先進国がどんな様子か見てみたいもの」
フロリアが優しくミレーネを抱きしめながら言った。
「賢くて優しい私のプリンセス。どうかあなたが誰よりも幸せになりますように」
「お母さま、シュガーケーキは食べていないわよね?」
「まぁ、ミレーネったら」
笑ったフロリアの目から、涙がこぼれた。
未来の国王がいる以上、王女に課せられるのは、国同士の絆を結ぶための政略結婚だ。ルキウス殿下の婚約者に選ばれると決まったわけではないけれど、もう少し家族と一緒に過ごしたいとミレーネは思った。
次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第八話 ルキウス王子との出会い(2-5)|風帆美千琉 (note.com)
